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魔法石採掘場②

 その男が空洞に入って来た瞬間、オリビアたちは体が緊張する。


「悠弥、体が自由に動きません。」


 三人とも何とか武器を構えるが、とても動きづらそうだ。


 HUD:

 『悪魔騎士(デモナイト)

 ☆この世界に存在しない。魔界より契約により召喚された悪魔。


「デモナイト。オリビア、分かるか?」


「分かりません。悪魔族の文献はそれほど多くは残されていないので…ただ、あの威圧感は体が動かなくなるほどの恐怖を感じます。」


 悠弥が刀を構える。


「ほう…どうやら、俺たちを知ってるやつがいるらしいな。」


 悪魔騎士は静かに悠弥たちとの距離を縮める。それは無防備とも取れるが、余裕があるように思えた。


「そこの男。貴様がアスタをやったな?」


 悠弥を指して、言う。


「さっきの悪魔の事か?俺がやったぜ。敵討ちでもするか?」


「馬鹿言うな。貴様がアスタより強かったと言うだけ。負けたなら、あいつが悪い。…そうだったな。貴様たち人類は、戦いに意味を求める傾向にあるって話だ。なら、アスタの敵討ちはいい理由だな。」


 そう言い終わるからどうか、悪魔騎士は悠弥に飛び掛かった。悪魔は剣を抜くと、鋭い斬撃を悠弥に浴びせる。


「中々に粘るな!」


 悪魔は笑っている。


「粘ってるわけじゃねぇよっと…」


 悠弥は隙を見て、反撃するが、刀は空を切る。


「さっきアスタがどうとか言ってたが、お前にも名前があるのか?」


「ふん、これから死のうという奴に教える名などないわ。聞きたかったら、俺に勝ってから聞け!」


 また悪魔は襲い掛かる。奴の斬撃は激しく、すでにオリビアたちが目で追える域を超えつつある。


「くそ!私はまだこんなにも弱かったのか!」


 シイカが力を振り絞り、体を動かそうとするが、まだ叶わず。


「貴様、そんなにあの女どもが気になるか?」


 これこそ悪魔の囁きだった。悠弥はほんの瞬間、彼女たちに視線を奪われる。


「!?」


 次の瞬間、悪魔の剣が悠弥の脇腹を捉えた。


-キン…!-


「手応えは合ったってのに、堅いな。」


 弾き飛ばされた悠弥を見て、驚いている。


「悪いな、期待させちまって。」


 悠弥は立ち上がる。


「底は知れた。貴様のその自信は、自分の防御によるものか。はっはっはっ!種が知れれば、何とも稚拙なものだ。」


 悪魔は盛大に笑っている。


「ならば、その防御を突き破るほどの攻撃を仕掛けるだけよ!!」


 また奴は襲い掛かって来た。互いの攻防が始まる。


(”ランス”)


 悪魔の背後から魔法が襲う。


「そんなものは読めておるわ!」


 やつは背後に向けて、魔法を放ち、それを相殺する。そのまま剣を悠弥に向けて、繰り出すがそれも悠弥は防ぎきる。一度、両者は距離を取る。


「底を見た気になって、調子に乗るなよ。底を作るのはお前じゃねぇよ。」


 悪魔の顔に一筋の傷が付けられている。それを見た悪魔は激昂した。


「貴様ぁ!!この俺に傷だと!!この俺が!!下等な種である人類風情にだと!!」


 悪魔の体から煙のようなモヤが立ち昇っている。


 HUD:

 『邪神祝福』

 ☆神の恩恵を享受している。


(邪神?暗部の報告にあったやつか。それと関係あるって事は悪魔は邪神の使徒って事になるのか?)


