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フツーのアドバイス。

……………エリックこと、量産ゲリラ式戦闘ヒューマノイド・ティーチャーの日本での行動について。


ドメニコが現在の懸念材料に関し。

司令室にて、日向の意見を聴取している。


「ティーチャーが日本に滞在してから、既に2週間が経過しているが。

奴の行動パターンが今一つ理解不能なのだ」


日向は尋ねる。

「…………どういうことでしょうか。

サー・マングスタ」


ドメニコは、苦虫を噛み潰したような顔をしながら吐き捨てる。


「どういうことも、こういうことも!

奴ときたら、本当に普通の人間の教師のように日々をつつがなく過ごしてばかりで。

戦闘ヒューマノイドとしての実地訓練の自覚が無いように見られるのだ。

しかも、子供達との遊び等にうつつを抜かしおって!!

不良品ではないのか!?奴は」


日向は表情も変えずに返す。


「…………それの、どこが

いけないと言うのでしょうか?」


ドメニコは驚嘆の表情で日向の顔をみおろす。


「何だと!?」


日向は続ける。


「2週間もの間、潜伏先で普通の教師になりきり。

誰にも怪しがられることも無く。

不都合な要素も起こさず。

現場の人間関係に完全に溶けこみ……特に子供達にも支持されている…………………

これはまさに。

ゲリラ式戦闘ヒューマノイドの能力としては、むしろ一級品かと思われますが」


日向の説明を受けて、ドメニコも少し落ち着いたようだった。


「しかし、あのように日本語が出来ない状態で、まともなコミュニケーションなど出来るわけないではないか!

このままでは、いずれバレることになるぞ」


日向はフッと含み笑いをした。


「…………サー・マングスタ。

日本人の大多数は、外国人とは”日本語が出来なくて普通なもの”と考えています。

そして、まさにあなたのようにですが。

日本語を流暢に話せる外国人に会うと、むしろ驚きを隠せない程なのです。

滑稽な話ですが。

せっかく外国人が日本語で話しかけて来ても、自身は慣れない英語などを使って必死で返そうとする者さえいるのです」


ドメニコは、驚異の表情となっていた。


「何と!?

では、普通の日本人達はどうやって外国人とのコミュニケーションをとるのかね?」


「日本人は言葉が通じなくとも、例えば道に迷っている様子だったり何か助けを求めたりしている外国人に出会うと、身振り手振り等で懸命にケアしようとします。

相手の表情や仕草を見ながら”何を求めているか?”判断するのです。

これは、一部のボランティアだけの話ではありません。

ごく一般の日本人が、そうなのです」


日向は続けた。


「………金田一春彦という、日本の文学者のエッセイを読んだことがあるのですが。

欧米と日本と、飲食店……レストランでの店員の接客態度の違いについて記していました。

ある日本人が米国旅行をした際、レストランに入り。

慣れない英語でボーイにメニューをオーダーしたところ。

ボーイは正確な英語として聞き取れるまで

I beg your pardon!!

と何度も繰り返したそうです。


対して、日本の飲食店での話。

地方から都会へ出て来たばかりの青年が、飲食店のソバ・ウドンのメニューで

”もり、かけ十銭”

とあるのを見て”もりかけ”を一つ

とオーダーしました。

本来は”もり、かけ”というのは、ソバ・ウドンのバージョンを言うのであり。

例えば”ソバのかけ”や”ウドンのもり”といった様にオーダーするのが正解なのですが、店員は

”もりかけ”というメニューはありません。”もり”でしょうか?”かけ”でしょうか?

等と青年客に問い正すようなことはしませんでした。店員は

(この青年の様子から見て、地方から出て来たばかりなのだろう。そして言葉に関西訛りがあるので、ソバよりウドンの方が喜ばれるだろう)

と、瞬時に判断し。

黙って”ウドンのかけ”を持って行ったそうです。

Dr.金田一は、次のように締めくくっています。

”この日本の心遣いと比べれば、欧米のボーイの一見華麗に見える身のこなしなど。

ワンコインの値打ちも無いように思われる”と」


ドメニコは、日向の話すエピソードを感慨深げに聞き入っていた。


「…………よろしいでしょうか?

サー・マングスタ。

今お話しした内容に見えるスピリットこそが、日本の対外コミュニケーションに於ける礎と言っても過言ではありません。

たとえティーチャーの日本語が稚拙であったとしても、そのことが現地に於いて何ら障壁にもなり得ないと。

お分かり頂けたかと」


ドメニコは無言で何度か頷いた。


「…………プロフェッサー。

私は日本という国について知り尽くしているつもりでいたが、とんだ思い上がりだったようだ!

確かに、そのボーイのような対応こそ私には標準に思えていた。

だからこそ、現地の言語を習得することを重要視した。

だが日本の標準=普通とは、そんな世界標準を遥かに越えているようだ。

”言葉そのものに重きを置かない、スピリットの国”だからこそ!

不可能を可能にして来たのだろう!!」


ドメニコは続けた。


「ティーチャーについては当面様子を見ることにしよう。

ありがとう!プロフェッサー!!

おかげで今夜から不眠に悩まされずに済む」





…………教室で。

エリックは栄太を呼び止め、尋ねた。


「Hey!You!!

Youハ、マイノ、ハズバンド(夫)ダッテネ♫」


(そのネタ、エリックにも伝わってたか!)


そのこと自体は栄太も、大して気に止めなかった。


「いや(笑)、それ程の関係ではないよ!」


しかし、お構い無しにエリックは表情を正して訊いてきた。


「Babyハ イルノカイ?」


突然そんなことを言われて!

麻衣との”あんなこと”や”こんなこと”の妄想が栄太の頭を駆け巡る。

全顔、赤面する栄太!


エリックは普通に話している。


「ダイ、ジョウ、V!

ペアレンツ(夫婦)ナラ、フツーデス!

アイシアイナサーイ♫

Have fun every night (毎晩楽しんでね)!!」


思わず、鼻血を滴らせる栄太!


健康な、日本の”フツー”の17歳には。

少々刺激的なアドバイスであった!!


〈フツーのアドバイス・完〉


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