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22話

「なんで織部はそんなに勉強できるんだ?」

 ある日のある休み時間、ふと気になって俺の前の席に座ってる織部にそんなことを聞いてみた。

「知らねぇー。昔からできたし、見たものは大抵覚えられるからな」

 窓側の壁にもたれるように、椅子に座って本を読んでいる織部は、本から目を離すことなく俺の言葉に対してぶっきらぼうにそう返事をした。


 こういうのを天才って言うんだろうか。

 てか別に記憶力が良いってだけが勉強ができる理由じゃない気がするけど……絶対分かってて適当に返事してるだろ。てか俺には記憶力がないって言いてぇのかよ。

「それっておれに対する嫌味か?」

「いや先に聞いてきたのお前だろ」

 それはそうだけども。


 多分織部は地頭が良いんだろう。だから頭の回転も速いし、かつ記憶能力が高くて器用だから何でもできるように見える。

 でもそれが理由だとして、それでも織部の性格というか感覚はよく分からないと俺は思ってる。


「織部は何が面白くてそんな色々と知りたがるんだ?普通知りたい分野とか、好きなことだけ調べて満足するんじゃねぇのかって思うけど」

「そうだなぁー。色々知っておいて損はないだろってのが一番の理由だけど……でも聞きたいのはそういうことじゃねぇんだろうな。んー」

 織部は全く体勢を変えずに、本を読み続けながらそんなことを言ってる。無駄に器用だな。


「新しい知識とか情報ってほぼ無限にあるだろ?それを知るってのは、それがどんなものでも面白いからとしか言いようがねぇな」

 つまり何でもとにかく”知る”ことが面白いと。やっぱり俺にはよくわからねぇな。

 確かに知ることに損はないと思うけど、全部が全部生きてて絶対使うわけでもないだろうし。

 その時間があるなら、俺の場合は自分にとって楽しいこととか趣味の時間に使いたいって考える。


 俺が納得いってないように見えたのか、織部はそのまま話を続けた。

「あと意外と役に立つぞ?知ってればそれをきっかけに何か思いついたりもするし、それが必要じゃなくてもその”考える”って過程を作れるからな」

 織部はそう言うと、頭を使うってのは意外と意識してやってないと忘れるもんだからなと答えた。


 まぁ、織部みたいにすぐ覚えられるってならそう考えるかもしれないけどな。

 やっぱりそういう才能の部分が、性格とか感覚にも影響するんだろうか。

「でもやっぱ俺にはよく分かんない感覚だな」

「根本の部分で言ったら藍も同じだろ。てかお前に限らず、大抵の奴が何かしらに興味を持って生きてるのがお前のよく言う普通だと思うぞ」

 そういうもんだろという口ぶりで織部はそう言って話を続けた。


「例えば、お前が一番”興味”を持てるもの、って聞かれたらなんて答える?」

 興味が持てるものか……よくやることとか、身近にあるものをイメージするかな。

「うーん、一番すぐ思いつくと言えばやっぱゲーム関連だな。毎日何かしらやってるか、動画を見たりもするからな」

 多分一番好きなことは何かって聞かれても、ゲームって答えると思う。

「じゃあお前が何かゲームをやるとして、お前は内容もタイトルも評判も何も見ずに、適当にやるゲームを選ぶか?」

 織部は手元の本のページをめくりながらそう言う。

「それは絶対ねぇな。ゲームするなら絶対、内容とタイトルは調べる。やるゲームがすごく面白いかどうかは置いといて、少なくともやりごたえのあるのがやりたいからな」

 ゲームは無料(タダ)じゃないし時間も有限だ。まあ無料でできるのもあるし、それでいて神作だって言われる物もあるけどそれは例外として。


 自分が良いと思った作品(ゲーム)はお金をかけてこそだと俺は思ってる。どんな形であれお金をかければ、もっと良いものになったり新しいものを作る基盤になる可能性がある。

 でもお金は無限じゃない。だからこそ、やりごたえのあるものをやりたいと思うのは、一般的に見て普通だと思うんだけども。

 というかそれに関係なく、何も知らずにってのは無理じゃねぇか?


