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春の嵐。

…………1月半ばに、見張り役の少年兵バヤルの助けを借り、一旦イスロ本部から脱出した日向武雅は。

メキシコシティまで出て、公衆電話から関係各方面へ連絡。

内訳は日本の家族の他、日本国内外のロボティクス関係者、当事国の日本大使館へ自ら置かれている状況を伝え、救援を依頼した。


バヤルから借りた2,000ペソは、ほとんどをそうした通信に費された。

まさに、食事も惜しんでのことであった。


そのようにして2月初めには、既に日向はイスロ本部建屋へ戻って来ていた。


「(驚いた!

本当に戻ってくるなんて!!

まあ…………Mr.ヒュウガは、そういう人だとは思ってたけどね)」


バヤルは片目をつぶって見せる。


元の監禁先の地下室の椅子に座りながら、日向は笑った。


「(正直な話、無事ここへ戻って来れてホッとしているくらいだよ。

何よりバヤル…………君も無事で本当に良かった)」


日向は……自分の"身代わり”をしてくれていた、バヤル手製のデク人形のモップの頭を撫でた。


日向が危惧していたのは。

自分の脱走が発覚し、バヤルの身に危険が及ぶことであった。

目的を果たした後、無事に誰にも気付かれずイスロ本部建屋へ戻るまで日向は全く気が抜けなかった。


バヤルは思い出したように口を開いた。


「(そうそう!

貴方の居ない間に、女が一人地下室へ監禁されたよ。

例のドメニコの愛人らしい。

何があったか?知らないけど、それ絡みでドメニコも酒浸りの毎日っていう話さ。

それはそれで迷惑だって、皆も呆れまくってる。

全く、どうしようもない奴だね)」


笑うバヤルの話を聞いて、日向も呆れ果てた。


バヤルは続けた。


「(他にもある。

日本へ派遣してたペドロサ隊長の対外派兵師団の部隊も、向こうで壊滅したって話さ。

何でも、こっちは50体のバトル・ヒューマノイドに数十の兵士を送りながら、たった6体のゲリラ式バトル・ヒューマノイドにやられたらしい)」


ドメニコの件よりも日向は、そちらの方に仰天し。

更には……安堵と喝采の感情が湧いてきた。

脳裏には、躍動する娘達の姿が。


(カトリーナ!

麻衣!

…………よくやった!!)


自らの瞼に涙が込み上げてくるのを日向は、こらえる。

自分の娘達を戦闘ヒューマノイドにしたことを懺悔し、責め立てる日々も送ったが…………その犠牲を払ってでも貫かなくてはならなかった意義が、ようやく実り出したのだ。


バヤルも日向の心情を察した。


「(貴方の造ったゲリラ式バトル・ヒューマノイドの方が、比べものにならない位強かったということだよ。

やっぱり、貴方は凄い研究者だ!!)」


バヤルは賛辞と笑顔を贈る。


しかし……喜んでばかりも居られない。


「(しかしバヤル、このようにイスロにとって不利益なことが続くと。

懸念されるのが組織そのものの崩壊だろう。

既に、この組織の士気も乱れ始めている。

争乱や暴動、造反には警戒しよう)」


だが、バヤルは意に介さない様子だった。


「(大丈夫だって!

いざとなったら俺が貴方を守るよ。

俺は生まれたっての戦場育ちだ。

こんなテロリストもどきの場所なんか、遊園地みたいなもんさ!!)」


したり顔を見せる12歳の少年バヤルを、恐ろしくも頼もしく思えてきた日向であった。





3月になった。

日本、来迎寺宅。


「お母さん。

わたし…………中米に行く!」


夜、居間でくつろいでいた母親美枝はじめ、華裏那やキッド三人衆は。

一斉に麻衣の方へ向き直った。


うろたえる美枝。

麻衣が何をしようというのか、肌で感じとっていた。


「…………麻衣。

あそこへ行くのは危険過ぎるわ!

日本とは違うのよ!!」


母親の頭の中には"心配”と"不安”の文字しかなかった。


しかし、娘の決心は揺るがない。


「取り戻しに…………

じゃなくて、取り返しに行くの!

…………本当の自分を!!

そして、お父さんを!」


聞いていた華裏那が立ち上がった。


「麻衣、あたしも行くわ。

…………ママ。

どうか行かせて!

いつかは決着を付けなくちゃならないことなの。

麻衣は、あたしが守る!

必ず、戻ってみせるから!!」


キッド三人衆も互いに顔を見合わせて頷いた。


カイトが口を開く。


「行くんだったら、オレらのチャーター機使おうぜ。

あのメタボオヤジ、女にイカれてチャーター機置き忘れやがって好都合だわ。

パイロットはコイツだ」


カイトは親指でマーフィを指す。


マーフィの隠れ技とは、民間航空機の操縦であった。

不安顔の美枝をよそに、カイトが話を進めていく。


「ホントはファースト・クラスでセレブな空の旅満喫…………って行きたいところだが。

残念ながらオレら全員とも金属探知機で引っかかっちまうもんで。

プライベート・ジェットでローカル飛行場使うしかねぇんだが、それでいいか?」


聞いていた麻衣が、無邪気に顔を輝かせる。


「わお!!

プライベート・ジェットだって!?

有名人みたい!

カッケーじゃん!!

乗りたい乗りたい!!!」


まるで遠足気分のはしゃぎ様だ。


カイトが仕切る。


「オシ、キマリだな!

マーフィ。

明日エンジンと操舵の試運転行こうぜ」


ケビンが美枝の機嫌を取るようにホットココアを淹れて来る。


コタツの中で寝ていたはずのニャーミーが顔を出し、皆を見渡して鳴く。


「ニャー」


春だ。


春は眠っていた力を呼び醒ます。


春は全てに新たな方向を指し示す。


全てが…………新しい力と希望を抱き、動きだす!!



〈春の嵐・完〉

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