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壊れた世界の反逆者 第二部 -『管理者』不在の世界編-  作者: こっちみんなLv30(最大Lv100)
第一章:骸と魂塊の舞踏は神の所業をし、だが彼女は死を誘う
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(Epilogue) 虚虚実実

 宵闇を、燃え盛る紅蓮の炎が照らす。

 針葉樹林が取り囲む巨大な城は、天下を見下ろし、天上を穿つが如く。


「何とか、逃げられた。ありがとね、夢子」


「どういたしまして。いやはや、あの『星砕き』に追い詰められた時には、流石に死ぬかと思ったけど……まあ、私の日頃の行いが良かったのかもね」


 感謝の意を述べた美樹に、夢子は苦笑して告げる。


「あぁー、またウリエルに負けちまった……くそぅ、今度こそは絶対に勝ってやる」


「その意気込みは大切だと思うけど……今度は作戦優先で一緒に戦いましょう?」


 心底、悔しそうに落胆する新島に、慰みの表情でミシュリーヌは言う。


「だけども、今回の件で思い知ったよ。明らかに『人手不足』。他の『王下直属部隊』よりも『(まがつ)』は人員が少ないからね」


 告げる美樹の言葉に、新島以外のメンバーは顔を曇らせる。


「まあ、『総統閣下』に目を付けられてるからね。今回の作戦で兼任されたマシリフ・マトロフ殺害も、共倒れを狙っていたでしょうし」


「あー、もうっ! こんなんじゃ、命が幾つあっても足りないよ! なーにが、『強襲部隊』よ! 今回の件以外でも、特攻部隊みたいな事ばっかやらされてるし」


 美樹の言葉で、溜っていた不満が爆発する夢子。


「まあ、意味としては合っているんだけどね。そんな部隊だから『強制転移』のモノリスを授かってるわけだし……でも、流石に今回の件では、浅羽閣下に対応策を講じてもらう様に進言したくなっちゃったよ」


「いや、絶対に言おう! もうちょいと部下を案じて下さいよって、言おう! いやじゃー! こんなブラック企業!」


 苦笑するミシュリーヌの言葉に、更に憤慨する夢子は、大声で張り上げる。


「別に、俺はスリリングで良いけどな。まあ、気になるんなら、浅羽の兄貴と仲直りして増員して貰えばいんじゃね?」


「黙ってろ、新島」


「ひでぇ」


 新島の言葉で、更に夢子の内の火に油を注いだのか、夢子はドギツイ視線と言葉を新島に吐き掛ける。


「まあ、それなりの『特別待遇』を私達は貰ってるんだけどね」


 ため息を吐き、美樹は呟く。

 他の隊よりも人員は少なく、しかし、『自由が利く』という利点を持つ『渦』。

 それは、『美樹』というアウトサイダーでも『特異』の隊長を加味しての浅羽の判断であるという事を、美樹自身は知り得ていた。

 だからこそ、複雑な心境で、美樹は苦笑するしかなかった。


(どうする、美樹?)


 問い掛けるアスモデウスの言葉に、


「『我儘』が通る事を願うしかないね」


 苦い顔で、言う。


「皆を引っ張る『器』が試される時が今。私の、『世界の創造』の為に」


(そうであろうな。くく、『主』よ。成功を祈る)


「他人事みたいに。私は私であって、あなたでもあるんだよ?」


(くく。そうであったな。だが、今回ばかり『私の力』ではどうも出来ない)


