戦友。
古い病院を利用したイスロ本部建屋の地下は廊下が狭く、人二人がすれ違うのがやっとの幅だった。
元々薬剤室や貯蔵庫として占めていたのがわかる地下の建造だ。
廊下の照明も薄暗く、それが日向を時折すれ違う兵士の目から欺くことにも貢献してくれた。
そのようにして二人は、病院の裏口にあたる出入り口に辿り着いた。
警備兵が一人椅子に座っていたが、軍服姿の二人を一瞥するだけで、直ぐに読んでいたポルノ雑誌のグラビアに目を戻す。
外は、樫の木の生い茂る林が広がっていた。
建屋から出て暫く歩き、バヤルは周囲を見渡してから日向へ向き直る。
「(こっちの方角が市街地だよ。
真っ直ぐに行くんだ。
銃は山を抜けるまでは有って越したことは無いけど、邪魔なら捨てて行けばいい)」
市街地方面を指差しながら、バヤルは最後のアドバイスをした。
「(…………じゃあ、ここでお別れだ Mr. ヒュウガ。
麓の市街地に辿り着くまでは、決して油断しないでくれ。
無事に日本へ帰れることを祈っているよ)」
バヤルは懐から厚めの封筒を取り出し、日向に渡した。
中には…………バヤルが武器を買う為に貯めた55,000メキシコペソ=日本円にして約50万円分の紙幣が入っていた。
「(これだけで日本までの旅費になるか
分からないけど。
何も持たないよりマシだからね)」
受け取った封筒を握り締め。
日向は俯きながらに呟いた。
「(バヤル。
外部と連絡を取ったら、私は直ちに戻って来る)」
「(ええ!?
戻って来るだって!?
何故!?)」
驚くバヤルに、キッと向き直った日向は。
シッカリとした口調で語り始めた。
「(君は、外部と連絡を取る為の貴重なチャンスを私にくれた。
そのことには感謝している!
だが…………)」
日向は強い決心を表情に表した。
「(私は気付いた…………自分に最も足りなかったものを!
闘う機械を造る以前に、自らが闘うべきだということを。
バヤル、君は私の大切な戦友だ!
戦友を残し自分だけ逃げるなど、私にはどうしても出来ないのだ!!)」
日向は受け取った封筒の中から、1,000ペソ札を二枚だけ抜き取ってバヤルに返した。
「(この分を、当面の食費と交通費と通信費として貸して貰うが必ず返す。
待っていてくれ!)」
そう言うと日向はバヤルへ一礼し。
軍服姿の背中を向け、山を下りて行った。
日向から返された封筒を握り締め、見送るバヤルは呟いた。
「(Mr.ヒュウガ。
あなたは真のソルジャーだ!
どうか…………無事でいてくれよ!!)」
全てを取り戻す為の…………
そして全てを守る為の、日向の闘いが始まった!
〈戦友・完〉




