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愛ある限り。

………中米・イスロ本部。



司令室のデスクに座る、総帥ドメニコ・マングスタは機嫌が悪い……というよりは、ここ何週間も機嫌が直っていない。


ゾッコンだった女性、ナタリアの件によるものだった。


当初ナタリアは"母親の看病の為”と言ってアカプルコの別荘を去り、クリスマス休暇以来姿を見せないどころか連絡も一切取れない状況となっていた。

連日気を揉んでいたドメニコは、いても立ってもいられず多額の資金で探偵を雇い、ナタリアの身辺を調査させた。


その結果…………

母親の看病とは大ウソで、ナタリアには他に男性が居り。

別荘で稼いだペイ&チップと更にドメニコが渡した多額の見舞金を二人で山分けしていた事実が判明。

最初から、それが目当てだったらしい。


嫉妬を超えた激怒に狂ったドメニコは、ナタリアが男性とベッドに居るところを自軍兵士達に急襲させ、男性は銃で惨殺され。

ナタリアは拉致され連れて行かれ、今現在イスロ本部建屋の最も深い地下室へ監禁されている。


ドメニコはナタリアの"裏切り”を許せないとしながらも未だ未練が残るという、複雑な?いや自分本位な感情に支配され続けていた。


「ナタリア〜〜〜!!!

なぜ、私の愛を受け入れない!?

こうなったのも全て、お前のせいだ!!」


司令室にテキーラの大瓶を何本も持ち込み、慣れない強いアルコールをあおりながら涙にくれ続けるドメニコ。

既に仕事のことなど一切頭に無い。

当然ながら………遠く極東の地まで遠征した自軍のことも、関心など有るわけが無かった。


と………


突然、デスク上のPC画面が開く。

すっかり酔いの回った目をドメニコが向けると、PCは自動的に通信画面へと変わった。



「?」



虚ろな表情で画面を見つめるドメニコの目に映った、見覚えのある不良男の顔………

人間形態のカイトの顔のアップだ!


「よお!

メタボオヤジ!!

生きてるか!?

俺を憶えてるか!?」


一気に酔いの覚めた気がしたドメニコ。


「ヒィ!

お、お前は!!」


目玉の飛び出そうな勢いの驚愕ぶりを見せるドメニコを、嘲笑うかのように画面の向こうで笑うカイト。


「朝っぱらから酒か?

ゴキゲンじゃねぇか。

嬉しいニュースをハイライトで伝えてやる。

テメェのよこした"毒蛇”部隊は壊滅させてやった。

今頃連中は、日本のブタ箱で臭いメシを食わされてるわ」


「!?」


ドメニコはようやく、"この件に限り”正気に戻る。


「………セ、セルピエンテ?

セルピエンテは!?」


「ああ、奴ならコテンパンにやられて悪運良く辛うじて生きてはいるが、一旦病院送りだわ。

当分、てか、永久にクニにゃあ帰れんだろ」



ドメニコの表情が固まる。



………嘘だ………あの、毒蛇の異名を持つ程の男が、50体もの戦場型戦闘ヒューマノイドを従えながら、コテンパンにやられて病院送り!?

嘘に決まってる、これは悪い夢だ!!

今、自分は酔い過ぎているだけだ………


ドメニコは脂汗を額に滲ませながら、必死に自分に言い聞かせる。


しかし、そんな"逃げ”もカイトは許さない。


「まだ、わかんねぇ?

今通信中のコッチのPC、蛇ちゃんのだってこと!

あと、忘れんなよ」


画面の向こうからカイトが、ニヤつきながらドメニコを指差す。


「次はテメェだ!

メタボオヤジ。

逃げんなよ!!」


「ヒィィィ!!」


悲鳴を上げ、思わずデスクの椅子から転げ落ちるドメニコ。

ついでにデスク上にある口の開いたテキーラの大瓶が倒れ顔に溢れ落ち、目の中、鼻の穴、耳の穴、口の中に注がれる。


「ブハッ!!

ブハッブハッ」


苦しそうに悶えるドメニコを、追加のテキーラを持って来た兵士が慌てて引き起こした。







D大学園板橋キャンパス。

中央広場。


人質となっていた多くの生徒・学生及び職員達は解放され、大学3号館の出入り口より出て来る。

麻衣の指示で教室に居た担任教師、クラスメイト達も外へと出て来た。


この事件の中心に居た、麻衣。

そして……栄太と山本君の3人をクラスメイト達が取り囲む。



その中で………島崎朱莉は。

面だけを外した防具姿の山本君を見つけると輪の中から駆け出し、抱き付く。


瞳からは涙が溢れていた。


「………良かった。

良かった!

