Scene 49 集いし者達
昨日に引き続き、連続投稿になります。
今章の最終決戦の場へ集結する一同。
各々の心情が語られます。
次回からクライマックスまで突っ走りますかね。
ウリエル……?
いいや、忘れてませんよ?
「『おじいちゃん』……静子……」
京馬がラジエルのおかげで力を取り戻したその数分前──
ゼウスを宿したデメトリアを下したエレンは、黄泉の最深部へと身体を雷へと変化させて進んでいた。
しかし、異様な輝きを放つ『神血晶』に惹き寄せられる様に興味を抱き、徐にその結晶に手を触れた瞬間──自身の想い人である桐人の『前世』と静子の恋物語を見せられる事になる。
「これじゃ、私がお邪魔虫みたいじゃない」
嘆息し、エレンは呟く。
「まあ、『悪役』に徹するのも、悪く無いかもね」
自嘲した笑で告げるエレンは、しかし、その表情に落胆も、悲哀もない。
「確かに、強力で……正直、嫉妬しちゃうぐらい『二人の愛は深かった』わ。でもね? 私だって、同じなのよ。『おじいちゃん』じゃない。私は、『桐人』を見ているの」
グッとエレンが握り締める拳には、バチバチと雷撃が舞う。
荒々しく舞踏する雷は、エレンの力強い『意志』を形容するかの如く。
「私は、私の『想い』を……ぶつけるだけよ」
眉尻をきつく締め付け、エレンは再度、身体を雷へと変化し、静子の待つ最深部へと移動する。
宵闇とした『黄泉』の最深部の中、その『闇』を波打つ様に進む『影』が進む。
「この『影の隠匿者』にとって、ここの『闇』は好都合だね」
進む『影』から漏れ出るは、妖艶を漂わせる美樹の声。
否、それだけではない。
「それにしても、随分と前よりスピード速くなったね!?」
「うわぁ……なんかヌメヌメする……つか、あんれ? さっちん、この『影移動』経験済み?」
咲月、そして加奈子の声も響く。
水面から飛び出る鮫の尾ヒレを思わせるか如くの地から突き出た『影』は、辺りそこかしこの『神血晶』の輝きを霞ませるほどの超速で突き進む。
「『影』の中に触手を這わせる事で滑り易くして、ローラーみたいに加速してるんだよ。うふふ、このぬめり……私は気持ち良いと思ってるんだけど。ローションみたいじゃん?」
淫靡に甘い声で告げる美樹の言葉に、加奈子が表情を引き攣らせる中、
「へえ、ローションってこんな感じなのかぁ……」
対し、咲月は物珍しそうに触手を弄る。
「ちょ、さっちん! 何やってんの!?」
「い、いやあ……何となく」
ははは、と苦笑いをする咲月を、美樹は影の中で睨み付ける。
殺意を『氣』に纏った圧倒的な威圧に、加奈子は急激に表情を青ざめるが、咲月は何事も無く焦燥としてあたふたとする。
「何よ。京ちゃんとのプレイのレパートリーに加えたいと思っているの?」
「い、いや……というか、京馬君と私はそこまでいってないしっ!」
告げた後、はっと口に手を当てて、咲月は赤面する。
「そう。ピュアなのね、咲月ちゃんは」
ほっとした安堵のため息を漏らし、美樹は呟く。
「ふん。分からんな。女の癖に、想い人を脇に、『色欲』を嗜むとは。何故、貴様の『色欲』に俺が堕とされたのか」
そんな三人の様子を見ていた日向は呟く。
その日向に、美樹は微笑み、告げる。
「それは、あなたが少しでも『愛』を持っているからだよ」
その美樹の言葉に、日向は何も返せなかった。
『誘惑の奴隷』。
『色欲』を宿す美樹の真骨頂にして、アウトサイダーで最も危険視されている能力。
それは、例え美樹の外見に興味を持たない『好み』であっても、絶大なフェロモンと幻覚によって、『美樹の配下』に置かれる可能性がある為。
精神力が増大した美樹の手にかかれば、大抵の男性──果ては女性までも手籠にしてしまう強力な能力。
