Scene 58 坂口京馬という『意志』。そして決着へ
おっほっほっほ!間に合ったよ!
最終決戦終了。
そして京馬、完全チート化回です。
エレンや静子を始め、多くのチートどもがいるので、まあやっと登竜門を開いた感じでしょうか。
多分、彼女の加入は結構予想外な展開だったかも知れません。
異様な光景が、展開されていた。
一度、石が頑強な化け物へと変異したかと思えば、それは即座に元の石ころへと戻る。
そんな『万物の変異』が繰り返される場には、紫の瘴気と、蒼の輝きが絶え間なく衝突する。
「更に、『決意』をっ!」
「ふひゃ、はははっ! さあ、『不浄』なれっ!」
その力と力の拮抗は、周囲に強烈な衝撃波を生み、地を抉り、木々を吹き飛ばし、その『不浄』によって爛れる様に『溶けて』ゆく。
「ちぃっ! 埒が明きませんねっ!」
マシリフ・マトロフが呟くと同時、遠方の山々が身動ぎをし、その様相を変化させる。
「ダイダラオーム、複数を相手に出来ますかねえ!?」
「『堕ちろ』っ!」
「無駄ですっ! その前にハチの巣になりなさいっ!」
『堕天』の効力に苦しみ悶えるダイダラオーム達は、それでも京馬へとせり上がる針を向ける。
「『触れたものをアビスへと送る能力』……要するに『精神力無視』の『異次元転送』能力とはね。種が分かれば、何てことないじゃない?」
だが、その『全てを貫く針』は、突如として迫ってきた『影の海』に呑まれる。
「『影の使役者』」
艶めかしい少女の声が響くと共に、『影』のダイダラオームが大量にその『海』から出現する。
互いが、互いの針を撃ち落とし合い、まるで激しい銃撃戦の様な競り合いが始まる。
「京ちゃん……雑魚は私に任せて! 早く、あの羽虫に止めをっ!」
「ああ! ありがとう、美樹! その『感情』が更に力になるっ!」
影の海から響く美樹の声に、京馬は嬉しそうに口を吊り上げて頷く。
「ち、あんの淫魔めっ!」
美樹の妨害により、マシリフ・マトロフは強烈な激昂を表情に現す。
同時、『伊邪那岐』に突き刺さっていた群青色の鞭が頭上へと舞う。
「『天地咀嚼』!」
緑と黒の魔法陣が空間全体の頭上を覆い、邪悪を形容するかの様なおどろおどろしい『不浄』が降りしきる。
「さあ、いい加減、肉は肉らしく、とっとと腐り果てるがいいっ!」
迫る、不可避の『不浄』。
だが、
(京馬君……また、君の『蒼の意志』を感じたよ。『死』んだとしても、この『意志』のおかげで、私は不思議と心地が良い。世界の命運を君にまた託す)
(認めたくねえ……認めたく、ねえけどっ! ……手前は、強かったよ。悔しいけど、情けねえけど! でも、気付かされちまったんだよ、お前に。だから、くたばんなっ!)
「フランツさん、ヴェロニカ……」
(先ずは、安心しなさい? その羽虫は君が負けても、私がぐちゃぐちゃに叩き潰してあげる。……だけど、『示してみなさい』? 君が本当に『世界を変える』なら、それ位やってのけないと)
(流石だな。どうやら、黄泉という場の『性質上』、そこに滞留しているアストラルにも『これ』が作用されている様だ。京馬君……やはり、君と、俺は……)
(京馬君。正直に謝らせて。ごめんね。そして……頑張りなさい。君は、間違いなく、『世界の創造』に到達し得る力と意志がある)
「これは……美龍さんに、桐人さん、エレンさん、か。一体、何の事を言っているんだ……?」
(きょ、京馬……!? ちょっと、私、死んじゃったの!? 何これ? 何なん、これっ! とりあえず、頑張れ!)
