臨時全校集会。
成田空港に到着したフィジー・エアウェイ航空の旅客機から、二人のスーツ姿の日本人が降り立った。
一人は初老になろうとしているが背筋は伸び、白髪の髪は整えられ、毅然とした顔付きの男性。
一人は50代を迎えたかに見える、比較的若い風貌のビジネスマン然とした男性。
D大学園理事長である保坂直光と。
附属第一高等学校校長の豊島敬一である。
イスロ対外派兵師団極東部隊の急襲テロが起きた日。
この二人の学園代表者は、留学生受け入れ先の国である南方・ポリネシアのトンガ王国へ親善訪問中であった。
当初は1週間程視察のスケジュールが予定されていたのだが、テロ勃発の知らせを聞き。
急遽切り上げての帰国路に着いていたのであった。
附属第一高等学校ラグビー部部室では、人間形態へと戻ったエリック=ティーチャーと。
来シーズンを担う2年生以下の部員達が、重苦しい雰囲気の中に居た。
エリックが口を開いた。
「ミヌスァーン。
イママデ、I kept it a secret(秘密にしていた)!
ガゥムェンヌスァーイ!!
I'm a バトルヒューマノイド!
ワカテシモタ、モウ、ココ、イレナイ。
Very,Very,カナシイ!
But,サヨナラデース!!」
部員達は皆、深刻な表情のまま黙って俯いている。
エリック=ティーチャーは続けた。
「………But!
ミヌスァン、ト、
The days we spent together(共に過ごした日々),
I won't forget!!!(私は忘れない!!!)」
それまで沈黙していた部員達だったが。
次期キャプテンである、ロック(ラグビーポジションで最も体格の大きいとされる)の日下将司が、顔を上げて口を開いた。
「………先生。
先生がロボットだろうと人間だろうと、変わりないです!
辞めないでください!!」
高校生ながら身長193cm、体重105kgの大男である日下の両眼から大粒の涙が溢れた。
他の部員達も、堰が切れたかのように涙を流しながら訴え始めた。
「先生!
辞めないでください!!」
「先生!」
「先生!!」
部員達は皆、エリックの周りに集まり。
肩を震わせて号泣していた。
エリックは、ただただ眼を閉じて立ち尽くすしかなかった。
附属第一高等学校の講堂で、臨時全校集会が開かれたのは間もなくのことであった。
学園理事長の保坂から話があるという。
普段、学園全体を統括する理事長が附属高等学校まで赴いて話をする機会というのは滅多にないことである。
整列した生徒達の両脇に、校長の豊島を筆頭とし高等学校の教員達が整列し………エリックの顔もある。
壇上で、保坂が切り出した。
「……第一高校の皆さん、改めまして。
学園理事長の保坂です。
この度は皆さんに御詫び申し上げたいことがあります。
去る1月29日、本学園内で起きた、国際テロ組織によるテロ事件におきまして。
当日、命の危機を伴う危険に対峙されていた皆さんに対し。
学園代表者として寄り添い、解決への力と成り得なかったことを。
深く御詫び申し上げます」
生徒、教員達へ向かい、深く頭を下げる保坂。
「また、この第一高校の生徒さんと教員さんの中で。
危険を省みず事件の収束に当たった方が複数名、おられると聞きました。
本来であれば非常にリスクを伴う行為である為、決して奨励できるものではありませんが。
結果的に、その方々の働きにより。
本学園関係者からは犠牲者、負傷者等の一切無く、事件収束の叶ったことへ学園代表者として感謝申し上げます」
「学園としては、今回起こった事態を重く受け取め。
今後、警察や政府諸疔とも連携し。
万全なるセキュリティの確保に努めて参ります」
ここまで話した後、保坂は講堂内を見回した。
「………さて。
ここで、本学園の昔話などを一つさせて頂きたいと思います。
皆さんも御存知の通り、本学園の大学では、昭和の昔から海外からの留学生を受け入れて参りました。
中でもトンガ王国からは、昭和50年代に我が国で初めて留学生を受け入れ。
更にラグビー部に入部して頂き、選手として活躍し大会出場を果たす等、非常に意義のある国際交流の礎となりました」
「今でこそ、国内の何処の大学や高校であれ、体育部に外国人留学生の姿を当たり前のように見られるようになりましたが。
本学がラグビー部にトンガの留学生を在籍させ始めた当時では外国人を試合に出場させる等、前例が無く奇異な行為として見られていました。
当然ながら世間の風当たりも強く。
"外人を使う等、ずるい”
といった、誹謗・中傷を受けたことも少なからずあったと聞きます」
「しかしながら、当時の我が学園の先人は。
"いずれ、日本の教育現場や社会そのものは国際化の波を迎える。
本学園の試みが我が国のスタンダードと成り得る時代が必ず来る”
と信じ。
たゆまぬ姿勢を貫き通した結果が、そのまま現代の我が国の教育界、社会に於いても広く受け入れられて行ったのです」
保坂は胸を張った。
「人や社会の価値というものは、肌の色、宗教や地域で決まるものではありません。
それを本学園は実証して来た、誇るべき経緯があります。
しかしながら現状を見渡すと、この度のテロ事件のような凶悪事件を起こす犯罪者が後を絶ちません。
これらを省みて私自身考えることとして。
重要なのは"人の形をして肉体を持つこと”ではなく、"人の心を持つこと"そのものではないかと思われます。
今現在の社会は、多くのロボットが進出し、貢献している社会です。
この度のテロ事件収束に貢献されたヒューマノイドの皆さんは、まさに
"人の心”というものを持ち、"人の心”を守り。
本学園を守ってくださった皆さんです!」
この時。
保坂の脳裏にも。
講堂に集まった皆の脳裏にも。
戦闘ヒューマノイド姿の麻衣……そしてエリック達が浮かんでいた。
「かつて、何処よりも早く外国人留学生を積極的に受け入れ、我が国の教育現場の国際化の礎を築き上げたように。
常に先へ先へと時代を見据え。
今こそ、本学園は。
我が国の教育現場に於いて、ロボットの貢献する時代の礎を目指すべきではないかと、私は考えます」
保坂は。
生徒一人一人、教員一人一人の顔を見渡しながら、こう尋ねた。
「皆さんに、お願いを申し上げます。
無理は申しません。
このような私の意見に賛同して頂ける方は、拍手を下さいますか?」
講堂内は一瞬、静まりかえった。
………しかし。
あちらこちらでパラパラと拍手が始まったかと思うと、瞬く間に増えていき。
やがて講堂全体の万雷の拍手へと変わって行った。
「ありがとうございます………ありがとうございます」
保坂は深く頭を下げながら。
皆へ向かい何度も礼を言った。
麻衣のクラスでは全員が拍手をしていた。
そして……ラグビー部員達も。
エリック=ティーチャーと麻衣に関して。
附属第一高等学校では、滞り無く新年度への在籍手続きが行なわれることとなった。
〈臨時全校集会・完〉




