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追憶。

人間だった時の華裏那こと、カトリーナが都内のフィリピン・パブで働いていた頃。


偶然にも。

実の父、日向武雅が来日していたイスロ総帥ドメニコを伴って店を訪れた。

ドメニコが、国際色有る店を好んだ為であった。


カトリーナは。

その姿を見つけ、自身の胸の奥から憎しみの炎の燃え盛るのを感じた! 


自分が"この男”に孤児院へ置き去りにされてから10年以上が経っていた。

あの頃はまだ幼い少女だったが、その時は何処へ行ってもNo.1になれるホステスとなっていた。

こんな薄情な男が自分を、あの置き去りにして来た少女だのと気付くはずもないだろう。

気付いたとしても………慌てて知らばっくれるに決まっている!

カトリーナの頭の中は……この男を、どのようにしてくれようか!?

その感情だけが、駆けめぐっていた。


しかし、そのBOX席へ向けてカトリーナが歩き始めた時、思いも依らぬことが起きた。


「………カ、カトリーナ?

カトリーナじゃないか!!」


日向は直ぐに自分に目を向け。

呼びかけて来た。


「ああ、カトリーナ!!

………探したんだぞ!」


日向の目からは、たちまち涙が溢れ出て来た。


「あたしが………わかるの!?」


カトリーナは、自分から怒りの感情が薄まって行くのを感じた。


「自分の子を忘れる親など、いるものか!

…………君を忘れた日など、一日もあるものか!!」


フロアに土下座する日向。


「カトリーナ………………

済まなかった。

辛い思いばかりさせて…………」


日向は言い訳一つせず、ただただ項垂れていた。


幼い自分を捨て、他の家族を選んだ憎き父親。

決して許すことは無いと胸に誓ったはずだった。

…………だが。

カトリーナは瞳から溢れ出る涙を、止めることが出来なかった。


「………………パパ」


カトリーナの胸に、それまで生きてきた日々と思いが駆けめぐっていた。

自身にも、わかっていたのだ。

今、目の前に居る………この父親にもう一度逢うまでは死ねないと。


「パパ…………逢いたかった!」


同席のドメニコが気勢を上げる。


「実にめでたい!

今夜は親子再会の、記念すべき夜だ!

この店で一番値の張るシャンパンを持って来い!!

祝杯だ、祝杯だッ!!!」




その夜、カトリーナと日向は話をした。


「パパ。

今、どこに住んでるの?」


日向は中米の某国の名を告げた。


「今は日本に居ないんだ。

…………カトリーナ。

カトリーナさえ良かったら、もう一度、パパと暮らさないか。

今度こそ、離れたりしないと誓うよ」


思いがけない父の言葉に、驚くカトリーナ。


「え…………?

御家族は?」


日向は寂しそうな笑みを浮かべながら、言った。


「…………日本の妻とは、もう離婚した。

一人……娘が。

カトリーナより10歳下の子も居るが、その妻が引き取った」


ここで、カトリーナは初めて母違いの妹……麻衣の存在を知ったのだった。

カトリーナは暫し思いにふけっていたが、日向に向き直り、言った。


「………あたし、ここの仕事上手く行ってるから、直ぐにはムリだけど。

パパが待っててくれるなら」


「本当かい?カトリーナ」


「うん」


笑顔で頷くカトリーナに、日向は喜びを隠せなかった。


「ありがとう、カトリーナ!

パパは君が来てくれるのを、待ってるよ」



………その数カ月後。

カトリーナは日向の待つ中米に渡る。


そこで、父の仕事について説明を受けた。

父の所属するイスロという政治結社の理念。

世界で絶えることの無い、侵略戦争から民間人の安全を守る為に必要なロボット開発。

そして………その計画の最たるものであり、他人様の子息には決して頼むことの出来ない重要な役目。

"ゲリラ式戦闘ヒューマノイド”

となることをカトリーナに望んだ。

「Bewusstsein」=べヴスタイン(独語;意識)計画というそれは、AIで作動するロボットを組み上げるのではなく、元となる人間の脳から意識そのものを抽出し機械の身体へ動作プロセスとして移行するという、実質サイボーグ製造に近いものだった。

カトリーナは、世界平和を守る為に心血を注ぐ父の信念と意義に理解を示し、自らゲリラ式戦闘ヒューマノイドとなることを承諾した。


全ては、我が父に応える為であった。


父・日向の強い希望により、カトリーナには最先端の技術で最大限に考えられる防御機能・能力が与えられた。

全ては"侵略”の為ではなく。

あくまで"防御”の為の装甲システムであり、"防御”の為の攻撃能力であった!


