受難の兵士。
拡声器を手にしたセルピエンテが、キャンパスの中央広場に集められていた人質…………生徒・学生・職員達に告げた。
「おまえらを解放する!」
各々の表情に、安堵や驚きの表情が浮かんだ。
しかし待機中のエリック=ティーチャー、キッド三人衆達は警戒の姿勢を崩していない。
「おかしい………何かウラがあるな、こりゃ」
"毒蛇”と言われていたセルピエンテのやり口をイスロで聞いていたカイトは勘ぐる。
エリック=ティーチャーが辺りを見渡す。
「マイ、Where?」
その少し前、軍用トラック内に居る麻衣は、オペレーター兵から半ばPCをひったくりながらキーボードを自ら打っていた。
「(本当に、何が起きても知らないよ!)」
心配そうなオペレーター兵をよそに、パネルを見ながら麻衣は素早く指を動かす。
仮にセルピエンテとの"取り引き”が成立し、このPCが向こうの手に渡る前にやっておくべき事を思い付いたのだ。
このPC内の戦闘ヒューマノイド稼働オペレーションシステムの概要については、これまでオペレーター兵が操っていたルートディレクトリ=階層構造全般を麻衣は既に記憶出来ていた。
また、先程エラーとなり警告メッセージが発生した理由についても解析出来た。
造反の起きないように、イスロ内の人間名称を入力しても無効となる様予め対策されている為であった。
これらが理解出来たのは、麻衣の電子頭脳に情報を導く右眼のスキャナー・アイによるものだけではない。
現時点で、日本の高等学校には「情報1」という必修科目が2022年度より組み込まれており、オペレーションシステムの仕組みやプログラミングの学習が既に取り入れられている。
海外のICT先進国教育と比較すれば日本は遅れをとっていたが、それも麻衣の在学中には挽回しており。
電子頭脳の能力と相まって更にスピードを伴った解析を麻衣に可能にしていた。
「………これでヨシ!
っと」
ようやくパネルから顔を上げ、一呼吸する麻衣。
「(ハイ、返してあげるね!)」
不安を隠せない様子のオペレーター兵にPCを返しながら、麻衣は言って聞かせる。
「(大丈夫だよ!
………あなたの命は、わたしが守るから!)」
オペレーター兵へ席を戻しながら、麻衣は笑顔を見せた。
オペレーター兵は感心したような顔を麻衣に見せてから、俯きがちに視線を落として言った。
「(………正直言って、今回の出動には僕も気乗りしなかったんだ。
いくらなんでも、何の罪も無い日本の子供達まで巻き込むなんて。
そもそも、イスロがこんなテロ組織だなんて知らずに入ってしまったのが間違いだったんだ)」
麻衣はオペレーター兵の意外なカミングアウトに驚いた。
「(あなた、兵士になる為にイスロに入ったんじゃなかったの!?)」
麻衣の問いに、オペレーター兵は強く否定する。
「(違うよ!
僕は、最初はヒューマノイド・ロボットのシステムエンジニアとして入ったはずだったんだ。
それが、いつの間にか対外派兵師団に配属させられて………戦場送りになったんだ。
何度も辞めようとしたけれど、その度に"命令違反は銃殺だ”と脅されて)」
麻衣は思った。
やっぱりイスロはこうゆう組織なんだ!
と。
猫型戦闘アニマロイドの開発者である須賀。
そして………我が父、日向武雅も。
この兵士と同じく取り込まれていったのだ!
麻衣に向き直り、オペレーター兵は続けた。
「(君はロボットだけど、人間以上に人間らしいよ!
イスロは………人間の形をした悪魔だ!)」
麻衣は尋ねる。
「(あなた、名前は?)」
「(デビッド………デビッド・ヒックマン!
アメリカ人だよ)」
「(わたし、麻衣。
デビッド!
日向博士を知ってる?
イスロに居るの!
ヒューマノイドの開発者なの)」
デビッドは暫く考え込んでから、思い付いたように言った。
「(名前は知らなかったけど、イスロの開発室に出入りしていた頃、東洋人らしき研究者が居たのを憶えてるよ!
眼鏡をかけてた)」
「(彼は、まだイスロに居るのかな?)」
「(まだ居るかどうかまでは、わからないけど………
彼を何故知ってるの?)」
「(わたしの父なの!)」
「(…………何だって!?)」
デビッドは驚きで、ひっくり返りそうになった。
セルピエンテは再び麻衣達の乗る軍用トラックへと歩いて来た。
機関銃は構えたままだ。
「おい、小娘!
条件は飲んでやる。
出て来い!!
Hickman!
Grab your PC and get out!!
(ヒックマン!
貴様はPCを持って出ろ!!)」
(いよいよだ!)
麻衣とデビッドは緊張の面持ちで地面へ降り立った。
〈受難の兵士・完〉




