Scene 48 坂口京馬が望む『世界』
久しぶりの投稿になりますが、ちょいと短くなりました。
丁度良い区切りだったんです……
で、割烹でも報告しましたが、会話文などの合間に改行をする事にしました。
ちょこちょこ修正予定です。
『神血晶』を介し、京馬の精神に直接、注ぎ込まれる英雄と巫女の『物語』。
頬から涙が伝う。
表情は能面そのもの。
しかし、京馬から溢れる悲哀の感情は雫と共に、流れ出る。
「はは、どうやら静子……予想通りに桐人を捕えたようだね」
その京馬の背後、興味深く笑いを挙げる少年の声が響く。
「これは、何なんだ?」
「『伊邪那美』となった静子が、『神血晶』を媒体として流した『追憶』さ」
少年──『ラジエル』は告げる。
「これは、裏の裏の真実。アダムでさえ知らない『英雄』の末路と、夜和泉静子という乙女の『信念』の根源。儚くも、希望に満ちたお話さ」
「これが……静子さんの、『求めていたもの』か」
「そうさ。だが、悲しくも静子が『リチャードであった』桐人と長い長い年月の後に出会った時の反応……君も見ただろ?」
「ああ……」
京馬は首を縦に振る。
その時の桐人の味気ない反応は、どれ程、彼女を傷付き、悲しみに暮れさせたのだろう。
「絶対と信じていた『想い人』との固い『誓い』。それは、いとも容易く打ちひしがれた。そうなった人間は、脆い。だが、彼女は君と同義の『現人神』。超常とした精神を持つ彼女は、未だ諦めていないし、『壊れてなどいない』」
「『死と生が調和する世界』は……静子さんが、はっきりとした『意志』で目的とした行動……と、言いたいのか?」
「それだけでは無い。その目的を前にした彼女は、下手したら、君が打ち倒した『ケルビエム』以上の恐ろしい敵である可能性があるのさ」
「それは、承知の上だ」
「そうか。だが、その『信念』を……彼女の『世界を壊す』事を、君は出来るのか? 全ての人の幸せを思い描く君が」
「……壊して見せるさ。そして、成就もしてやる」
「ふふ、ふふふふ! 断言しようっ! そんなご都合な方法は、有限が限りを尽くす『全ての世界』には無いっ!」
「それでも、『世界の創造』なら……」
「『無い』と言っているのだ。はっきり言おう。『君の世界は、君の世界』だ。それは、ある意味では人々の『想い』を踏み躙り、踏ん反り返る横暴なんだよ!」
ラジエルの言葉に、京馬は言葉を失う。
知っている事ではあった。
自分のやろうとしている事は、『偽善』であるという事を。
京馬の描く『世界の創造』。
それは、優劣を無くし、全ての人々が平等に生きる世界。
境遇や、生まれ持った性質を平坦とする平穏な世界。
だが、それは言い換えれば、『人格の損失』とも取れる。
色々な『想い』を抱き、その『想い』を焦がれ、渇望する精神までも『平等』にさせる世界は、人を『自分の様な機械』に変貌させてしまう。
「だが──そんなものも、『とうに知っている』」
ラジエルの言葉の『全て』に頷き、京馬は口を開く。
「だから、俺は皆の個性──『精神』を創造した世界に招こうと思っている」
「それこそ、本末転倒なんじゃないか? 人とは……いいや、生物とは元は『罪』を持つ存在。その『罪』は『罪』であると同時、その『精神そのもの』だ。そんな精神を持ってきた所で、人は否が応にも優劣を決める羽目になる」
「それを緩和させるシステムとして──『管理者』である俺が、働けばいい」
その京馬の言葉は、彼が『世界を天使から救った後』に、思慮していた事であった。
全ての人を真の意味で救いたい。
だが、自身が好く全ての人の『人格』──『想い』は、その世界で保てるのであろうか、と。
そこで、京馬は考えた。
全てを満たす上で、犠牲──否、そんなマイナスなものではない。『必要なもの』、それが何なのか。
打ち立てたのは、自身の『責務』である。
世界を造り、その世界を愛し、尊い、自身の全てを捧げる。
それこそが、様々な人の『想い』の上で立つ事への『責務』であると。
『人は何かを得る時、何かを失う』。
それは、京馬の恩師であり、共に世界を救ったもう一人の『英雄』、サイモン・カーターが告げた言葉であった。