まさにカトリーナは父と二人三脚で、数々の実験・テストをこなして行った。



………ところが。

またしても父娘は引き裂かれてしまう。

総帥ドメニコの指令=コマンドにより、再びカトリーナは単身日本へ赴くことになったのだった。


ドメニコはカトリーナに命じた。


「2号機。

君から父親を奪った相手に復讐するチャンスを与えてやろう」


「……?」


「日本に居る、1号機を破壊して来い。

それがミッションだ」


カトリーナは直ぐには状況が理解しかねた。


「………なぜ?

なぜ、その1号機を破壊することが、あたしにとっての復讐になるの?」


不敵な笑みを浮かべながらドメニコは言った。


「………1号機というのは。

君の腹違いの妹だ!」


カトリーナは衝撃を受けた。

いつか父が打ち明けた、日本の元妻の娘……自分より10も年下の異母妹。


「そ…………その子も、戦闘ヒューマノイドなの?

その子も!?」


「そうだ。

君より少し先に改造を受けている。

だから1号機で、君が2号機なのだ」


ドメニコは不敵に笑ったまま、事務的に答えていた。


カトリーナは混乱した。

確かに、以前は自分から父親を奪った日本の家庭を憎んでいた。

しかし……よりによって、その娘までも戦闘ヒューマノイドにした、この組織の意図とは何なのか?

そして……我が父の意図とは?


動揺するカトリーナにドメニコは、威厳を匂わせながら諭した。


「全ては、君の父の言った通り。

世界平和を守るゲリラ式戦闘ヒューマノイドを開発する為なのだ。

その為の犠牲は最小限に留めなくてはならず、これは苦渋の決断でありコマンドなのだ。

2号機、君は世界最先端のテクノロジーによって生まれた最強の戦闘ヒューマノイドだ。

今回のコマンドは、その君自身が更に強い戦闘力を養う為に同じ戦闘ヒューマノイドと闘う訓練でもある。

戦闘ヒューマノイドは言うまでもなく、人間の力、人間の能力等遥かに太刀打ち出来ない強さを持っている。

その強い存在と人間との約束事こそが、コマンドなのだ。

その重さというものを、よく考えるといい」


ドメニコは更に追い打ちをかけた。


「………ソイツが居る限り、君の父親は再び日本の家庭を選ぶかもしれんぞ」


この一言が、カトリーナを決心させた。


俯いていたカトリーナには。

その時ドメニコが、さも愉快そうな笑みを浮かべていたのを知る由も無かったのだった。




まさに、あの時………

初めて麻衣と出会った瞬間まで。

カトリーナ=華裏那は、本気で麻衣を破壊しようと考えていた。


しかし!


(わたしは、自分と自分の大切な人達の為に闘う!!)


その、麻衣の闘う姿勢を見て………

わかっていたのだった。


この子を、破壊することは出来ない!

このコマンドに従うことは出来ないと!!






「カリネキ!

今日も手加減抜きだよ!!」


研究室にて………………

栄太と仲直りし、すっかり元気を取り戻した麻衣が声をかける。


「フン、本気のあたしに対抗するなんて十年早いよ」


さすがに二人は姉妹なだけに、似ている…………

"負けず嫌い”なところが!!

そして華裏那にとって、かつては厳しく見つめ合っていた妹も。

今や同じ運命・宿命を背負う同志となっていた。


それだけでは無かった。


そんな娘達を見守る美枝。


(エレナさんに、顔向け出来るような母にならなくては!)


遠く南方の地に眠る、華裏那の実母に誓う美枝であった。


〈追憶・完〉

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