山本君!!……無事で」


後は言葉にならず、朱莉は山本君にすがり付きながら号泣した。


汗にまみれ、無表情のままではあるが、山本君は朱莉と抱き合いながら口を開いた。


「姫様。

どうか御安心召されませ。

この磯之進、決して死にはしませぬ!

かの上杉謙信公も申されておりました。

"死なむと戦へば生き、生きむと戦へば必ず死するものなり”

(生き残ろうと弱腰になると死に、死の覚悟を持って戦うと生き残る)と!!」


無敵の強さを誇った戦国武将・上杉謙信の格言を守り。

令和の若武者は、獅子奮迅の闘いを見せたのだった!




麻衣は。


遠巻きに見つめるクラスメイト達と栄太の前で人間形態には戻らず、戦闘ヒューマノイドの姿のままの自分を晒した。

もう、隠す理由など無いからだ。


栄太はまだ、ヘルメットを被ったままだった。


二つの視線が絡み合う、沈黙の時間が続いた。


先に口を開いたのは、麻衣だった。

麻衣は栄太を見つめながら無表情のまま語りだす。



「………これが、本当のわたし」



栄太は表情を変えず、麻衣を見つめている。

麻衣は続けた。



「見てたでしょ?

わたし、トラック一台くらい簡単に粉々にしちゃうの。

人間とは違うの」



栄太の表情は変わらない。



「栄太の知ってる、来迎寺麻衣は………

もう居ないの。

わたしは………闘う機械。

戦闘ヒューマノイドなの!」



麻衣は。

自分の言葉が次第に涙声になってきているのに気付き、天を見上げた。

溢れるはずの無い涙が、溢れ出しそうに感じたからだ。


それをこらえながら麻衣は栄太に向き直り、こう告げた。


「………今まで黙ってて、ごめんなさい。

……………………さよなら」


踵を返し。

麻衣は背を向けて歩きだした。

決して振り返っちゃいけない……!

そう自分に言い聞かせながら。




「………相変わらず意地っ張りだな、麻衣」




麻衣は振り返る。


栄太の笑顔が、そこにあった。


立ち止まる麻衣に近付く栄太は、ブレザーのポケットから何かを取り出し。

それを戦闘ヒューマノイドの麻衣の首にかける。


「………え!?」


見ると………

それは千切れてしまっていたはずのクリスマス・プレゼントのネックレスだった。


栄太は告げる。


「華裏那さんから、コレ、麻衣に渡してあげてって言われてさ。

なんか、麻衣に可哀想なことしたって」


辺りを見渡したが、華裏那の姿は既に無かった。


愛おしそうに、ネックレスを見つめる麻衣。

言葉が出て来ない………


気付いた。

わたしは独りじゃない。

たとえ戦闘ヒューマノイドになってしまっても。



「麻衣………

麻衣が闘うなら、俺も一緒に闘うよ。

いや、技じゃ到底叶わないけどさ」


顔を上げる麻衣に、微笑みを投げかける栄太。


「一人より、二人だろ?」


栄太は右手を差し伸べる。


麻衣は……両手を差し出し、それをしっかりと握っていた。

メカニカル・アイではない、右の瞳が潤んだ。


「………栄太!」


全てのこだわりを捨てた麻衣が、栄太を抱きしめる。

ヘルメット姿の栄太が、それに応え。

夕陽に染められた二つのシルエットが、一つになった。


クラスメイト達も、拍手と歓声で二人を包む。


「よ!御両人!!」


「バカ!

茶化すんじゃないの!!」


お調子者の男子生徒の頭を、涙ぐむ女子生徒がひっぱたく。



「良かった………

良かったね………!

麻衣!!」


朱莉も目を真っ赤にして涙を流している。



「ウォォォォォォォ!!」


遠くから見つめていた由美香も、滝のような涙を流しながら雄叫びのような号泣をしていた。



暖かい風が、春の近付きを知らせている………



愛に支えられながら。

麻衣は最期の闘いに挑む!!



〈愛ある限り・完〉


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