1話。戦利品強奪
Zと思ったか? 残念だったな。
Zの前に思い浮かんだので初投稿です。
ネタとして許される範囲はどこまでなのか。
誰も得をしないチキンレースの開幕。
予定は13話。5万字くらいです。
おう。俺様だ。ベシータ様だ。
ファイナル・ソード・フラッシュで偉そうな連中を一掃したんで、さっさと令嬢とメイドが待つ拠点に帰ろうとしたんだが、ここでふと思いついたのだ。
『戦利品の強奪はどうした?』ってな。
連中のドロップアイテムもそうだが、そもそもこの居城がな。豚野郎のくせにそこそこいい感じの城を建てていやがったんだ。だからこそ宝物庫っぽいものがあるかもしれないし、なにより連中が貯め込んでいたであろう食料が欲しい。
アイテムボックスの中にそれなりに蓄えはしてあるが、ザイヤ人たる俺様は一度の消費が激しいし、なにより中身が基本豚肉と果物と野菜しかないからな。おそらくだがこいつらはハチミツとか持ってると思うんだよ。そういう変化が欲しいんだ。
「ってなわけで探すとするかね」
宝物庫とか食糧庫を探す場合だとスカウターがまったく役に立たねぇのが地味に痛いんだが、まぁ探索を楽しむと思ってやれば悪くはない。
少し令嬢とメイドを待たせることになるが、その辺はハチミツとかで我慢してもらうとしよう。
「おっと、そうだ(唐突)」
さっきの一撃でBP10000と5000の連中は消えたが、まだBP2000の連中は結構残っているから、連中を土産代わりにいくつか持っていくってのはどうだ?
今の二人の実力は、スキルを使われれば勝てねぇが、スキルを使う前であれば勝てるし、スキルの効果時間を消費させた後でも勝てるって感じだ。
BP的なおいしさはねぇが技術的な成長は見込めるし、その戦闘を見ることで俺様も学ぶものは多いからな。戦闘や武術の才能を活用した見取り稽古ってやつだ。
本当は俺様と互角に戦える奴がいればいいんだが、今の俺様はそういう次元をすっ飛ばしちまったからな。今思えば最初に潰したBP2000のやつは少し勿体なかったかもしれん。
いや、それもこれも俺の中の日本人が『痛い思いをしたくないからできるだけBPを上げろ』って囁いた結果だから誰にも文句を言うつもりはないんだが、まぁ感傷ってやつだ。
「過ぎ去ったことについて振り返るのはあとにするとして、とりあえず宝物庫を探すついでに土産用の豚野郎を見繕うとしますかねっと……ん?」
そんな感じでスカウターを起動したんだが、妙な反応があることに気付いた。
「BP50前後の奴がいる? それも複数? さらにこの大きさは……」
なんども言うが、豚野郎のBPは一番低いやつで80前後だ。大きさについては、一応比べればわかる程度の差はあるものの、基本的に80のやつも150のやつも大差はない。
生まれたばかりのやつなら小柄でBP50ってのもいるかもしれないが、さすがにまだ見たことはない。つまりはレアものだ。
ちなみにだが、ここの巣の規模は偉そうな豚野郎の居城があっただけあり、だいたい5000匹程度の豚野郎がいる。それを考えればこれまで見たことがなかったタイプの豚野郎がいても不思議ではない。
なにより……
「子供の方が肉が柔らかくて旨いってんなら、こいつはどうなんだろうなぁ?」
ちなみのちなみにだが、豚やイノシシの場合は知らんが仔牛の場合は生まれたばかりの肉は固いとされており、数か月間だけ育成した仔牛肉が最上級のものとされているぞ。これ豆な。
ただし、向こうの仔牛がそうだからと言ってこっちの豚野郎がそうだとは限らないわけで……。
「こいつぁ味が気になるところだぜ」
生まれたばかりの子供を肉目当てで狙うとか、字面だけでいけば完全に危険人物の発想だが、相手は豚野郎だからな。現実は非情で、弱肉強食の理は平等なのだ。あきらめろん。
「さぁて子豚ちゃん。いま行きますよぉ」
うぉぉぉん。今の俺は焼肉な気分だ。
食いまくって人間火力発電所になってやるぜ。
―――
???視点
「い、いまのはなんなの!?」
突然お空が光ったと思ったら上の方からすごい音がしたの!
