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『悪役令嬢は破滅の運命を買い取り、世界を支配する  作者: 谷本遥叶


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第31話 第三の選択



【選択まで――二十秒】


アリアは二つに割れた銀の鍵を見つめた。


右の鍵を選べば、現在の世界が残る。


左の鍵を選べば、世界の外側が復元される。


どちらかを救えば、もう一方は消える。


『選べ、アリア』


レオンの身体に潜むオルディスが、愉快そうに囁く。


『すべてを救おうとする者ほど、最後には何も守れない』


白い亀裂の向こうでは、クロードが無数の黒い腕に拘束されていた。


「私を選ばないでください」


苦しそうに言いながらも、彼の手はアリアへ伸びている。


その背後には、歴史から消された者たち。


彼らもまた、生きる未来を奪われた被害者だった。


一方、アリアの背後には現在の王都がある。


レオン。


アルベルト。


イリス。


そして、何も知らずに暮らす大勢の人々。


【残り十五秒】


「どちらかを犠牲にしなければならない……」


アリアは小さく呟いた。


その瞬間、契約書が震える。


【二つの未来は同時に存在できません】


【世界の容量を超過します】


「容量……?」


アリアはその言葉に目を細めた。


世界が二つの歴史を保持できないから、どちらかを消す。


ならば問題は、命でも運命でもない。


世界を収める“場所”が足りないだけだ。


「だったら、作ればいい」


『何?』


オルディスの笑みが消えた。


アリアは二つの鍵を重ねる。


しかし鍵は反発し、激しい火花を散らした。


アルベルトが叫ぶ。


「やめろ! 二つを同時に使えば、世界の境界が完全に崩壊する!」


「境界があるから、内側と外側に分かれるのよ」


「境界を消せば、双方が衝突する!」


「消すんじゃないわ」


アリアは重ねた鍵を契約書の上へ置いた。


「新しい世界を買うの」


【残り十秒】


契約書に黄金の文字が浮かび上がる。


【取引対象――存在しない第三世界】


【価格――算出不能】


『存在しないものは買えない!』


オルディスの声が響く。


「いいえ」


アリアは冷たく笑った。


「私が買ってきたのは、いつだってまだ存在しない未来よ」


彼女は自らの指を切り、血で契約書へ条件を書き加える。


【現在の世界と外側の世界を統合】


【双方の歴史と存在を保持する】


【新世界の所有権は、そこに生きるすべての者へ分割する】


契約書が激しく燃え上がった。


【代償が不足しています】


当然だった。


一つの世界を新たに生み出す。


これまでの契約とは規模が違う。


アリア一人の命でも、魂でも足りない。


【残り五秒】


「私たちの存在を使ってください」


白い亀裂の向こうから、幼い少女が言った。


英雄のために犠牲にされた少女。


その隣で、悪王にされた老人も頷く。


「我々は世界へ戻りたい」


「だが、今を生きる者たちから未来を奪いたいわけではない」


外側の者たちの身体が光へ変わっていく。


彼らは自分たちの怒りも、記憶も、存在も、契約の代償として差し出し始めた。


「待って!」


アリアが叫ぶ。


「それでは、あなたたちがまた犠牲になる!」


「違う」


クロードが黒い腕を引きちぎり、立ち上がった。


「今度は、私たち自身が選んだのです」


その言葉とともに、現在の世界からも無数の光が集まり始めた。


王都の民衆。


騎士たち。


レオンさえも、自らの魔力を差し出している。


【必要代償を確認】


【第三世界の創造を開始】


数字がゼロになった。


二つの鍵が溶け合い、一つの透明な鍵へ変わる。


アリアがそれを回すと、世界中の白い亀裂から光が溢れ出した。


大地が揺れ、空が二つに割れる。


現在と消された過去。


二つの歴史が重なり、新しい世界へ書き換えられていく。


『認めない!』


オルディスがレオンの身体から黒い影となって飛び出した。


『私の世界だ! 私だけが管理する世界なのだ!』


アリアは透明な鍵を向ける。


「もう管理者はいらないわ」


黄金の光がオルディスを包み、その身体を消し去っていく。


だが消滅する直前、彼は不気味に笑った。


『愚かな娘よ』


『第三世界を作れば、“あれ”が目覚める』


「何のこと?」


『世界が分けられていた本当の理由を、お前は知らない』


オルディスが消える。


同時に統合が完了し、アリアは新たな王都の地面へ倒れた。


「アリア様!」


今度は確かに、クロードが彼女を抱き起こした。


白かった瞳も元に戻っている。


「……おかえり、クロード」


「ただいま戻りました」


ようやく二人が再会した、その時だった。


新世界の空に、巨大な亀裂が走る。


亀裂の向こうから、黄金の瞳が世界を覗き込んだ。


契約書の表紙に、見たことのない警告が浮かび上がる。


【世界統合により、最終封印が解除されました】


【世界捕食者――覚醒】


そして空の向こうから、神のように巨大な声が響いた。


『三つ目の世界が生まれた』


『これで、ようやく喰らうことができる』

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