 悠弥がそうこう考えているうちに、悪魔は攻撃を仕掛ける。


「どうした人間よ!やはり貴様たちは我ら悪魔族には到底敵わぬ!!」


 それに反応を見せる悠弥。一見、悪魔の攻撃が苛烈のあまり防御一辺倒に見えてしまうのだが、彼にはまだ余裕はあった。少しでも情報を引き出したい思惑がそう見せていた。


「まだ耐えるか!何百年ぶりか!抵抗せずに楽に死ねばいいものを!!」


 悪魔は

 そもそも悪魔族はこの世界に存在せず、冥界から召喚される事により顕現する。その力は人類を遥かに超え、最下級のインプでさえ、人類にとっては脅威である。それもあって、自信に害を及ぼすような存在との対峙は極めて少ない。


「なら、サービスで目的くらい教えて欲しいもんだな!」


 両者の攻防は続く。


「はっはっはっ!それは契約者との約定で話せぬな!」


(大方、ブレインの連中が呼んだんだろうが、特定はできねぇか…)


「悠弥!!」


 シイカが悪魔に飛び掛かった。


「待て!シイカ!!」


 彼女の剣は簡単に弾かれ、腹部に強烈な拳をお見舞いされる。


「がはっ!」


 シイカは壁まで吹き飛ばされ、動かなくなった。


「俺の拘束が解かれたか。舐めていたわけではないが、劣等種に解かれるようでは、俺もまだまだだな。」


「おい、てめぇ…」


 悠弥から少し殺気が漏れ出している。


「ほぅ…貴様は(ともがら)を害されると熱くなるタイプか…これは面白い。ならば!」


 悪魔はオリビアとサラに向かって、魔法を繰り出した。


(シールド!)


 二人の前に魔法防壁が展開され、事なきを得る。


「さらに増しおった。」


「冗談もそれまでにしろよ。」


 悪魔もその雰囲気を感じ取った。


「アスタが負けるわけよ。まだ力を隠しておった。ならば、全部見せろ!そして、俺を楽しませろ!!」


 だが、すでにそのステージは過ぎていた。正確には悪魔の行動により、二足飛びに上がっていた。


「サシなら、まだ遊んでやっていたが、仲間も巻き込もうってなら、話は別だ。」


 悠弥の刀が鋭い金属音と共に視界から消える。


-キィィィン-


「何をしておる!そんなも…あっ?」


 ドサッという音とともに、悪魔の両足が地面に転がり、やつも這いつくばった。


「貴様!何をした!」


 喚く悪魔に少しずつ距離を詰める悠弥。


「ただ刀を振るっただけだ。もう遊びじゃねぇんだよ。」


 HUD:

 『魔力増大』

 ☆対象の魔力が増大し、集束しています。


 悪魔が何かをしようと企んでいる。


「何をしても無駄だ。知っている事を吐け。」


 悠弥は悪魔の腕を切り落とし、武器を弾き飛ばす。


「まだ負けておらぬ。貴様が油断した瞬間にその喉元を食いちぎり、その命を頂く。」


 減らず口を叩く悪魔の頭を乱暴に持ち上げる。


「もうお前に勝ち目はねぇんだよ。まだこの世界とおさらばしたくなかったら、吐け。」


 悠弥が悪魔の喉元に刀を突きつけた瞬間、悠弥と悪魔の隙間に眩いばかりの光が放たれた。


「!?」


 悠弥は悪魔から距離を取るが、既に遅かった。奴が何かしようと企んでいると予測はしていたが、攻撃性の無い閃光だとは予想していなかった。寸でのところで目を潰されずには済んだが、悪魔は空間に亀裂のようなものを生成し、


「ヒューマンよ。この勝負は一旦、仕切り直しだ。俺は貴様の顔を忘れんぞ!」


 そう言い残し、亀裂の中へ消えていった。


「やられた。」


 悠弥は刀を納めると、オリビアとサラも体の自由を取り戻す。


「シイカ!」


 二人は彼女の元へ駆け寄る。シイカは辛うじて息はしていた。


「悠弥!シイカを!」


「大丈夫だ。生きてる事は分かっている。」


 悠弥がシイカの元に行くと、治癒魔法を施す。


「心配ない。傷はすぐに癒せる。」


(だが、心のほうが心配だな。ずっと頑張ってきただけに自分の不甲斐なさがショックだろう。)