「その時に、そのゲームについて知るために藍は何をする。そのゲームをやりたいって思うまでの過程で何をしてる?」

「ゲームの内容、タイトルを知るための過程……」

 織部に言われたことを言葉のままで考えた。

 んー自分で見つけるとして、まず調べるのは大雑把な内容とジャンルだな。それを知らなければ、まずやりたいかどうかすら分からない。次に評判。実際にそのゲームをプレイした人の感想とか評価は、より客観的な内容について知ることができる。


 あと一番多いのは、やっぱり知り合いに薦められたときだな。知り合いなら俺が好きなゲームの内容、ジャンルを知ってる奴もいる。そういう奴から薦められたものなら結構信頼できる。つまり言うと、

「ある程度調べて評判とか見て決めるな。あとは教えてもらったものを参考にすることが多い」

「まあそうなるよな。誰かに教えてもらうにしても、その過程でも色々と”知る”ためのものが必要だろ?」

 まあ細かく言えばそうなるのか?


「じゃあさらにそのゲームをプレイ・クリアしてすごくハマッたとしたら?そのときお前はどういう行動を取る?」

 変わらず本を読みながらしゃべる織部にそう聞かれた。ゲームをクリアした次に取る行動か。

「色々とゲーム内で散策したり、あとは攻略法を調べて実際にやってみるかもな。あとは、他の人のプレイ動画を見たりして、内容の考察とか勝つためのコツとかを知ろうとする」

