幕間2。奇跡(お肉)の価値は
レビューをいただいてうれしくなったので初投稿です。
ベシータ様の出番はなし
(今さらですが幕間のサブタイトルはDB関係)ないです
令嬢視点
「森から出る、かぁ。正直全然考えていなかったわ。サキはどう?」
リョウ様。いや、今はベシータ様とお呼びするべきだろうか。とにかくベシータ様が『片付け』と称してどこかに飛んで行ってしまったのを見て、私はそう呟いていた。
いや、一応は生きて帰れたらやりたいことっていうのはあったんだけど、それが現実になるとは思っていなかったのよね。
「そうですね。私も特に考えていませんでした」
聞けばサキも同じだったらしい。うん。わかるわ。
「なんだかんだ言って数か月ここにいたけど、特に困ることってなかったものね」
「……そうですね」
きちんとした建物があって、寝台があって、水場があって、なんならお風呂もある。
こんな生活を送っている中でやることといえば簡単な常識の授業と修行だけ。
貴族としての礼儀作法もいらず、貴族特有の煩わしさもない。
あえて困ることといえば着替えの数が少ないことと、お洗濯のときに私たちの下着とベシータ様の服が一緒になっていることくらい? いくらなんでもそんなことに文句はいえないわ。
(修行については……まぁ、いろいろとアレだったけど、間違いなく必要なことだったし)
最初のころはいつでもどこでも無機質なオークの目に見られている感じがして億劫だったけど、今となってはそれもない。
(おそらくだけど、ベシータ様が半死半生になったのを連れてきたのを処刑するだけだったのが負い目になっていたのよね)
今は最初から最後まで私が潰しているんだから、そこに負い目なんてないわ。
所詮この世は弱肉強食。強いものが食べて、弱いものが食べられるのよ。
それを悟ってからは連中に何を言われても負け豚の遠吠えとしか思えなくなったわ。
貴族の令嬢としては如何なものかと思わなくもないけれど、ここは礼儀作法に則った華麗さや優雅さを競う社交の場ではなく、暴力こそがものをいう森の中。礼儀作法でオークは殺せないのよ。
もしも私に『それでいいのか?』なんて言ってくる連中がいたらこう答えてあげましょう。
「あなた。それを森の中でいえる?」と。
尤も、森を出たあとは貴族の令嬢としての礼儀作法は必要になるでしょうけど。なにせベシータ様は貴族としての私に価値を見出しているみたいだし。
今更権力になんて興味はないけど、受けた恩は返さないとね。
踏み倒すなんて考えはない。
私はまだピッて指をさされて内部から破裂したくないの。
信じられる? ある日突然「そろそろできそうな気がする」とか言ってジェネラルに指を向けたかと思ったら、指の先にいたジェネラルが爆発四散したのよ?
意味がわからなかったわ。超スピードとか催眠とか、そんなチャチなものじゃなかった。あれを見たとき、私はベシータ様には絶対に逆らわないって決めたのよ!
