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路地裏の殺戮者。

…………エリック=ティーチャーからの

”ヘルプ”のコールサインを受け取った麻衣は、嫌な予感がした。

そして…………

それは的中してしまった!


「エリック!!

大丈夫!?」


エリック=ティーチャーは。

都内板橋区の某公園でシュワルツ・カッツを抱き抱えながら、いつものように散歩をしていた。

すると…………まるで頃合いを見計らったかのように突然シュワルツ・カッツが変身もせずにアーク放電を発した!!

エリック=ティーチャーは全身に破壊的なダメージを受け、ひとたまりも無くシステムダウンしてしまっている。


「……ネ……コ……チャン………………ハ…?」


シュワルツ・カッツは姿を消した。


「やっぱり。

あの黒猫は”いわく付き”だったんだわ!

エリック……答えられる?

あの黒猫、どこから来たの?」


エリック=ティーチャーは、ダメージの中でも麻衣に伝えようとする。


「……イ……ス……ロ…」


「……イスロ?」


麻衣には初めて聞く名前だった。

少なくとも、ペットショップではないだろうとは察しが付いたが………………

とにかく、エリック=ティーチャーをこのままには出来ない。

麻衣はスマートフォンで母親の美枝にコールした。


「あ、お母さん!

今大丈夫!?」


幸いにも美枝は、すぐ電話口に出た。


「どうしたの?」


「あ、あのね!

エリックが大変なの!」


「エリックって……あの非常勤講師?」


美枝は声色が変わる。


「エリックの飼ってた猫が、どうも怪しくて!

たぶん…ロボットかもしれなくて、攻撃されたみたいなの!!」


美枝は少し沈黙してから、麻衣を諭すような口調になった。


「落ち着いて、麻衣!

エリックはどんな状態?

ダメージは?」


「……黒焦げになっちゃってて、今、動けないみたいなの!」


「コミュニケーションは出来る?」


「話すのもやっとなの!」


研究室にいるらしい美枝は、電話の向こうで少しの間スタッフ達と相談らしき会話をした後、麻衣に言った。


「麻衣。

これから研究室のスタッフに行かせるから、場所を教えて!」


麻衣は板橋区の公園の名前を告げた。


「わかりやすい場所で良かったわ。

30分以内で着くと思うから、それまで一緒に待ってて!

あ、あと………」


美枝は麻衣に、エリック=ティーチャーが人間形態のままなのかどうかの確認と。

もし異変に気付いた通りがかりの人や、公園管理人、警察官などに何か尋ねられたら

"もう、救急車を呼んであります”

と言って取り繕うように命じた。

ヒューマノイドであることは極力バレないようにしなくてはならない。


「わかった!」


麻衣は電話を切った。




…………美枝の伝えた通り30分より少し早く、研究室スタッフの車が公園入口に到着した。

大き目の黒いミニバンだった。

若い男性スタッフ4名に担架で運ばれ、速やかに車に乗せられてエリック=ティーチャーは研究室へ向かって行った。

エリック=ティーチャーは身長2メートル近い体格で、生身の人間より遥かに体重が重い。

なので担架で運ぶにしても、普通の人間の場合より倍の人数が必要だったのだ。




来迎寺家宅。


「お母さん。

エリックがね、飼ってた黒猫、イスロってとこから来たって言ってた。

お母さん、知ってる?」


麻衣の口から出た言葉に、美枝は硬直する。


「イスロ……

確かにエリックは、そう言ったのね!?」


「うん!

てか、それだけ言うのが精一杯だったぽかった」


顔が青くなっていく美枝。


「…………麻衣。

あのね。

その、イスロというのは組織の名前なの」


「…………組織?」


母の顔色と。

組織という言葉のニュアンスに、麻衣は不吉な予感を覚える。


「イスロは。

国際政治結社で世界のテロリスト達に兵器を横流ししてるという噂があるの」


麻衣も顔が青ざめる。


「…………じゃあ、そのエリックが飼ってた黒猫は…………

もしかして戦闘ロボット!?」


「可能性は有りうるわ…………そして」


次に美枝の口から出た言葉に、麻衣は驚愕する。


「そのイスロに…………

あなたのお父さんが居るかもしれないの」


日向武雅。


目の前の、母の元夫であると同時に。

自分を戦闘ヒューマノイドなどに改造し、人生を奪った憎き父親!

