カイトの証言。
イスロが日本へ対外派兵師団を送り込む"X-Day”は12月の第四週未明と決まった。
部隊長を"毒蛇”セルピエンテ・ペドロサとし、人間歩兵を20名・戦場型戦闘ヒューマノイドを50体で編成された、ほぼ侵略に該当する大部隊となる。
その情報を、いち早くキャッチしたキッド三人衆は、対策の為に麻衣と華裏那とも連携を取り始めている。
「まあ、相手の数としては。
そんなもんかしらね?」
華裏那はフン、と鼻で笑う。
カイトと華裏那は、東京都庁の45階にある展望室に居た。
ここは、都政への理解と関心を深めることを目的に無料で開放されている。
二人は、遠く白い傘を被った富士山を眺めていた。
「カリネキの技なら、ソッコーで30は行くだろうな」
カイトも余裕の表情だ。
それに向き直る華裏那。
「アンタも、さっさと正体見せてみなさいよ。
この国に来て、まだチェインジしてないでしょ?
ホンバンでヒョットコにならないようにね」
「ここで……かい?」
「フン、いいけど?
警備員の腰抜かしてやるの覚悟しなきゃね」
二人は互いに笑う。
警視庁本部での会合を終えた麻衣とは、その翌日に電話で話した。
「…………まあ、そんなわけだ。
特にオフクロさん近辺は要注意なもんで、オレらもカバーしとくんで」
カイトの話に、麻衣は膨れ気味になる。
「しかし、、、
なんで、よりによってクリスマスの頃に来るかな〜!?
マジ迷惑」
電話の向こうでカイトが笑う。
「まったくだ。
でも、それが悪党ってもんさ」
戦闘ヒューマノイドにされてからというもの、麻衣の日常のほとんども変えられていた。
傍から見れば気付かないことだったが、それは麻衣が美枝と共に懸命に築き上げていた「仮の日常」だった。
そんな麻衣にとって今度のクリスマスは、せめてもの安らぎとなるはずであった。
「………どれもこれも、みんなアイツのせいだよ。
マジで許せない」
「アイツ?」
麻衣が声を荒げて言った相手に、カイトも気になった。
「………麻衣さん。
あんた元々人間だったらしいが、何でバトル・ヒューマノイドになんかなったんだい?
いや、カリネキもそうだってゆうけど、あんたは事情が違うみたいだな」
麻衣は、実の父親である日向に勝手に改造された事実を話した。
「普通の神経じゃないよ。
実の娘をさ」
麻衣は悔しさなのか、哀しさなのか……
涙声になっていた。
カイトは答えた。
「オレは純なヒューマノイドだから、人間の親子関係ってのはわからねぇ。
………けどな、あんたのオヤジさんに向こうで何回か会ったことあるけど。
どうもオレには、そんな悪い人間には見えなかったんだよな」
麻衣は。
カイトの言っていることに、耳を疑いながらも聞き入った。
「………オレら三人衆がまだ未完成で、水槽(制御カプセル)に入ってた頃。
あんたのオヤジさんは、日に何度も顔を出しに来て
"大丈夫かい?”
"もっと電力が要るかい?”
って声をかけてくれたんだ。
本当に心配そうな顔でさ。
オレらは声出せねぇもんだから、首をタテに振ったりヨコに振ったりしか出来なかったけどな笑」
カイトは続けた。
「……で、オレらが完成して、外を歩き回れるようになって見かけたんだけど。
なんか?
司令室に小さなカプセルが置いてあって、その中を眺めながらオヤジさんが泣いてたんだよ。
"許してくれ”
"待っててくれ”
って。
後からマーフィに聞いたが、そのカプセルには小さな女の子が入ってるんだって。
………よくよく考えると、その女の子ってさ。
あんただったんじゃないかな?
そう、あんたの素体さ」
麻衣は黙り込んでいた。
初めて知らされた、イスロでの父の姿。
そして……"本当の自分”の健在な事実。
「ま………どんな事情があったか知らねぇが、もちっとポジティブに考えた方がいいんじゃねぇの?
オレ思うに、あんたは人間に戻れるんなら戻った方がいい。
その為にもイスロをさっさと始末して、自分の身体とオヤジさんを取り返そうぜ!」
この時のカイトの言葉程、麻衣にとって心強く感じたものは無かった。
多分、それまでで最も励まされた言葉に違いなかった。
「………ありがとう、カイト!!」
人間とロボット。
様々な問題を抱えながらも
その時、少なくとも精神の境界線は脱しつつあった。
〈カイトの証言・完〉