「加奈子……? 何でここにいる?」
(久しぶりだな、京馬。俺だ、志藤だ。ふふ。生きているのに驚いたか? お前の事は粗方、『黄泉姫』から聞いている。ほら、さっさと俺の『想い』とやらを使うがいい)
(京馬……済まねえな。だが、それでも俺は曲げられねえ。今度は、もっと納得のいく戦いをしようぜ)
(これが、『黄泉姫』様がいったあの……私は彩乃。京馬君よね? 剛毅からよく話は聞いている。君の『世界』は、私達でも満足出来るものなの?)
「志藤さんっ!? ……それに、剛毅さんとその恋人である彩乃さん、か……!? 全部、『黄泉』に捕らわれたアストラルなのか……?」
(俺だ。美樹と共にいた日向だ。まさか、こんな所で死に絶えるとは思わなかった。こうなったら……『黄泉姫』に委ねるしか無い。元より『死』んでいた人間だ。悔いはない)
「日向……か。済まなかった。守れなくて」
瞬時に、京馬へと注ぎ込まれる『想い』達。
「な、何だとっ! あの『不浄』に包まれ、何故、あんなに平然としているっ!?」
それらは、マシリフ・マトロフの放つ『不浄』を跳ね除け、京馬は驚愕するマシリフ・マトロフへと剣を勢いよく振り上げる。
「ぐ、ああっ!?」
それは、初めてマシリフ・マトロフ、基、『伊邪那岐』へと到達した一撃であった。
血飛沫を上げながら、マシリフ・マトロフは叫び挙げる。
「ふ、ざけるなよおおおおぉぉぉぉっ!? この、肉片がぁっ!」
マシリフ・マトロフは『元の顔』である少女の表情を激しく歪ませる。
「『過負荷駆動』っ!」
強烈で鮮烈な紫の閃光が迸る。
その閃光の中心、マシリフ・マトロフは妖しく微笑する。
「く、くく……! さあ、滅べ滅べ滅べ滅べっ! 絶望に顔を歪ませ、恐怖で悲鳴し、深い『負』により絶命するがいいっ! それこそが、我が混沌の念願! 『万物腐食因子』!」
狂気の高笑いをし、マシリフ・マトロフは『天之尾羽張剣』を頭上に掲げる。
「ふひゃ、ふひゃははははっ! さあ、神剣よ! その力の限りを、『破滅』に注ぎ込むがいいっ!」
マシリフ・マトロフが告げると、『天之尾羽張剣』は周囲を、紫の閃光をも強烈な燈色の発光で埋め尽くす。
それは、時空でさえも『腐食』させる『最強の破壊因子』であった。
マシリフ・マトロフを中心に徐々に肥大する『腐食』は、高天原そのものをベリベリと引き剥がす様に、消滅させてゆく。
(嘘でしょうっ!? ……こいつ、自分毎、『ここを含めた京馬君の世界を消滅』させる気だわっ!)
鬼気迫るガブリエルの声が、京馬に響く。
マシリフ・マトロフが放つ、この『万物腐食因子』。
それは、『天之尾羽張剣』から発せられる事から、その『神器』を介した『神の樹から抽出した精神力』による『世界崩壊レベル』の強烈なエネルギーを擁する力である。
だが、京馬がガブリエルから読み取った知識は知っている。
その力の発生源であるマシリフ・マトロフは、無理矢理に『伊邪那岐』と繋ぎ止められている存在故、その強烈な力に耐えられる程の頑強さが無い事を。
「そんなに、自分を犠牲にしてまでっ! お前は何で『這いよる混沌』に縋るっ!?」
周囲の『想い』を背に、自身の『想い』を前面に出し、京馬はマシリフ・マトロフに叫び挙げる。
(何言ってるの! こんな狂人に、説得は無駄よ!?)