 創った人の真意は分からねぇけど、俺の見えなかったこととか知らない部分に気づくのを見てると面白い。

 PVP系のゲームならある程度メタとかもあるし、俺は見つけるよりも知ってそれを出来るようになるまでやるタイプだからな。


「で、そうするのはどういう感情からだと思う?」

「感情か……そう言われるとはっきりとは思いつかないけど、多分面白いとか楽しいとか、驚きとかを求めてるかもな」

「それが俺が何かを知ろうとする理由だ。自分の気になることを調べて知っていくことが面白いし楽しい。それでいて、ついでにいろんな情報を得て他のことを判断する」

 そう言われれば同じような気はする。ああだから”根本は”同じって言ったのか。

「俺はその面白いと思うものの範囲が広いってだけだ」


 つまり、織部の性格の本質はその無限に近い興味。

 言いたいことは分かったしある程度どういう感覚なのかは理解できた。

 でもやっぱり何にでも興味を持つってのは、俺には理解できない感覚だとも改めて思う。

「なんだ、まだ納得できねぇか?」

「いやそれは分かったけど、お前って本当に何でもできるよな」

「そうか?」

 最初から何でもできるって意味じゃなくて、コツをつかむのが上手そうだって意味。

 でも別にできないことは何もないような完全完璧には見えないんだよなー。


 人付き合いも良いし適当に話してても疲れなくてちょうどいい。

 多分やろうと思えば大抵のことは出来るのに、あえてそれをしない選択を取る変な奴。

 ただ、俺はこいつがたまに見せる「何でもできる感じ」があまり好きじゃない。

 あとそれを第三者的に見てると純粋にむかついてくる。

「織部ってほんと変な奴だな」

「お前には言われたくねぇけどなー」

 本を片手で開いたまま少し横にずらして俺の方を見ると、織部は何の裏もなさそうな笑顔でそう言った。


「藍だってそこまで勉強できないわけじゃねぇだろ。別に俺が教えなくても、真面目にやってりゃ満点くらい簡単なんじゃねぇか?」

「さぁ、どうだろうな」

 否定するのは釈だからしないけども、さすがに飼い被りすぎだ。

「ふーん。ま、別に俺には関係ねぇけどさぁ」

 織部は読んでいた本を片手でパタンと閉じ、窓のヘリに肩肘をついて軽く寄りかかると、俺の方を見てそう適当に返事をしてきた。


 俺は別に天才でも非凡でもない、ゲーム好きの普通のその辺にいる高校生だ。

 勉強で常にトップの成績を取りたいわけでも、誰とでも仲良く話せる人あたりの良い人になりたいわけでもない。


 まぁ、天才でクラスでも学校全体でも人気のある織部さんがそう言ってくれるのは、喜ぶべきことなのかもしれませんけどねー。

「俺は普通でいいんだよ。別に興味もねぇし」

「本気でそう言ってるのかねぇ」

 分かったような呆れたような口調でそう言われた気がした。

 本気に決まってるだろ、俺は平穏に暮らしたいだけ。

「まあいいや」

 織部はいつもの調子でそう言うと、また手元の本を開いて続きを読み始めていた。

 なんかうぜぇー。

「俺は目立ちたくねぇんだよ」



 特にやることもなくて、休み時間にまで勉強をする気にはならないから、残りの時間は適当にスマホのゲームをしてた。

 すると、俺の横に誰かが立つ気配がしたかと思えば、ゲーム画面を見ていた視界の端に人の影が入ってきた気がした。

「なあお前ら」

 相手の姿は見てないけど、流石に真横に来て話しかけてきてるから、話しかけてる相手が俺と織部なのは分かる。

 声からして俺のクラスの奴だってのも分かってる。


 けど、別に普段からよく話すような相手でもないから、とりあえず相手と先に相手に視線を向けた織部との会話を適当に話を聞いた。

「ん?なんだ?」

「あのさ、その、なんと言うか」

 話しかけてきた相手は、少し言い淀みながらそう言ってきた。

 そこから言葉は続くことなく、少し待てと言ってそいつは一度下がっていった。


 よくよく聞いてると、俺らに話しかけてきたやつ以外にも二人ぐらい近くにいて、そいつとひそひそ何か話してる気配がした。

「おい、やっぱお前が行けよ!」

「ええ……さっき君がやるって決めたんだから最後まで聞いてよ」

「まだ何も言ってないから俺じゃなくてもいいだろ」

「いやでもあの二人に話しかけるのちょっと……」

 そう何か言い合いをしてるのが若干聞こえてきた。

 多分誰が話を切り出すかを先に決めたのに、いざ俺らを前にして押し付け合いをしてるんだろう。あまりにも会話が進まないから、何してんだよと声をかけたくなるほどだった。

 いやてか時間なくなるぞ?


