本部攻め!
………イスロ本部付近上空に到達した、FBI及び米軍特殊部隊のヘリコプター。
立地条件が森林地帯の為、ヘリコプターと言えど着陸は困難であり。
剣持刑事37歳、"ジム”マッケンジーFBI捜査官、パウエル米軍特殊部隊少佐率いる部隊メンバーは複数の搭乗員を残し。
「ラペリング」という、ホバリング中の機体から直接ロープを使って降下する手段を以て現場へと到着した。
鬱蒼とした森の中にそびえ立つ、イスロ本部の古いコンクリート建屋。
その周囲を取り囲む、地元警察特殊部隊の人員と車両。
一見静まり返っている現場状況だが……そこには一触即発の緊張感が漂っていた。
FBIのジムが、地元警察部隊の現場指揮官であるマルティネス第1副督察官(陸軍の大尉に相当)に挨拶し、労いの言葉をかける。
「(相手の抵抗に遭ったそうだが、よくぞここまで追い詰めてくれた。
貴部隊の被害状況は?)」
母国語がスペイン語であるマルティネス指揮官は、たどたどしいながらも英語で答える。
マスクに隠された顔面ながら、その眼光は鋭い。
「(貴部隊こそ、応援に感謝する。
幸いにも現在のところ当部隊からは被害は出ていない。
ただ、御覧のように連中は
"殻に閉じ籠もるエスカルゴ”だ。
これからは心理戦となる公算が考えられる)」
こうした場合は膠着状態の続く確率が高い。
マルティネスの言う通り、まずは「ネゴシエーション」と言って心理策を伴った説得を相手側へ試みるのが定番となる。
そして。
まさに、そのネゴシエーション技術に関し世界をリードする組織こそFBIなのだ。
FBIの開発したネゴシエーション「行動変化の階段モデル (Behavioral Change Stairway Model=BCMS)」は
1.能動的な傾聴
2.共感
3.信頼関係の構築
4.影響力
5.行動変容
という5つのステップで成り立つ説得術であり。
あくまで犯人側の言い分、感情、要望等を聞き出し理解・共鳴する姿勢を保ちながら最終的に穏便に武装放棄させる………
特に人質の発生している事件に際しては重要視される手段である。
問題は、犯人側………
今回の場合はイスロとなるが、相手側とのコミュニケーション方法の選択となる。
多くは電話による直接対話をとるケースだが、イスロ本部の固定電話番号も偽名で登録されており確定不可能。
そもそも代表者であるドメニコ自身、対話に応じる気など毛頭無いのであった。
FBI側の代表であるジムは、腕を組んだ。
米軍特殊部隊代表のパウエル少佐が、じれったそうに言う。
「(あんな悪党どもに、対話など要るものか!
さっさと殻を破って"カタツムリ”を引きずり出すべきだろう!
こっちは何時でも準備が出来ている!!)」
空を見上げると。
米軍の攻撃ヘリコプターが、既に兵装の矛先をイスロ本部建屋へ向けている!
剣持は、慌てて制した。
「(待ってくれ!
向こうの司令室に人質が居る!
人質の救出が先だ!!)」
剣持が案じたのは、司令室にあるとされる麻衣の素体を収めたカプセルだった。
確か、司令室は建屋の3階のはず……
空から攻撃を仕掛けた場合、そのカプセルそのものが危ない。
カプセルそのものだけでなく、生命維持に使われている電源をギリギリまで保持しなくてはならない。
建屋に攻撃を加えることによって、その電源を失うのを剣持は恐れた。
しかし、パウエル少佐は剣持に冷たく言い放った。
「("素人”は黙ってろ!
どれだけの人数が立て籠もってると思う?
あんな狭苦しい建屋に、人の脚で入ったら奴らの思うツボだ。
こっちは"アウェイ”なんだぜ?
人質に辿り着く前に、こっちが玉砕するのがわからないのか?)」
まさに、剣持はグゥの字も出なくなった。
ジムが口を開いた。
「(だが。
彼の言う通り、人質の救出こそが我々の第一の使命だ。
犠牲が出る覚悟の上で、ここに来ているはずだ!