「やっぱり、さっちんは京馬にぞっこんラブなんだね。もう、友人の一人としてむず痒いよ! 今回の件が終わったらさっさと告っちゃいなよ」
「いや、いやいやいやっ!? 私と京馬君と美樹ちゃんにはちょっと、複雑な、ふかーい訳があってだね──?」
そんな美樹と日向を尻目に、咲月と加奈子は恋愛事情について語り出す。
殺し合いの最中であるに対し、この四人は穏やかな雰囲気の中、目的地まで突き進む。
「ふ、ふひゃ、はははっ! 滾るっ! 滾りますよっ! ふふふ、良い『喰い物』が沢山あり、最高の気分ですよっ!」
同じく、宵闇を咲月達の後追いする様に、一人の青年が『飛翔』する。
蠅の両翅を羽ばたかせ、襲い来る『醜女』を、一人、また一人とその『氣』によって『腐食』させてゆく。
「ふっひゃはははっ! 夜和泉静子……浅はかでしたね。私は、『精神』を貪り、自身の糧にする事も出来るのですよ! 『協力者』だか何だか知りませんが、『一般人』とこの『醜女』共の様な『下等な存在』を配置したのが、このマシリフ・マトロフの企みを助長する嵌めになったのですっ!」
返り血を浴びながら、マシリフ・マトロフは口元を深々と吊り上げる。
「『亡骸』は、必ず頂きますよ……この『私の身体』として」
告げる、マシリフ・マトロフの眼に映るは、自身が『崇拝』する『異形』、その姿だけであった。
「あの『サイモン』……そして、『坂口京馬』っ! 私は認めません……そして、認めさせて貰いましょう。私こそが、『物語』を彩どる最高の存在だとっ!」
ギリ、と拳を握り締め、マシリフ・マトロフは宵闇を駆け上がる。
「ち、また雑魚軍団かよっ! 『残酷伯爵の宴』!」
宵闇を爆炎の閃光が撒き上がる。
その爆炎から飛び出る様に、浮かび上がる二人の人物。
「『メイザース・タブレット』……流石、試作を経て作製しただけであるな。ここまで即効性があるとは」
「フランツの旦那っ! 上から来るぜ!」
「ふん。大丈夫だ。こんなゾンビもどき……私の『イナゴ』を散らせば、何て事は無い」
ヴェロニカの叫びに、フランツは口を吊り上げる。
「『大雑把な災禍』」
緑の巨大な魔法陣が周囲に展開したかと思えば、黒々とした雨が降りしきる。
否、それは小さな『イナゴ』の群であった。
二人の頭上から襲いかかろうとした『醜女』の軍勢は、そのイナゴに触れる事によって絶命し、消滅してゆく。
だが、そのフランツの立つ地面が僅かに盛り上がり、おぞましい腕の群がフランツの足を掴む。
「もう、貴様らは『解析』した。どんな手を使おうが、無駄だ」
告げたフランツの身体全体を包む緑の甲冑も、湾曲させる異常な握力。
しかし、フランツが両手に発現させた錐の様な長細い爪によって、容易く腕の群は裁断される。
「っくそ。こいつらの相手しながら『美龍』を探す嵌めになるとはな……『アストラル・リサーチャー』にも反応しねえし、一体どこの『結界』にいやがるっ!」
「分からん。だが美龍が敵の手に落ちる事は考えられん。それ程に、『SSクラス』という存在は馬鹿げた存在だ」
駆け続け、フランツは怯える様な震える口元を抑えて告げる。
「まあ、あの『織田』でさえも『Sクラス』だ。あたいもそれは分かっちゃいるよ」
ケッと、面白く無さそうにヴェロニカは舌打ちする。
「だからこそ……『総統』は今回の作戦に美龍を投入した。逆に言えば、『総統』並みの強さを持った美龍がいないと、今回の件を解決するのは難しいと判断したのだろう」
「あ? だが、美龍は当初、桐人の監視役って話だったろ?」
「お前は、あのお方を舐め過ぎだ。そんな単純な理由だけであの美龍を投入させる訳が無い。常に『総統』は三手、四手、考えておられる」
「へっ! そりゃ、頭が良いこって」
「だからこそ、私は『諦めてしまった』のだがな……」