思い出したくもない、その存在そのものに。

麻衣は拳を握り締めた。

それが更に、そんな悪魔のような組織に魂を売るとは!!


「…………お母さん。

わたし……絶対許せない!

わたしを勝手にロボットにしただけじゃなくて、そんな悪の組織に身売りなんかして。

猫型の兵器なんか作って送り込むなんて!!」


美枝も言葉を失う。

麻衣の激昂も最もなのと同時に…………


「エリックがそう言った、ということは。

エリック自身もイスロから送り込まれて来た可能性もあるわね」


麻衣は、複雑な気持ちになった。


「…………でも。

もし、そうなら何で同じ組織のロボットを、身内の猫型ロボットで破壊しようとしたの?

それに………」


美枝の前で言葉が詰まる麻衣。


「………………それに。

エリックが、そんな悪の組織に作られたなんて、信じられない!!

あいつは、ホントに良い奴よ!

わたしと一緒にニャーミーを助けたのよ!?」


美枝は、麻衣をなだめるように言った。


「お母さんも、そう信じてるわ。

でもね…………

イスロの恐ろしさは、そこにあるの。

組織代表のドメニコ・マングスタという男は、目的の為なら手段を選ばないと言われてるの。

身内同士を戦わせて、勝った方を取り立てる…………そんなやり方を平気でやると聞いたわ」


聞いていて、麻衣は。

華裏那を思い出していた………………


(コマンドの為なら、妹だろうと親だろうと始末する)


華裏那も、イスロからの刺客なのかもしれない。


「…………どっちにしても。

あの黒猫を野放しにするのは、危険過ぎと思わない?お母さん」


麻衣が何を言いたいのか、美枝にはわかった。


「麻衣!

無茶をしちゃ駄目よ!!

相手はヒューマノイドじゃない。

何も通じない………

アニマロイドかもしれないのよ!!」


「わかってる。

でもね、お母さん。

他に誰がやれると思う?」


麻衣は含み笑いをする。


「戦闘ロボットに、人間技は通じないでしょ?」


美枝も、娘に全てを託す他は無かった。



11月になっていた。

美枝の研究室で秘密裡にエリック=ティーチャーは手当……修理・点検を受け。

ようやく言葉も出るようになり、学校へは自分から

”急な入院”と報告した。

研究室への見舞いに訪れた麻衣に


「……アリガット、ドモアリガット」


と礼を言うエリック。


「マイ、ユアマザーカラ、キイタ。

ネコチャン、キケン!

ワターシ、ナオルノ、マテ」


エリックは続けた。


「カイ、ヌシ、ノ、セキニン。

カイ、ヌシ、ノ、セキニン。

ワターシ、ヤル!」


エリックは切実に訴えるが、麻衣は首を横に振る。


「エリックは、自分を直すのだけを考えてて。

大丈夫!

何とかなるから」


麻衣はベッドに横たわるエリックの額を、笑顔で優しく撫でた。



…………その夜。

都内は木枯らしが吹いていた。


ハロウィンにエリック=ティーチャーへ危害を加えた後、シュワルツ・カッツは行方をくらましていた。

そうしている間にも、謎の愛玩動物焼死体事件は続いていた。


そんな都内の夜道を歩く時。

麻衣は、再び「タスケテ」のコールサインを受信する。


「einschalten!!」

 (アインサイルトゥン!!)


「Eins!!」 「zwei!!」

(アインス) !!  (ツヴァイ) !!


「drei!!」

(ドゥファイ)!!


麻衣!

チェインジ!!



とある街の路地裏で。

ようやく”奴”を見つけた麻衣!


ガァァァァァ


"奴”………戦闘アニマロイド、シュワルツ・カッツは。

あたかも獲物を見つけたハイエナのような不気味な表情で牙を剥き、今にも飛びかからんとする様相だ。


麻衣は。

いつも通りのクールな表情の中に、怒りの炎を燃やす。


「残念だけど。

猫の姿を借りた”殺戮兵器”は殺処分しなきゃなの!

全然カワイクないし?」


犠牲となった愛玩動物達と、エリックの敵討ちを誓った麻衣であった!!


〈路地裏の殺戮者・完〉

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