日向とナタリア。
中米・イスロ本部。
最下部の地下室に監禁されている、ドメニコの別荘の元・使用人ナタリアは警備兵を誘惑している。
「(ねぇえ…………
早く出してぇ。
もうダメぇ、アタシ"漏れちゃいそう”)」
たまらず警備兵。
「(ヨシ!
今、出してやる!!)」
色めき立った警備兵は、息を荒げながら走って地下室の鍵を取りに行き。
素早く入口の鍵穴に鍵を差し込み、解錠すると勢い良く扉を開ける。
同時に部屋を出るナタリアに、待ちかねたとばかりに抱きつこうとする警備兵!
「(待って!
前菜が先よ)」
そう言いながら、うずくまり。
ナタリアは警備兵のベルトを緩め、ファスナーを下ろす。
既に怒張しきった"モノ”が眼前に飛び出す。
ナタリアは大口を開けて見せる。
快感の期待に目を閉じる警備兵…………
と!?
いきなり立ち上がり、警備兵の無防備な局部を蹴り上げるナタリア!
「Ouch!」
たまらず廊下の床に倒れ込み、股間を押さえ昏倒する警備兵。
ナタリアは駆け出す。
その頃。
日向は自身の監禁される地下室に居たが、用を足したくなり部屋を出ようとしていた。
以前は監視無く部屋を出ることを禁じられていたが、日向の居る地下室近辺に限っては既に、そうした規律さえもあやむやになっていた。
日向が廊下へ出ると。
向こうから息せき切りながら走ってくる者がいる。
私服の女だ。
女は日向の部屋の扉が開いているのを見ると、有無を言わせず入り込もうとする。
「!?」
日向は、とっさの判断で走って来た女を自分の部屋へと押し込み扉を閉める。
間もなく兵士達の怒号が聞こえて来た。
「(女が逃げたぞー!!
女だー!!)」
日向は、女を部屋入口のすぐ脇の壁に張り付くように手振りで指示する。
複数の兵士の足音が荒々しく迫って来る。
…………幸いにも、追手達は日向達の部屋の前を素通りして行った。
辺りが静まり返り、女は座りこむ。
日向は小声で尋ねる。
「(君は、ドメニコの使用人かい?)」
息を鎮めながら、女…………
ナタリアは答える。
「(ええ、そうよ)」
バヤルから話を聞いていた日向には、彼女が脱走を試みたのがわかった。
ナタリアを諭す日向。
「(君に何があってこうなったのかは知らないが、彼に関わる人間はロクな目に遭わない。
…………しかし、いずれこの組織そのものも崩壊するだろう。
その時を待つしかないが、今は組織構成員の統制が乱れていて、とても危険な状態だ。
彼らを刺激するべきではない)」
ナタリアは座りこんだまま虚ろに床を見つめていたが、すがるような瞳で日向を見上げて口を開く。
「(ねぇ。
しばらく、ここに居させて。
お願い)」
日向にも、わかっていた。
今、この女を追い出したら、どういう結果を招くか…………容易に想像できる。
「(今は、その方がいい。
そして……落ち着いて得策を考えよう)」
ナタリアの瞳が潤む。
「(……あなた。
優しいのね)」
ナタリアは日向に身を寄せて来る。
耳元へ吐息を吹きかけ、豊満な胸を押し付ける。
「(…………アタシを好きにして。
御礼がしたいの)」
そう、自分の耳元で囁くナタリアに驚いた日向であったが直ぐに押し戻す。
「(やめなさい。
私は、そんなつもりではない)」
ナタリアの見せた態度は、日向にしてみれば意外であった。
「(どうして?
遠慮しなくていいのよ)」
なおも身体を絡めようと抱き付くナタリアを、今度は本気で押し返す日向。
驚きを隠せないナタリア。
「(どうして?
あなたも男だから、欲望があるでしょ?)」
「(私は、君を欲望の対象とは見ていない)」
「(ウソ!
人は誰でもセックスと金を欲しがるものよ。
男は女のカラダを、女は男の財産と安心を。
普通のことよ!
それとも…………アジア人て、みんなあなたみたいなのかしら?)」
半ば呆れたように笑ってみせるナタリアに、日向は。
何故。
今、この女が、このような状況に陥っているのか…………その答えを見た気がした。
「(君の考え方を、真っ向から否定するつもりは無い。
そして……そのことは国や地域に関わりは無い。
私自身にも、欲が全く無いと言えばウソになるだろう。
しかし、私は人を単なる"欲望処理の道具”として扱うことに賛同は出来ない…………
それだけだ)」
日向は、更に付け加えた。
「(たった今。
君をかくまった理由も、そこにある)」
ナタリアは日向の顔を、憑き物の落ちたような表情で黙って見つめた。
それから暫く俯いていたが、やがて重い口を開き始めた。
「(…………あなたみたいな男に出会ったの、初めて。
アタシね、物心付いた時にはもう、ストリートで身体を売ってたの)」
日向は衝撃を受けた。
ナタリアは続ける。
「(周りの女の子達も同じだった。
だから…………アタシはずっと
"女の価値なんて、そんなもんだ”って信じて生きてきたの)」
日向は。
かつて児童買春の横行していた、ある中米の国のことを思い出していた。
彼女も………その国の犠牲者なのか。
ナタリアは顔を上げ、日向を見つめた。
「(もし…………ここを出られたら。
あなたの国へ連れて行って!)」
ナタリアの瞳から、涙が溢れていた。
あの日…………
国連本部前で出会った、戦争で亡くした幼い息子の遺影を携えた母親の涙。
"敵を殺す”ことでしか、明日への希望を見出せない紛争地域の少年バヤル。
そして……目の前にいる、ナタリア。
一体、どれ程。
いつまで…………罪も無い、世界の子供達が犠牲にならなくてはならないのだ!?
日向の無念さと憤りは、絶えることが無かった!
〈日向とナタリア・完〉