 どうしたもんかという空気が、俺と織部の間で流れてる。俺は別に何もないならそれでいいんだけども。

 ちなみにここまで俺は一度も、ゲーム画面から目を離してないし手もとめてない。


 先に動いたのは織部で、一度読んでいた本を閉じ机の上に置くと、少しあきれた様子を見せつつ、いつもの態度で呼びかけるように彼らに話しかけた。

「なんだよ。そんな渋らずにはっきりと言えよなー。何も聞かずに断ったりなんかしねぇからさぁ」

 それを聞いた相手は、なぜか若干怖がるような様子を見せた気がしたけど、意を決したように改めて近づいて話しかけてきた。

「ちょっとさ、授業で分からないことがあってですね……」

「もうすぐテストじゃん?俺らもさすがにやばいと思ってて。でも俺たちって、正直言って普段からあんま良い態度じゃねぇから、先生に聞きずらいんだよ」

「頼む!時間あればでいいから!」

 そう言いながら、そいつらは俺らに向かって揃って頭を下げてきた。


 なんと言うか自業自得……別に先生たちも真面目にお願いしたら聞いてくれると思うけどな。こいつらが根は素直なのは知ってるだろうし。

 その素直さを普段から出せば苦労しないだろうに。不器用だなーまあ、俺には関係ねぇけど。

「つまり、勉強を教えてほしいってことか?」

「はい。その通りでございます」

「どうか我々に、勉強を教えていただけませんでしょうか!」

 彼らはそう言うと、今度は土下座する勢いで俺たちに向かって頭を下げてきた。

 それを見て俺は一度ゲームをする手を止めた。

 それなりに真面目な話のようだったからとりあえず話だけでも聞いておこうと思ったが、正直面倒なのは変わりない。

 というかまず前提の話、

「なんで俺らなんだ。もっと勉強できる奴なんてクラス探せばいるだろ」

 学級委員長とかさ。いつも教室の隅で目立つことなく、ただいるだけの勉強ができるかもわからない俺らに普通聞くか?ってのが俺の感想。

 そしたらそいつらは、すごい真面目な顔をしてこう答えた。

「いやだって頼みずらいだろ!普段からすげぇ忙しそうだし、そんな人たちに話しかけようものなら、」

「クラス中の女子を敵に回すことになる!そんな命知らずなことできるわけない!」

 本気でそう思ってるらしい。

 で、適当に暇そうで、それなりに勉強できそうなやつに話しかけた、と。


 いや、それ別にお前らが普段から面倒な絡み方してるからじゃないのか。

 俺が用事あって話しかけたときは別に普通だったし。

 もしそうなら本当に自業自得だなと思いつつ、それでもわざわざ俺なんかに本気で頼みに来たのを断るのも後味が悪いと思って、一応自分の予定を思い出しておく。

「とにかくさ!そいつら以外で、なんとなくお前らなら勉強もできそうだと思ったんだ!普段の小テストも毎回点いいだろ?当てられたときも毎回正解してるし」

「だから頼む!俺らの分からないところだけでも教えてくれないか?」


 学校にいる間の時間、休み時間か放課後で暇なときくらいなら教えられなくもない。

 まあ何にしろ時間は取れるだろ。

「俺はいいぜ。藍もいいか?」

「別にいいよ。毎日は無理だけどそれでもいいならな」

「マジでありがとう!」

「この恩は絶対どこかで返します!」

 そう言って彼らは深々と頭を下げると、一旦時間もないから自分の席に戻っていった。まぁ、たまにはこういうのも良いか。



 ーーーーー

「藍たちが教えるのかぁ~。面白そうだねぇ」

 昼休み。いつものように屋上で四人で集まり適当な話しをしていると、織部がさっきあった出来事を芽彩と咲弥にも話していた。

 で、咲弥からそういう反応が返って来たけども、口ではそう言ってるけど全く興味がなさそうな様子なのが口調から伝わってきた。

 というか少し疲れてるように見える。

「それでぇ、私たちとの勉強会の時間とかが減るかもってはなしぃ~?それなら私は全然大丈夫だよぉ~むしろ私も委員会とかで行けてないことも多いからねぇ」

「自分に合う勉強の方法もある程度分かってきたから。俺も大丈夫」


「完全にやらなくなるわけじゃないし、あくまでも減るだけだからな」

「まあ先にやってたのはこっちだしなー蔑ろにするつもりはねぇよ」

 それは俺も同意。教えると言っても、こっちの予定を優先するのは変わらない。


「ってことで、しばらくは全員集まれないかもしれねぇから。柴田はこの間渡したやつちゃんとやっとけよぉ?」

「……はい」

 満面の笑みでそう言った織部に対して、咲弥はいつも通り真顔だけど、いつもより若干嫌そうな顔をしてそう返事した。

「まぁまぁ。テストまであと二週間だしぃ、それが終われば遊びも部活も自由なんだからさぁ~」

「そうだな。目標さえ達成できれば、後のことはそのときに考えればいいだろ。そしたら別に俺の教えたこと忘れてもいいからなー。まあ、覚えてくれてた方が嬉しいのは違いないけどな」

 芽彩と織部が、咲弥に対して口々にそう言った。

 んー織部の言葉は普通に俺にも刺さるけど……まあ覚えた内容だけじゃなくて、勉強のやり方も結構分かったし、しばらく忘れることはないだろうな。

 咲弥の方も喜んでいいのか分からなず、絶妙な反応をしていた。

「善処します」


 そういう会話をしてると、突然俺のスマホに誰かからの連絡の通知が来た。

 一瞬見えた通知の文字を見て内容を確認してみると、今目の前にいる咲弥から送られたものだった。

 目の前にいるのになぜ?と疑問に思いつつ、送られてきた内容を確認してみると一言、

 ”後で時間あるか?”

 とだけ書かれていた。

 目の前にいてわざわざこんなことしてくるってことは、他の奴らに聞かれたくないか聞かれたら困ることなんだろう。


 そんで俺の勘からして、多分その内容はそこまで重いことではないと思う。

 俺がそれに対して、”分かった”と返事をしたところでちょうど昼休みが終わった。

「それじゃあな」

「また勉強会のときにねぇ~」



 その日の放課後、部活が始まる前の時間に咲弥と、屋上までの階段で会う約束をした。

 屋上は放課後は解放されてないから、この時間にここに来る人はいない。

 授業が終わりすぐ教室を出てそこに行くと、階段を曲がったところで屋上扉の前で腕を組み仁王立ちしていた咲弥が見えたが、いい感じに逆光になってて面白い。

 それはいいとして、俺は咲弥の元に近づくとさっき送られてきた内容の意味を尋ねた。

「それで話ってなんだ?」

「少し相談というか、提案したいことがあって……」


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