第14話:聖女様の防衛線、決死のルール作り
翌日。放課後の図書準備室には、これまでにはなかった「異常な緊張感」が漂っていた。四角いテーブルを囲むのは、委員長の陽葵、副委員長の春香と美月、そして「更生対象」の俺だ。
「……さて。正式に委員会が発足した以上、まずは『活動ルール』を決めなければなりませんわね」
陽葵は、もはや聖女の微笑みを放棄したような、どす黒い笑顔で書類を叩きつけた。その書類には、びっしりと細かい文字で「禁止事項」が並んでいる。
「第1条。夜凪君への接触は、委員長の許可制とする。第2条。夜凪君との私語は、更生に必要な最低限の敬語のみとする。第3条。夜凪君に果物(特にミカンやリンゴ)を与える行為は、毒物混入の恐れがあるため即刻退学処分とする」
「(……全部私怨だろ)」
「えー! 第3条、厳しすぎない!?せっかくリンゴ、うさぎさんカットにしてきたのに!」
春香がタッパーを取り出し、一かじりし、シャリシャリと美味そうな音を立ててリンゴを掲げる。その瞬間、陽葵がトングでそのリンゴを奪い取った。
「(あ、またトングだ)」
美月がスマホから目を離し興味を示しながら脳内でそう突っ込んだ。
「没収ですわ!委員長の私が、まずは毒味(という名の完食)をいたします!」
「あ、ズルい!毒見っていって自分が食べたいんじゃないの?ね、美月もそう思うよね?」
話を振られた美月は、相変わらずスマホの画面から目を離さずにボソッと答えた。
「……私はどっちでもいいけど。てかさ、天ヶ瀬さん。そんなにルールで縛ったら、逆に夜凪が更生するチャンスを奪うんじゃないの?しらんけど」
「……っ。どういう意味かしら?」
「だって、更生って『社会復帰』でしょ。私たちみたいな普通の人と普通に接する練習をさせないと、いつまでも天ヶ瀬さんの『檻』の中でしか生きられないダメ人間になっちゃうよ」
美月の何気ない正論が、陽葵の心臓を的確に射抜いた。陽葵の目的は、俺を社会復帰させることではなく、自分の「檻」に一生閉じ込めておくことなのだから。
「そ、それは……!彼は特殊なケースなのですわ!一般的な社会性など、彼には毒でしか……!」
「あ、そうだ!じゃあさ、体育祭の種目、夜凪も一緒に出ようよ!混合リレー、二人三脚とか、みんなで協力すれば、一気にクラスの仲も深まるよ!」
春香が爆弾を投下した。陽葵の顔が、みるみるうちに蒼白になっていく。もし、俺が体育祭で活躍でもして、クラスの女子たちの注目を浴びようものなら――。
「(……体育祭か。小説のネタ探しにはいいかもしれないな)」
俺が少しだけ興味を示すと、陽葵の独占欲が臨界点に達した。
「……させませんわ。絶対に、させませんわよ。そんなことさせるわけがないじゃない。夜凪くんが太陽の下で、他の泥棒猫たちに一生懸命な姿を晒すなんて……! 私が許しません!体育祭の日は、学校全体を……大雨に、いいえ、槍を降らせてでも阻止して差し上げますわ!」
「(天候操作しようとしてるぞ、この聖女)」
「あはは!天ヶ瀬さん、冗談きついなー!てるてる坊主、逆さに吊るす勢いだね!」
「そんなレベルじゃなねーだろ」
笑い飛ばす春香と、本気で槍を降らせる算段をしていそうな陽葵。そして、それらをすべて「ミナト」の新作のプロットとして脳内にメモし始める俺。スマホいじってる美月。
「てかさ」
スマホをいじりながら美月が口を開いた。
「天ヶ瀬さん、夜凪のこと好きなの?」