上の方は王様がいるところで、今日はとうとう私とサリスがお役目として召し上げられるところだったの。だから私とサリスは他のお仕事はお休みで、二人して水場で身を清めていたの。
サリスはずっと「嫌だ。嫌だ」って言って泣いていたの。
私も嫌だったけど、里のみんなのために我慢しようと思っていたの。
でも『水浴びが終わったら王様のところにいかなきゃいけない』と思うと、どうしても体が動かなくなってしまって、サリスと一緒に震えていたの。
もう少しで係りのオークナイトが呼びにくる。そう思っていたら、突然お空が光ってすごい音が聞こえてきたの!
最初はカミナリかと思ったけど違ったの。
「ゼ、ゼフィ!」
「わ! ど、どうしたの?」
急にサリスが大きな声を上げたから驚いてサリスの方を見れば、さっきまで泣いていたはずのサリスが泣き止んでいたの。それだけじゃなくて……。
「あれ、あれ……っ!」
「あれって?」
「いいからゼフィも見て!」
「えっと、うん。わかったの……」
あんなに沈んでいたはずのサリスが、目をまんまるにしながら王様がいる居城の方を指さしていたの。
本当は見たくなかったの。だってあそこに行ってしまえば私たちはいろいろ終わってしまうってわかってたから、できるだけ見ないようにしてたの。でもあんまりにもサリスが「早く! 早く!」って急かすものだから、私も覚悟を決めてみることしたの。
「……え? お城が、ない?」
そしたら、そこにあるはずのものがなかったの!
「やっぱり? ゼフィにもそう見える!?」
「う、うん。お城が、なくなってる、の」
「そうよね! そうだよね!」
そう。私たちにとっての恐怖の対象であったお城がなくなってたの。
正確にはお城の上のほうだけがなくなっている感じだったけど、それでもわかることがあるの。
あそこは王様がいたところ。王様がどうなったかは知らないけど、あんな状態で私たちにお役目をさせるなんて思えなかったの。
「助かったんだ! 私たち、助かったんだよ!」
「……うん。助かったの!」
……もしかしたら何かの腹いせで王様や将軍様に嬲られることになるかもしれないよ。
今日助かったところで何かが変わったわけじゃないんだよ。
怖い言葉が頭をよぎったけど、さっきまでの悲観に呉れた涙とは違って、助かったことが本当にうれしくて泣いているサリスを見たら、そんなことは言えなかったの。
心の底から喜べないことを悪いと思いながら、とりあえずこれからどうしようかって相談しようとしたときのことだったの。
「豚野郎じゃない、だと? なんだ貴様ら。ここで何をしていやがる?」
突然声が聞こえてきたの! それも男の人の声が!
「「え!?」」
ここは男の人は絶対に入れない場所なの。入ろうとしただけで殺されちゃうの。
ここに入ってくることができる男は、オーク語しかしゃべれないオークの雄なはずなの。
だからここで男の人の声が聞こえるのはおかしいことなの。
「も、もしかして里の人、ですか?」
サリスがそう聞くけど、たぶん違うと思うの。
里の人が助けに来たならもっと騒動がおこっているはずだし、なによりあの人たちが私たちを助けに来るはずがないの。
……だって私たちはあの人たちの生活を守るために差し出されたんだから。
「言葉が通じる、か。はぁ。面倒なことになりやがったぜ」
あの時のことを思い出して俯いていたら、向こうの人がため息を吐きながら声をかけてきたの。
いや、正確には声をかけるっていうよりは独り言だったけど。
それでも私は気付いたの。この人の声色にはオークを恐れる色が全くないってことに。
おそらくサリスも気付いたと思うの。だから、だと思うの。
「お、お願いします! 助けてください! 私にできることならなんでもしますから!」
サリスは私が何かを口にする前に、いや、たぶんだけど、向こうの人が帰ってしまう前にそう叫んだの。
「なんでもって、お前もかよ」
なにか呆れられたような感じだったけど……結果を言えば、この一言が私たちにとって最良の結果になったの。
私たちを救ってくれたのはベシータ様。
とっても強くて、だけど、とっても優しい獣人の王子様だったの。
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