「だが……俺は、知りたい! 何故、あんたは『破滅』を願う! ……自分という存在を『否定』するっ!?」
『万物腐食因子』は、京馬と人々の『想い』による強大な『堕天』と拮抗し、だが、徐々にその浸食を拡げてゆく。
それらは、京馬の節々へと近づき、その体を『腐食』させてゆく。
だが、それでも京馬はマシリフ・マトロフに問いたかった。
『自身が受け取った目の前の狂人の想い』を、『見てしまったから』──
「『否定』? 何を言っている? 私は、私は……あの方にその身を捧げるのが務め──」
「ふざけるなっ! 『只の人間』が、そんな妄信の考えになる訳が無い!」
「この『アストラル体』が人間だと? 世迷い事をっ! この肉片がっ! 消え去れ!」
だがマシリフ・マトロフの嘲笑を無視し、京馬は首を何度も振るった。
そして、苦悶の表情で叫ぶ挙げる。
「お前は、『只の人間』なんだよ! 『マリエ』!」
瞬間、世界は蒼で埋め尽くされる。
『マリエ・クオランティ』。
彼女は、古代ペルシア時代に生まれた、ごく普通の村の少女であった。
彼女が見つけた偏方二十四面体の妖しい輝きを放つ黒色の物体。
その闇の輝きに心を奪われた少女は、深淵を覗き込み、そして覗かれていた。
「あ、ああ……! これは、何ですか!?」
少女の驚愕と共に、世界に現れた『闇をさまようもの』は、次々と村の人々をその体に取り込み、不定系の四肢と触手を天へと仰ぐ。
次々と吐き出された村の人々は『その身体を変異』させられていた。
「whrncikv」
告げる、解読不明の言葉は、少女に語り掛ける。
言語は分からずとも、少女はその『混沌』の真意を理解していた。
『有機生命体変性試験』。
その『混沌』は酔狂な試みを、只楽しんでいるだけであった。
そして、それらが引き起こす破滅の物語を愉悦として楽しもうとしている。
『協力してくれるか? 我が父の欠片にも満たぬ肉よ』。
そう告げる、形容しがたき異形の神。
父も、母も、弟も──全ては『そうであったもの』と成り果てた。
彼女は、錯乱した精神を保つ為に、その犠牲を認識することが出来なかった。
「そうだよね……これは『美しい』んだ……! 私は、この『混沌』が好きなんだ!」
少女は、只、屈託なく笑い、その異形へと『崇拝』をする。
「ああ……私の愛しい『ニャルラトホテプ』様……!」
年端もいかない少女は、そう、『その存在』を肯定せざる得なかった。
『混沌』に魅了された少女は、既に『人』を『有機物の肉』としか認識出来なくなっていた。
只、『混沌』の『愉悦』の為に、彼女は先ず、その『変異した有機生命体』で多くの研究を行った。
そして彼女は、その研究の果てで『アストラル体』となり、当時の『アダム』と『天使』と対峙し、そして『この世界』から身を引いた『アビスの住民達』、『ゾロアスター』の存在と共に『アビス』へと赴いた。
数多くの超常が巻き起こる『世界の基盤』とも言える世界に、彼女は漂い、そして再び元の世界へと返ってきた。
──その時には既に、『彼女は彼女では無くなっていた』。
只、劇的で、美しい『破滅』を望む、壊れた存在となり、世界を舞う。
「分かるかっ!? 違うんだよ、違うんだっ! お前は、そんな事を望んじゃいない! 本当は、只、家族と、友達と、笑いあって、生きている事を望んだ……只の人なんだよ!」
その追憶は、京馬が『蒼穹の審判』を発動した時に垣間見た目の前のマシリフ・マトロフ──否、『マリエ』が見せた断片の『想い』によるものであったのだ。
「う、うぶ、ぐ……はあ、はあ」
京馬が彼女の『本来の名前』を叫ぶ度、マリエは吐き気を催し、眼の焦点が合わなくなる。
「や……止めろ! 私は……そんな、名では無いっ!」
「いい加減……認めろ! 俺は、『あんたも』救いたいんだっ!」
「穢わらしい、『蒼』めっ! さっさと、『不浄』されろおおぉぉぉぉっ!」
更に、強烈に勢いが増した『万物腐食因子』は、京馬の皮膚を溶かし、その肉髄を露出させてゆく。
「う、あ、あああぁぁぁぁぁっ!」
途轍もない、抉り千切られる痛みが京馬を襲う。
だが、
「こんな、もの……! 俺は、いつだって耐えてきた……! 『世界を変える』為に、乗り越えなきゃ、ならないんだあああぁぁぁぁっ!」
京馬の強い『決意』は、それでも京馬を立ち続けさせる。
(『蒼』が伝わる……『天の声』さんが見せてくれた、あの綺麗な輝きが……!)