顔を伏せ、呟くフランツに、ヴェロニカは首を捻る。
『美龍』を探す二人は、徐々に静子がいる空間へと近付いてゆく。
「どう? この『稲田神社』は? 落ち着くでしょ?」
紅葉が辺りを埋め尽くす空間。
その中央にぽつりとした神社がある。
その先に続くは長々と続く階段。
僅かに見える大門の威厳は、遠方にいる『彩乃』と『美龍』にも伝わってくる。
「現実世界にも同じ神社はあるの。だけど、ここはその『オリジナル』の地。『奇稲田姫』の『捕縛結界』なの」
階段を一段ずつ進んでゆく彩乃は、両手で気を失った夢子を抱える。
その彩乃の後に続き、美龍も階段を登ってゆく。
「それで、そこと『黄泉』へと通じる道を設けたのが、その扉というの?」
その美龍の問いに、彩乃は頷く。
「そう。『幾何学世界に通じる扉』と呼ばれる、『淵黄泉』にあった土産物……って『黄泉姫』様は仰っていた」
「『幾何学世界に通じる扉』……?」
彩乃が告げた扉の名称に、美龍は首を傾げる。
「何でも、私達がいる世界には只、一つ。そして、他の『枝世界』に一つあるか無いかの貴重なもの……って、『黄泉姫』様が『天の声』さんから教えて貰ったって言ってた」
「アダムの情報開示が最高レベルの私でもそんなもの聞いた事無いわ」
「そうなの? だったら、私は結構『黄泉姫』様に気に入れられたのかもね」
ふふ、と微笑する彩乃は、捕縛結界の疑似太陽で照らされ、その髪に刺さる『櫛』を輝かせていた。
「ところで、その『櫛』で差されたその子……死んではいないって言ったけど、一体何をしたのかしら?」
徐に彩乃に抱き抱えられる夢子を指差して、美龍は問う。
「ああ、そうね。私は、争う気は無いし、教えましょうか」
美龍が止めを刺そうとした夢子を一瞬で気を失わせた謎の力。
それは、もし美龍と彩乃が対峙する事になった場合、厄介な代物になるかも知れない。
尤も、美龍はこと戦闘に置いて彩乃に戦慄している訳では無い為、単純な興味が大部分を占めている訳だが。
「この『湯津爪櫛』に宿る『奇稲田姫』の能力。それは、『櫛を刺したものの自在に強化、衰弱させる』。まあ、私の少ない精神力じゃあ『自在』と言っても、『衰弱』は相手の精神力が強いと制限掛かる訳だから、美龍ちゃんみたいな強い人には効き辛いかな」
「そう、ね。成程、日本神話の伝承にある『八俣遠呂智』は決して『素戔男尊』一人によって倒された訳では無かったのね」
「うん。だから、私はこの力を使って、少しでも剛毅の助けになれる事を望んでいるの。そんな『私だから』、『奇稲田姫』も認めてくれたのね」
彩乃は、幸せそうに微笑む。
美龍は思う。
敵意も何も感じ得ない、只只、『普通』としか思えない彩乃という自分とうり二つの顔を持つ少女。
だが、その奥底には、何故だか強い『意志』が身を潜めているかの様に感じる。
「これが、剛毅の……」
好いた人だった。
納得と共に、美龍の精神はざわつく。
自分でも分からない。
だが、インカネーターでの戦闘による精神の損傷とは違う、ちくりとした精神の痛みに、表情を曇らせる。
「さて、着いたよ」
気が付くと、扉の前に立っていた。
『気が付くと』――それは、常に死線を潜り抜けていた美龍にとっては、思いもしない現象であった。
自分の『何か』の変化に動揺するが、美龍は唇をぎゅっとして、
「では、行きましょう。でも、良いの? 私は、もしかしたらあなた達の『姫様』を──」
「構わない。だって、『黄泉姫』様には誰にも勝てないから」
凡そ、断言とした口調に、美龍は思わず息を呑む。
それほどまでに、『黄泉姫』──夜和泉静子は強大なのか。
この『SSクラス』である美龍よりも。
「そう」
戦慄を覚え、だが美龍は一言だけ告げ、開かれる扉へと進む。




