ミニカー好きの刑事さん。
「やったね!
まさかのサプライズ!!
通ってみるもんだよ、全く♫」
…………都内・恵比寿駅から徒歩5分の場所にある、小ぢんまりとした喫茶店。
買ったばかりのミニカーを片手に上機嫌でブレンドコーヒーを啜る、黒いスーツと赤いシャツを着たサラリーマン風の男がいた。
彼は生粋のミニカー・マニア。
この日、自分の”推し車種”である
「1962年型フェラーリ250GTO」のイタリア製ミニカーをゲット出来、喜びを隠せないでいた。
「まさかね。
諦めてた希少モデルがバーゲンとは!さすが Mrs.CRAFT!!」
”Mrs.CRAFT”=ミセス・クラフトとは、この男の通う模型専門店の名称だ。
従来の模型店と同じくプラモデル、ラジコンカーのキット、モデルガン等といった取り扱い品は勿論。
この店の目玉は国内外メーカー問わずの品揃えを誇るミニチュア・カー=ミニカーなのである。
東京都内には他に老舗と言えるミニカー専門店もあるが、Mrs.CRAFTの品揃え及び店員の知識スキルもそれに引けを取らない。
ミニカーの趣味としてはコレクションやカスタマイズ(手を加える)と、単に子供の玩具で終わる価値観とは一線を画す”大人の趣味”で知られている。
それを象徴するかのように Mrs.CRAFTのミニカー・コーナーはスーツ姿のビジネスマンで、いつもごった返している。
会社帰りのサラリーマンが、お目当てのミニカーを探していて、ふと横を見ると上司が居た!といったケースも珍しく無く
「君もか!」
と、思わぬ親睦へと発展することもあるという。
その Mrs.CRAFT の道斜め向かいにあるのが、この喫茶店なのである。
そして………彼がミニカーという趣味と同レベルで生きがいとするのが、仕事だ!
彼の名は
剱持博己。
警視庁捜査第一課所属警部補だったが、本人の希望降格により現在の肩書は巡査部長=刑事。
北陸の某県出身、37歳独身。
趣味はミニカー集め。
※本人曰く「ミニチュア・カーと呼んで欲しい」とのこと
刑事への移管を希望した時、職場の先輩達から言われた定番セリフ…………
「おまえは、刑事ドラマの観過ぎだ」
しかし、剱持の信念は微動だにしない。
「確かに、それも否定はしない。
そもそも警察官という仕事を志願した理由こそが、そうしたドラマの登場人物が見せた溢れるばかりの正義感と。
そして………事件解決へ身の危険も省みず突き進む、勇気に満ちた姿に憧れてのことなのだから」
”事件は机上ではなく、現場で起きている”
たとえドラマの中の台詞だとしても。
これだけは真実だと、剱持は座右の銘とする。
「俺は、憧れを憧れのままで終わらせない!
自分の理想とする警察官となるまでは!!
諦めていた希少モデルのミニチュア・カーをゲット出来たように」
…………どこまで行っても、ミニカーなのであった。
そんな剱持刑事の現在取りかかっている仕事とは、半年程前に渋谷区の並木通りで、多数の負傷者を出した「無差別通り魔事件」の調査である。
現場で容疑者の死亡が確認され、人質も無事救出されたが署員による発砲等は無く。
現場の目撃者によると
「”ロボットのような謎の人物”が突然現れ、人質を救出し尚且つ容疑者を殺害した」
という。
唯一、参考として確保できたのが
1枚の画像。
"事件当日、発生時間前の青山通りの様子"
剱持は、この画像の中に。
目撃者の証言と部分的一致する人物を抽出することに成功した!
「セーラー服を着てはいるが、顔の半分は透明のカバーて覆われたメカ。
頭髪の色はグレイ………………」
「決め手となりそうなのは、制服だ。
都内の学校の女子制服のデータから該当するものを洗い出すしかない」
署内のパソコンで、女子高生のセーラー服ばかり検索する剱持。
(それを女性署員らに怪訝そうに見られたのは辛かったが………)
そうした”難関”をも乗り越え!
剱持の努力は遂に実を結んだ!!
モンタージュに成功したのだ。
「来迎寺麻衣。年齢17才。
D大附属第一高等学校の現在2年生。
親の職業は公益財団法人AI・ロボット開発機構のエンジニア…………」
「この子が、正体不明ロボットについて何らかの情報を知っているはず」
剱持は、自分の勘が確信となる予感を覚えていた。
〈ミニカー好きの刑事さん・完〉




