第4話:聖女様は「俺の才能」がバレるのを阻止したい
放課後の図書準備室。陽葵はいつものように俺の膝を占領していたが、その顔はどこか険しかった。
「湊くん。……これ、どういうことかな?」
彼女が俺の目の前に突きつけたのは、スマホの画面。そこには、世界最大級の小説投稿サイトのランキングページが表示されていた。
「……あ、バレたか」
「『バレたか』じゃないわよ! プロフィールに『死んだ魚の目をした隠居人』なんて書いてるから、もしかしてと思ったら……。湊くん、今ネットで一番話題の覆面作家『ミナト』だったのね!?てか名前そのまますぎでしょ!バカなの?」
そう。俺には、陽葵に言っていない秘密があった。暇つぶしに書き始めたネット小説が、いつの間にか異例のヒットを記録し、SNSでも好評の嵐、書籍化が確定。コミカライズもほぼ決定的という噂で持ち切りだった。
「……ただの趣味だよ。陽葵には関係ないだろ」
俺が淡々と答えると、陽葵はガバッと起き上がり、俺の肩を掴んで激しく揺さぶった。
「いーや関係ある! 大ありだわ! もし湊君が『天才作家』だって世間にバレたら……!湊君の魅力に、世界中の女の子が気づいちゃうじゃない!それだけは、絶対に、絶対に阻止しなきゃ…!!」
陽葵の瞳に、見たこともないほどの危機感が宿る。彼女にとって、俺が「学園の嫌われ者」であることは、俺を独占するための最高のバリアだったのだ。
「……別に、苗字までは出すつもりないよ」
「甘いよ湊くん!ネットの特定班をなめないで!砂の写真を載せるだけでどこの県のどこの公園か分かってしまう強者ばかりなのよ!湊くんの文章から漂う、この冷たくて心臓に刺さるような独特の空気感……。熱狂的な信者なら一瞬で見抜いちゃうんだから!」
「(……てかめっちゃ俺のファンじゃん)」
「決めたわ。湊くん、今日から君のスマホとPCは、私が検閲するから。……変な出版社の人とかファンが近づかないように、私が全部『処理』してあげる」
「処理って……おい」
陽葵は俺のスマホを奪い取ると、超高速でタイピングを始めた。出版社の関係者、ファンからのメールを全てゴミ箱へ叩き込み、「作者は現在、極北でアザラシと暮らしており連絡不能です」というデタラメな自動返信を設定していく。
「これでよし。……湊くん、君の才能は私だけのものなんだから。君は、誰にも理解されない『死んだ魚の目の男』のままでいいの。分かった?」
陽葵は俺の頬を両手で挟み込み、熱っぽい視線を向けてくる。
「……わかったよ。好きにしろ」
俺が溜息をつくと、陽葵は満足そうに俺の胸に顔を埋めた。
「ふふ、いい子だね。……ああ、でも今の湊くんの『諦めたような顔』、最高にインスピレーションが湧くよ。……ねえ、次の章は『私をモデルにしたヒロイン』が、主人公を監禁する話にしてくれる?」
「……書けるか、そんなもん」
学園の聖女様は、俺が「ただの事故物件」であることを守るために、今日も陰で巨大なメディア業界を相手に、孤軍奮闘という名の情報統制を続けるのであった。