 彼女の傷は徐々に消え、その表情は安寧を取り戻したように見えた。


「これでよし。二人ともシイカを見ていてやってくれ。」


 悠弥は女神像に近寄る。改めて、女神像の首裏の宝石を取り外した。その直後、女神像から光の円環が放たれ、空間を支配していた嫌な雰囲気は一掃され、女神像は淡く光を帯びる。


 HUD:

 『女神ミーシア像』

 ☆ミーシアを模した石像。女神の祝福を受けた像は災厄から守護する効果が得られる。


「これでよ…」


 悠弥が安堵の声を漏らした瞬間、意識が無くなった。


「悠弥!」


 オリビアとサラが心配するが、シイカの元を離れるべきかに迷う。


――――――――――――――――――――――――


「あっ?」


 悠弥は白い空間にいた。


「またあいつかよ…おい!今は忙しいんだ。用件は早くしてくれ。」


 だが、いつもの声は聞こえない。


(なんだ?呼んだくせにダンマリか?)


”時任悠弥…”


 その声はいつも聞く声ではなかった。


「誰だよ…」


”私はゼンディ…女神ミーシアを主神とする神の一柱…”


「俺は宗教家じゃねぇぞ。」


”時間がありません。手短に説明します。彼の国が災厄を迎え入れようとしています。どうかあの者を信用せず…正しい運命を切り拓いてください。その手助けとなるよう私()()から力を与えます。”


「あの者?誰の事だ?」


”それは私が言葉に出来る者ではありません。どうか…どうか…”


「おい!ゼンディ!」


 短い時間だったが、ゼンディの声は聞こえなくなった。それと同時に悠弥は意識を取り戻す。


 HUD:

 『成長進化(グロウアップ)

 ☆スキルの練度によって、進化を促す。悠弥のみ保有できるスキル。


――――――――――――――――――――――――


「悠弥!」


 二人の声が聞こえる。


「オリビア、サラ。大丈夫だったか?」


「それはこっちのセリフです!」


「そうですわ!あなたがいきなり意識を失ってしまわれたので、心配しましたわ!」


「どれくらい経った?」


「それほど長くはありませんが、心配する程度には長かったです。」


「すまないな。」


 そして、シイカも目を覚ます。


「オリビア…サラ…」


「シイカ!」


 二人はシイカを抱きしめる。


「悠弥…すまない…」


「いや、よくやった。」


 悠弥はシイカを優しく撫でる。


「強くなったと思ったのだが…まだまだだな…」


 シイカは自分の手を見つめて、落胆した声を落とす。


「まだまだ強くなれるさ。よし、次の坑道に向かうか。ここはこれで大丈夫だろ。」


 四人は坑道から出ると外は夕方だった。


「一度、拠点に戻るぞ。」


――――――――――――――――――――――――


 四人はコウショウたちを呼び寄せ、会議室に集まった。


「では、鉱山が閉山していた原因は悪魔族による工作だっというわけですね。」


「あぁ…まだ一か所だが、他もそれが原因だろう。」


「原因がはっきりしている分、この問題は楽だと言えますね。ですが、悪魔族の情報は伏せておきましょう。ハーレス王国にこの情報を知らせると要らぬ混乱を招くことになります。」


「頼りにしてるぜ。」


「お任せください。」


 会議は順調に終わった。部屋に戻った悠弥は女神ゼンディの言葉を思い出し、”成長促進”の効果を検証する事にした。


 HUD:

 『成長促進』を開始します。


 HUDにズラリと並ぶスキル。


(こんなに進化するのか…こういう所はゲームくさいんだよな…)


 HUD:

 『脳内辞書』が進化『世界全書』

 『気配察知』『危険察知』『魔導感知』が進化『存在感知』


(ん?魔導感知?これ、サラのスキルだよな?)


