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真実の訴え。

「お忙しいところ、大変申し訳ありません。

私は◯✕署の剣持といいます」


美枝の前に、剣持は名刺を差し出す。


この日が来ることを、美枝自身もわかっていた。

いや………待ち続けていたのかもしれない。


戦闘ヒューマノイドとなってしまっている我が娘の為に"秘密”を守らなくてはならなかった。

しかし………それ以前に研究者として、社会貢献を行う立場として、更に人間として。

いつまでも寡黙を通すのが正統なことなのか?と、自身に問いただしてもいたのだった。


「今回、調査に御協力頂きたい件を申し上げます。

この数ヶ月間首都圏で頻発した、イヌやネコ等の殺傷事件に関することが、まず一つ。

要因となったのが、ロボット………猫型ロボットによる動物達への攻撃と、つい先日判明したのです。

それはロボットの開発者と名乗る人物が先日出頭し供述したことにより判りました。

更に………それに遡り、この春に渋谷区内で発生した"無差別通り魔事件”で、実行犯から人質の身柄を救出し、被害の拡大防止に貢献した人物も人型ロボットの可能性があると、これまでの調査結果で判っております。

なお、その人型ロボットと見られる人物につきましての所在は未だ確認出来ておらず、現在も調査中です。

今後このような事件等再発防止の為にも、こちら………AI・ロボット開発機構様より何か、御意見等ありましたら伺わせて頂きたいのですが」


剣持から調査協力の要請を受けた美枝は。

前夜の、自宅での麻衣とのやりとりを思い出していた………





「………とうとう、警察が研究室に来ることになったわ」


神妙な顔の美枝に、麻衣は毅然とした態度で言った。


「もう、いい加減ブッチャケちゃっていいんじゃない?

どうせ、いつかバレるんだし。

………過剰防衛?ってやつのことでしょ?

わたしも一緒に行くよ。

自首するから」


「麻衣!」


美枝の顔が青ざめる。


「あなたの責任じゃないのよ!

変身コントロールのグレードアップが間に合わなかったせい………

私達の責任なの。

あの事件の時、あなたは意識が無かったんだから」


「けどさ、そんなの言ったって普通誰も信じてくれないよ?

しかも思いっきり、こっちの都合だし」


麻衣は開き直っているようにも見えた。

だが、これで。

栄太とも、学校とも、サヨナラだ………

そう思うと胸が苦しくなってくるのが本音だった。


「麻衣。

とにかく、お母さんが明日警察と話してくるわ。

キチンと説明して来る。

大丈夫………麻衣は心配しないで」


そう、麻衣を説得して美枝は。

研究室での聞き取り調査に応じているのだった。




「………刑事さん。

その、猫型ロボットの開発者という方とお話したことで………何か特別気になったことはお有りでしたか?」


美枝は。

初めから核心に触れる話をしたかった。

その方が誤解を生むのを避けられると感じたからだ。


剣持は、美枝と目を合わせながら語り始めた。


「はい………実は、その猫型ロボットを製造した経緯を聞いた中で。

中米に本部を置く国際政治結社の指示に従ったというのです。

彼に言わせると、所謂国際テロ組織だったらしいですね」


やはり、そうだ。

この刑事は、実は調査済みの件を敢えて自分に自白させる為に来ている………

美枝は見抜いていた。


「その、国際政治結社の名は………イスロ。

そうですね?刑事さん」


剣持は目を見張った。


こうも早々と、美枝がアッサリ認めるとは思わなかったからだった。


「………はい。

そうです、来迎寺さん」


「そのイスロに私の元夫、日向もいる………

そう聞いて来たんですね?」


剣持は、逆に自分が尋問されている気分になり。

思わず苦笑いした。


「参りました、来迎寺さん。

申し訳ありませんでした………

もう、腹を割ります」


剣持は調査が大詰めを迎えており、後は美枝との確認が残されているのみであることを告げた。



「………こちらの写真は、無差別通り魔事件の直前に現場近くの防犯カメラで撮影されたものです」


剣持は以前、麻衣本人に見せた写真を美枝の前に差し出す。



美枝は、一瞬だけ目を見開いた。


「この少女は………娘さんですか?」


「はい………間違いありません。

娘の麻衣です」


剣持の方が緊張していた。



美枝は続けた。


「麻衣は………自分に同意も求められることも無く。

日向にロボットへ改造されてしまったのです。

勿論、私への同意も無しに。

その日向の目論見が私達夫婦の離婚原因にもなりました」


剣持は頷きながら、黙って聞いている。


「………渋谷区の事件のあった頃。

私達は克服しなくてはならない課題に直面していました。

麻衣自身の意志とは関係無く、コマンドによってロボットへ変身してしまうこと。

そして………変身中は麻衣の意識は無く。

変身中にどのような行動をしたか?も記憶に残らないという問題があったのです」


剣持が質問する。


「その、変身を起こすコマンドとは?」


「麻衣の電子頭脳が随時受信する

"タスケテ”

というコールサインのことです。

誰かが助けを求めている時に脳から発する危機信号のようなものです。

このコマンドを受信すると、いつ、何処に居るかも関わらず、麻衣には変身イニシエーションがかかってしまっていました」


目線は机の写真に向いたまま……剣持は納得のいった顔で腕を組み、大きく頷く。

そうか!

あの時、実行犯に人質で捕らわれていた少女がコールサインを発したのだ、と。


美枝が剣持に訴えたかったのは、その後だった。


「その、コマンドに支配された変身も。

標的……その時でいう、犯人を破滅に導くまで闘うように組み込まれたプログラミングも。

元は麻衣が戦闘ヒューマノイドとして造られていたことによるものなのです………決して、あの子自身の意志ではないのです!

………………刑事さん!

罪は全て私が負います!!

どうか、あの子だけは!!!」


美枝は、剣持の前で涙を流していた。


そんな訴えに、剣持も真剣な表情で頷きながら答えた。


「来迎寺さん。

私自身も娘さんに罪を追求するつもり等ありません!

むしろ、これまでの調査は。

娘さんに過剰防衛罪が問われずに済むよう、綿密に行って来た次第です。

娘さんの行為は、罪も無い市民の命を凶悪犯から救った称賛すべきものです!!

どうか、私にお任せください」


美枝は………自分の訴えが受けとめられた安堵から、肩の力が抜けていた。


美枝への聞き取りが終わった後、剣持は許可を得て他の職員達にも幾つか職務質問を行い。

研究室を後にした。


来迎寺母娘が警視庁本部へ呼ばれたのは、その二日後であった。


〈真実の訴え・完〉


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