「分かってる」


 不満。

 単純に、それを吐露しただけの事。

 アスモデウスにそれを言った所で何も変わらない。

 互いは、それが当てつけだと理解し、心の中で微笑する。




 金やダイヤの装飾物が取り囲む『玉座』。

 その中央に敷かれるレッドカーペットへと膝を付く美樹達。


「うむ。先ずは、ご苦労だった。『黄泉帰り』という予測困難な『因子』があるにも関わらず、無事全員が帰ってきた事を素直に褒め称えよう」


 その美樹達へ、難しい顔をして報告書を眺めていた浅羽は、顔を上げて言う。


「いえ、今回の任務を失敗してしまい……申し訳ありません」


 美樹は深々と顔を下げ、告げる。


「いい。今回は、俺の判断の失態でもある……それよりも、今は優秀な人員が不足している。君達は、今後も通常通り、他の隊のフォローに当たってくれ」


「では……処罰は?」


「無しだ」


 その一声に、後ろにいた夢子、新島、ミシュリーヌは顔を見合わせる。


「おやおや、あの浅羽閣下ともあろう方が……随分と丸くなったねぇ。以前は拷問だったり、凌辱だったりをしただろうに」


 告げる、隣にいる褐色肌を覆う黒のローブを纏う女性。

 浅羽は、サングラス越しからでも分かりそうな鋭い睨みを利かし、その女を見る。


「おぉ、怖いねぇ……どうやら、余計な無駄口は慎んだ方が良いみたいだね」


「それよりも、『機密動隊』である貴様の『(くろつち)』の成果はどうなのだ? 『キザイア』よ」


「どうもこうも、既に結果は報告書にあるだろう?」


「ヨーロッパの三分の一を壊滅させたのは充分に評価に値する。だが……こちらの損傷も激しい。もっと、『昔とは違うやり方』を出来ないものかな?」


「どうもこの老婆は時代の流れに取り残されているようでね」


「古来の習わしを踏襲するのは良い事だ。だが、それだけに囚われるのは、非常に愚かな事だろう? 若者に『老害』と言われぬ様、精々足掻け。『絶対悪を嗜む魔術師(テイスティ・ヴァイス)』」


「くく……仰せのままに」


 静かな口調で、全力の怒りを込めた浅羽の発言に、キザイアは深い笑みで答えるのみ。

 そして、キザイアはローブを翻すと、その姿を忽然と消失させる。




「……ふう」


 キザイアが消えた後、浅羽は手の内から煙草を取り出し、指先から放つ炎で火種を起こし、一吸いする。


「浅羽閣下ともあろう方が、随分と参っているようですね」


 ここまで、思い詰める浅羽を、美樹は初めて見た。

 故に、美樹は自然とその言葉を発する。


「く、くく……さぞ、貴様は気分が良いだろう? 何れ討つ相手が、この様な醜態を晒すとなると」


 浅羽の含みのある自身への嘲笑に、美樹は首を振る。


「いえ。只、『殺しやすくなった』な、と」


 平然と、美樹は告げた。


(ちょっと、美樹! 浅羽閣下に現状の改善をお願いするじゃなかったの!?)


 その美樹の様子に、慌てて夢子が小言で呟く。


「どの道、分かっている事。だけど、私も、浅羽閣下も、互いが必要。だから、共にいる。だってそうでしょう? 『私の奴隷』達も反旗を翻したら、それこそ壊滅するでしょうし」


 あわわわ、と狼狽する夢子の表情を意に介せず、美樹は微笑して告げた。

 その言葉に、浅羽は、身体が震え、声が漏れだす。


「ふは、ははははははっ!」


 後に響いたのは、大声を張り上げる笑いであった。

 まるで、先程までの自身が愚かしく、なんて馬鹿馬鹿しいのだ、と思える程に。


「全く……これだから、貴様という存在は面白い。ありがとう、最高に良い気分になれた」


 喜々とした浅羽は吸いかけの煙草を右手で握り潰す。

 すると、炎に包まれ、煙草は悉く塵となって消え失せる。


「で、改めて君達を評価しよう。『殲滅部隊』、『朧』の『掃除』、ご苦労であった。これで、あのいけ好かない『混沌』の破滅に一歩近付いたわけだ」


「ふふ、そうですね」


「『奴』がいる手前、話す事は叶わずであったからな。『天之尾羽張剣(あまのおはばりけん)』は致し方あるまい。逆に、あんな全ての陣営のバランスが崩壊する代物、使い物にならなくなって良かったかもしれん」