 HUD:

 『渡来人(わたりびと)の伴侶』が進化『導魂授儀(エンゲージ)』による効果。双方のスキルの一部が使用可能となる。


(チートすぎるだろ…あっ、そうか、俺自体がチートか…)


 何でもありになってきたと思ったが、妙に納得してしまう。


 HUD:

 『精査鑑定』が進化『情報解析』

 『魔法創造』『詠唱魔法』『無詠唱魔法』『結界術』が進化『魔導神(マジックルーラー)

 『全製造適性』『全生産・製造』が進化『物質自在(アルケミスト)

 『異空間収納』『空間自在』が進化『空間支配(ジャンパー)


 これ以上、HUDの表示はなかった。


「世界全書、存在感知、情報解析、魔導神、物質自在、空間支配、導魂授儀か…」


 などと考えていると、部屋の外からバタバタと勢いのある足音が聞こえてきた。そして、彼の部屋の前で止むと、ドアが勢いよく開かれた。


「「「悠弥!」」」


 妻三人が悠弥に詰め寄る。


「今、部屋で休んでいたら、突然、力が湧いてきたのですが、これはあなたがやったのですか?」


「落ち着け、オリビア。」


「いえ、落ち着いていられません。悠弥と夜を共にした時にも感じたのですが、その時は鍛錬のおかげだと思っていましたが、今回のそれは前のものとは比べ物になりません。」


 三人とも興奮を隠しきれていなかった。


「説明するから…俺の持ってるスキルが進化したんだ。そのスキルの一つに俺と深い関係にある者にも影響があるスキルがあったから、それの影響だろうさ。」


「ふ…深い…ですか…」


 オリビアは恥ずかしさで顔が茹蛸のように赤くなる。他の二人も同じ様だった。


「では、これは愛の結晶という事ですわね。」


「サラ…言い方な…だが、その認識でもいいか。あとちょうどいいから、少し試したい事があるんだけど、いいか?」


 三人は不思議そうな顔を浮かべるが、


「私たちがお役に立てるなら、構いません。」


「ありがとう。新しく情報解析ってスキルを手に入れたんだけど、どの程度か試したくてな。何か違和感があったら言ってくれ。」


 そういうと悠弥は三人を見つめる。


 HUD:

 『オルリベイラ・クィン・セルザイン』

 ☆『身体強化』『魔法適性(全)』『導魂受儀(エンゲージ)』『剣術適性』『弓術適性』『※※※※(未開放)』『※※※※(未開放)』

 ☆好奇心旺盛。悠弥を愛している。シイカ・ベント、サリスフェアと良好な関係を築いている。


 『シイカ・ベント』

 ☆『身体強化』『一刀両断』『導魂受儀』『剣術適性』『槍術適性』『斧術適性』『※※※※(未開放)』『※※※※(未開放)』

 ☆慎重。悠弥を愛している。オルリベイラ・クィン・セルザイン、サリスフェアと良好な関係を築いている。


 『サリスフェア』

 ☆『魔神祝福』『夢魔女王(サキュバス)』『魔導感知』『導魂受儀』『拳術適性』『槍術適性』『弓術適性』『※※※※(未開放)』『※※※※(未開放)』

 ☆大胆。悠弥を愛している。オルリベイラ・クィン・セルザイン、シイカ・ベントと良好な関係を築いている。


「どうだ?」


「特に何も感じませんね。」


「私もだ。」


「私も感じませんわ。ただ私は魔力が見えるので、悠弥の魔力が少しこちらに向けられたようには見えました。」


「そうか。サラは魔導感知ってスキルがあるからな。このスキルは魔力に依存してるって事か。」


「どういうスキルだったのですか?」


 オリビアは好奇心が顔に出ている。


「相手のスキルとか個人的な情報が見れるらしい。」


「えっ!?」


 三人は驚いている。


「とは言っても、全部見えるわけじゃない。心を読むとか出来ないからな。」


「それでも有用なスキルだと思います。この世界にそのようなスキルは存在しません。まして、悠弥はそれを言語化しているなど、やはり規格外なのですね。」


「これで少しはマシな未来に繋がるといいんだがな…」


 その晩は四人でスキルの事で盛り上がり、翌日を迎える事となった。

読んでいただきありがとうございます。


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