ふと、声が京馬の精神の奥底で響き渡る。
(君も、私も、『想い』を胸に、戦っている……その『意志』は、こんな理不尽なシナリオに屈服させられる訳にはいかないよね?)
「……静子さん、ありがとう!」
(京ちゃん……ごめんね。私の不手際だった……! だから、私の思い切りの『想い』を届ける! そして、京ちゃん……信じて。私は、いつでも、あなたを愛しているからっ! だから、戦っているんだという事をっ!)
「分かっている! 美樹!」
(京馬君……私が埋め込んだ肉片のおかげかな? 遠くにいても、その想いが聴こえるよ! ……だから、分かるんだ。京馬君が、今、『その娘』を助けようとしてるんだって! さあ)
[咲月……! これは……?」
瞬間、京馬の『壊れた世界の反逆者』を握る腕に、腕が重なる。
「さあ、一緒に戦おう! 私の、『想い』も共に!」
それは、幻影だろうか?
京馬の横に沿う様に、半透明な咲月の影がちらつく。
途端、京馬の『論理』に変化が起こる。
『お前は、お前であって俺でもある。力を振るい、記せ! 示せ! 己が道を──人の道を!』
響き渡る『イース』の英雄──『自分の言葉』。
それは、新たな京馬の『力の開花』の瞬間であった。
「……! ああ! 行くぞ! 皆!」
(ええ。京馬君……いいえ、このガブリエルの『一翼』よ! その『想い』を更に!)
同時、全ての『想い』が首を縦に振り、肯定したかの様な錯覚。
京馬は芯とした蒼の瞳を目の前の哀れな少女へと向ける。
「想いの更に限界へ──『奔流駆動』! 『想いの奔流の一撃』っ!」
蒼の波動が更に、強靭、強大に。
渦巻くその煌きは逆巻き、世界を埋め尽くす膨大な熱量を放つ。
「ふ、ああ、あああああぁぁぁっ! 馬鹿な、二度目の『過負荷駆動』だとっ! この、力は……!」
「お前の、『伊邪那岐』も……『混沌』の束縛もっ……! 俺は、断ち切り、『救って』みせる!」
「う、あぁああぁあっぁぁあっ! や、止めろ……お前は、どうして」
『マリエ』が放つ『万物腐食因子』は、膨大な想いを前に、徐々に燈色の氣を薄め、霧散してゆく。
同時に、憎悪に塗れた『マリエ』の表情は、悲しげな少女の顔となり、その目尻からは滴が零れる。
「どうして、私を、あらゆる非道をした私を、救おうとするの?」
「俺の、性分だ」
「馬鹿だよ……死んでも許されない大量虐殺者なんかを……!」
「だからだ。お前は、生き抜き、償う必要がある。潔く死なせて溜るか」
「こんな、私が……償う?」
「俺の『世界の創造』の礎の一つとなれ! ……死ぬのは、その後で良い」
「ふ、ふふ……この『偽善者』め」
「その言葉は……聞き飽きた」
告げ、京馬は蒼の剣を振るい切る。
放たれた蒼の極光は、轟音と共に、世界を染め上げた。
世界の破滅を望む者と、世界の救済を望む者の勝敗が決した瞬間であった。
またまた補足。
『奔流駆動』。
京馬にのみ許される『特殊技能』です。
京馬の『想い』が激烈最高潮の時に発動出来る『過負荷駆動』。
格闘ゲームで言えば、ゲージ無視で超必殺技が発動出来るという贅沢な能力。