「ですが、同時に桐人達によって『暁』の部隊が壊滅しました。早速、新たな『王下直属部隊』を結成すると?」


「そうだな……貴様が『奴隷』にしたアダムの者と、俺がスカウトした者で幾つか『不穏分子のいない部隊』を再構成するか」


「幾つか?」


「流石だ。察しが良いな。丁度、『もう一つ消したい部隊』がある。次回の任務は『今回と同じ手筈』で行くぞ」


 先程までの重々しい雰囲気が嘘のように、互いの表情が明るくなってゆく。

 その様子に、夢子を初めとした三人は呆然とする。


「何だ、その顔は? 別に俺はこの『殺害宣告者』を嫌ってなどいないぞ。寧ろ、ここまでオープンに俺の喉元を睨み付ける存在はいないからな。退屈をしない」


「……そうですね」


 浅羽の言葉に頷き、美樹は後ろの仲間に振り変える。


「『他の隊』とは違い、私と浅羽閣下は互いのカードを見せ合い、良好な信頼を得ている。つまり、『渦』は、ある意味では『最も浅羽閣下に近しい存在』なんだ」


「そういう事だ。君達は、無茶な任務で文句が多かっただろうが……それは、君達を信頼しているからこそ、なんだ。『旧友』のいる部隊だ。愛着もあろう?」


 告げた浅羽は、新島とミシュリーヌを見やる。


「ふふ。そうですね。浅羽閣下は……そんな『非情』が常でしたからね」


「うん? 何だ、仲直りしたのか? そうか、うんうん」


 その視線に、二人は納得した笑みを見せる。


「……」


 だが、夢子だけは複雑そうな表情が覆らない。


「ですが、流石に『目標』が強敵化し、今の人員では無理が生じてきました。何人かの人員の補給をお願いします」


 その様子を見た美樹が浅羽に進言する。

 浅羽は、美樹というより、夢子の表情を観察し、口を開く。


「くく……そうだな。丁度良い。適任と思えた人材がいる」


「誰ですか?」


「このアウトサイダーで新設された『研究室』の『科学者』だ」


「『科学者』?」


「そうだ。聞いて驚け、貴様と俺と同じ『七つの大罪』を司る悪魔を宿す者だ」


 告げた浅羽は、懐から取り出した何かを、美樹に目掛けて投げ付ける。

 それを、美樹は生え出た触手でがっしりと掴み取る。


「これは……USB?」


 訝しげに見つめる美樹に、浅羽は言葉を付け足す。


「名を『ルーカス・ビヤークネス』。『怠惰』を司る『ベルフェゴール』のインカネーターだ。詳細な情報はその記憶媒体にデータが記されているから参考にしてくれ」


「『怠惰』の……? 確か、その力を持ったインカネーターは、過去、例外無く『弱小』であったと聞きますが?」


「く、くくく……それは、『器』が矮小であったからだ。こいつは……まあその中の情報を見れば分かる。貴様が手籠めにすれば、重要な戦力となるであろう」


 不敵に笑む浅羽に、美樹は顔を顰める。

 だが、


「承知いたしました。手籠めにすれば良いんですね?」


 頷き、美樹は承諾する。


「頼んだぞ。奴は、貴様以外に取られたくは無いからな」


「はい。では、他に連絡はありますか?」


「無い。あの桐人どものせいで、日本に君達の『帰る場所は無い』であろう? しばらくはこの城に泊まって行け」


「ありがとうございます。しかし……では、『ここと日本の道』は、もう閉ざしますか?」


「既に、『煌』の部隊が持つ『空間構築』のモノリスを使って、閉鎖している。何だ、あの京馬君と別れの挨拶をしたかったのか?」


「いえ。多分、京ちゃんとは……また会えるでしょうから」


「そうか。く、くく……精々、貴様の『世界の創造』の為に、それまでは共に歩もう。最も危険であり、信頼出来る『渦』のリーダーよ」


 その浅羽の言葉に、美樹は不敵に笑むのみであった。


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