その言葉が、京馬をその『解答』へと至らせたのだ。
「うん。良い答えだ。だが、それでも君が人々の『願望』を駆り立てる『想い』を踏み躙る事には変わらない。かつての仲間が激情し、今回のように敵となるであろう。その事を弁えているかい?」
「勿論だ。確かに……剛毅さんとの一戦は躊躇した。俺も、まだまだ『甘い』事は理解している。だが、『努力』し、『殺さずに』乗り越えてみせる」
「ははっ! そりゃあ、今眠っているガブリエルが起きたら、やかましくなりそうな解答だね? しかし、どうしようもない、抗いようもない戦闘もあるだろう。その時は?」
「それでも、抗ってみせるさ。それで、無理だったら……俺は、そこまでの人間だったんだろう」
「ふふふ、根性論だね。だが、間違いではない。いや、『世界を変える』という『代償』には妥当な判断だ」
満足気な声を響かし、ラジエルは笑う。
「それでは、最後に問おう。……君の『信念』の一つ、『美樹』についてだ」
そのラジエルの言葉に、京馬の『想い』は精神の奥底で僅かに揺らぐ。
「君は……その『世界の創造』の中で、彼女をどう『扱う』?」
ラジエルが問う声色は、先程よりも鋭利なものとなっていた。
京馬をグリグリと抉る槍先の様に鋭い声で、静かに問い掛ける。
「美樹は……俺と共に、その責務を果たす『番い』として『世界』に置くつもりだ」
「『番い』……? ああ、そうか。あの『天使』どもの様に、役割を与えた『アビスの住民』とするのか。ふふふ、はは、はっはっはっはっ!」
京馬の言葉に、ラジエルは面白可笑しく、声高に笑い上げる。
「それこそは、最もな『信頼』……いいや、『愛』が無ければ到底叶えられない所業だよっ! く、くく……成程ね。だから、『君と彼女』は争うんだね。その『信念』を衝突させ、その先の互いの『理解』と『愛』の為にっ!」
先程とは、打って変わり、今度は感嘆な声色でラジエルは告げると、背後から京馬の腕へと手を伸ばす。
「『合格』だ。救世主さん」
京馬の耳下で囁き、ラジエルはその手に白と青の魔法陣を発現させる。
「『全知全能の智』よ! 彼の者の『根源を繫げよ』っ!」
眩く、青白い粉雪が周囲を舞う。
それらの一粒、一粒が、京馬の中へと入り込んでゆく。
(うん……? えっ? 繋がるっ!? もしもし、京馬君、聴こえるっ!?)
同時、京馬の奥底で眠っていた『ガブリエル』が目を醒まし、声を荒げる。
「ああ、聴こえる。力が、また漲ってくる」
完全に『死』によって切断されたであろう『異能』の力との『繋ぎ』が、しっかりと整備される感覚がする──京馬の『アビスの力』が再び滾る。
「おめでとう。流石だよ。僕がやったのは、静子の『死』を直したわけじゃない。そことはまた別の『繋ぎ』を再構築したに過ぎない。瞬時にそこから力を復活出来たのは、君とガブリエルとの深い信頼と、君の強固な精神力のお陰だ」
囁く、ラジエルの声は段々とか細くなってゆく。
京馬がお礼を告げようとした矢先、割り込む様に、ガブリエルの荒げた声が響く。
(この反応、ラジエルっ……!? ちょっと、待ちなさい! あなたには、聞きたい事が沢山……!)
「それでは、健闘を祈るよ。『管理者殺し』」
だが、ラジエルはその一言だけ告げ、その『反応』を忽然と消す。
「落ち着け、ガブリエル」
(落ち着けもあったもんじゃないわ! 京馬君も知っているでしょう!? あいつは、『全てを識っている』の! 私達の『求めるもの全て』に関して、彼は知り得ている! その知識さえ貰えれば、目指すものがグッと近く……!)
「大丈夫だ、ガブリエル。『今』必要とするものは、貰って来たさ」
精神の中、いつもとは違う、喚き散らす様なガブリエルの声に京馬は驚愕するも、宥める様に告げる。
「済まない。ありがとう、ラジエル」
未だにどういう意図があり、京馬に問い掛け、助けたのかは分からない。
だが、その行動は善意であると、京馬は直感する。
ラジエルは京馬の力を取り戻してくれ、更には──
「この『想い』、より強くなったよ」
その言葉が、より京馬の『信念』を奮い立たせてくれたのだ。
自身に巻き付けられた神血晶を噴出させた蒼の『氣』で壊し、京馬は動きだす。