しかも、相手側の士気は落ちている。
統制も取れてはいない。
代表者であるドメニコに話が通じなくとも、まずは裾野から根強く説得して行くべきではないのか?)」
意見は真っ二つに割れた。
剣持は考えた。
(何とか………あの建屋の内側から事態を変える手立ては無いものか?)
このまま、膠着した時間が過ぎて行くかに見えた。
……………その時である。
建屋の中から銃声が響いた。
銃声は連続し、次第に増えて行く様子が感じられた。
「!?」
一同は一斉に本部建屋に注目した。
すると………今度は4階の部屋の窓ガラスが割れ、兵士が悲鳴を上げながら外へ落下して来た!!
「何だ!?
一体、何が起きてるんだ!?」
剣持は隣に立つ連中の顔を見たが、ジムもパウエルもマルティネスも、皆同様に驚愕の表情を隠せず言葉も出ない。
更に程なくして。
割れた窓ガラスから誰かが顔を出し、こちらへ手を振っているではないか!
「あ!」
その"誰か”を見て、思わず声を上げる剣持。
「……………ゲリラ式……戦闘ヒューマノイド!
カイト!?」
手を振っているのは。
赤い肢体に、煌めくメカニカルボディ。
ヒューマノイド形態のカイトであった!
「よぉ!
刑事のダンナ!
はるばる御苦労なこった!!」
剣持だと分かると、声をかけるカイト。
剣持の胸は思わず熱くなった!
「おー!
いつの間に来てたんだ〜!?」
嬉しさの余り、大声で返事する剣持。
カイトの表情も笑ったように見える。
「パーティは、これからだぜ!
ダンナ!!」
カイトは再び手を振って中に消える。
と、すぐさま次々と兵士達が悲鳴と共に外へ放り出されて来る!
剣持は打ち震えた。
彼らが居れば……事態は必ず打開出来る!!
ジムが剣持に尋ねた。
「(彼は、ヒロの友達かい?
何と言ってたんだね?)」
剣持達が日本語で話していた為、交わした会話をジムは解せなかったのだ。
剣持は表情を崩しながら答えた。
「(はい………そうです。
彼は……常に私を助けてくれた戦友です!
……"パーティはこれから”、だと!!)」
ジムも笑みを浮かべながら頷いた。
そして、ふと気が付くと。
一行の横に、いつの間にかヒューマノイド形態のケビンが来ているではないか!
ケビンは、まるで山本君のように片膝を着いた"御家人ポーズ”で控えている!!
何も知らないパウエル少佐は警戒し、思わず身構える。
剣持が笑って諭す。
「(大丈夫!
彼は私の友達で、戦闘ヒューマノイドです。
……ケビン、建屋の中の様子を教えてくれないか?)」
ケビンはユーモアたっぷりに、口調まで山本君に似せて伝令する。
「(ハ!
申し上げます!
今現在、建屋内のイスロ兵達は。
全て我々にて制圧しましてございます。
つきましては、皆様には。
人質の解放・救出に専念されます様、お願い申し上げまする)」
剣持も、笑いながら調子を合わせる。
「(うむ!
大義であった!!)」
見ていたジムは、感心するやら愉快やらで。
笑いながら拍手で讃えた。
「(ヒロ!
素晴らしい戦友達を持ったな!!)」
ジムに肩を叩かれ、剣持も誇らしかった。
地元警察部隊指揮官のマルティネスも御満悦の様子!
対して気まずいような、ふてくされたような、複雑な顔のパウエル少佐。
「(フ……フン!
最後まではロボットになど頼らんぞ!
こちとら泣く子も黙る、米軍特殊部隊だ!!)」
キッド三人衆の働きで、事態は大きく動いた。
残すは最後の砦………司令室だ!
(来迎寺麻衣も今、来ているのだろうか?)
剣持は、兜の尾を締める思いで本部建屋を見つめた。
〈本部攻め・完〉