ベシータ様の非常識はさておくとして、逆らわないと決めたからには出立の準備をしなくてはいけないわ。
でも今更準備って言われてもねぇ。
「何か持っていくものってあるのかしら?」
「あぁ、移動方法をお聞きしていませんでしたね」
「そうなのよ。担いでいくつもりで出したら『なにしてやがる馬車に積みなおせ』なんて言われたら意味がないわ」
もともと着替えとかは馬車に積んでいるの。最初はそれを外に出そうかと考えたんだけど、ベシータ様のことだから、また馬車ごと移動するかもしれないのよね。
その場合出立の準備どころか二度手間にしかならないわ。
だから着替えとかは一応いつでも馬車から取り出せるようにしておくくらいでいいわよね。あと持っていくものといえば……。
「普通ならお水とかお塩とか食糧、よね?」
「そうなりますね。ですが、ベシータ様はアイテムボックスをお持ちですので、我々が準備する必要があるのかどうか……」
「そうなのよねぇ」
アイテムボックス。伝承によると異世界から召喚された勇者様なんかが持っていたといわれる希少なスキルだったんだけど、今は勇者様の血を引くとされる人とかが突発的に覚えたり、古式魔法の研究者なんかがそれに近い技術を再現したとかで、珍しいことは珍しいものの、それなりに使い手がいるスキルになってしまっているのよね。
もちろん私たちは覚えてないんだけどさ。
でもあれがある限り、荷物について考える必要ってあんまりないのよね。いや、恩人であるベシータ様に荷物持ちさせるのか? と言われるとちょっと困るんだけど、たぶんベシータ様ご本人も『俺が持ったほうが早いだろ。無駄なことはやめろ』って言って持ってくれると思うのよ。
そうなると残るは……
「お肉、かしら?」
「あぁ。それがありましたか」
「っていうか、ベシータ様が私たちに準備させるのってこれしかなくない?」
「いわれてみればそうですね」
お肉。まぁオークが落とすお肉なんだけど、サキ曰くこれってかなりの貴重品らしいのよね。
あれは修行を開始して半月くらい経ったときのことだったわ。
―――
「よろしいですかお嬢様、初めてお会いしたときに、リョウ様から頂いたオーク肉を当たり前のものだと思ってはいけませんよ」
「どうしたのよ、急に」
本当に突然きたわね。
「もともとオーク肉は高級食材として知られていますが、オークの森に住むオークの肉は別格とまで言われているほど高級なものなのです」
「へー」
食べてるものとか魔力の濃さが違うんだっけ?
「軽いですね。いいですか? リョウ様曰く、この森には普通のオーク(BP100)が数十万。オークウォリアー(BP200)が数万。オークソルジャー(BP500)がおよそ1万。オークナイト(BP1000)が数千。近衛騎士団が全滅を覚悟するようなジェネラルオーク(BP2000)が数百。それ以上、おそらくキング種(BP5000)が12体いるそうです」
「そうみたいね」
リョウ様からすれば普通の豚野郎。普通のやつよりは強い豚野郎。少しは戦える程度の豚野郎。微妙な強さの豚野郎。村長的な豚野郎。偉そうな豚野郎って感じでしかないけど、ジェネラルが数百って言われると怖いわよね。
「そうみたいね。ではありませんよ。通常のオークでさえ騎士と戦えるほどの力があるのに、ウォリアーになれば騎士でさえ苦戦し、ソルジャーに至っては近衛騎士でなんとか戦えるかどうかの存在となるのですよ? そんなのが普通に森の中で狩りをしているんだとか」
「怖いわねぇ」
「そう。怖いのです。この時点でオークの肉を取るためだけにこの森に入ることは難しいと理解していただけたかと思います」
「そうね。死んじゃうもんね」
「はい。たとえ国王陛下であっても、まさかお肉のためだけに騎士を死なせるような命令は下せません」
「そりゃそうよ」
そんな命令したら暴動がおきるわ。肉のために国を滅ぼした愚王として名を残すことになるわよ。
「加えて、もともとジェネラルオークの事件があったことから、王国はオークの森に入ることを原則禁止しております」
「え? そうなの?」
初耳なんだけど。
「そうなんです。私がここに逃げ込んだのもそれが理由の一つでした」
「あぁ。追手を躊躇させるため、ね?」
バックスたちは躊躇しないで入ってきたけど、あれはかなり例外的なことだったわけか。
「はい。当初の私の考えでは、王国は私たちを殺すための刺客を送ろうとするクトニオス卿に対しては許可を出すことはないでしょうが、私たちの安全を確保してくださるであろうミッタークエセン伯爵家に対してであれば探索の許可が下りるのではないか、と愚考しておりました」
「なるほど」
可能性は薄くともサキなりに勝算はあったわけね。
まぁ最終的にはリョウ様に助けて頂けたわけだけれども。
「そういった事情がありますので、たとえ王侯貴族であってもこの森にいるオークの肉を得ることは簡単ではありません」
話が戻ってきたわね。
「集団を派遣できない以上、オークを倒すのも一苦労します。だというのにオークの肉が必ずドロップするわけではありません。またドロップアイテムとしてオークの肉が出たとしても、もともとが生肉ですので足が早いのです」
「ふんふん」
「なので基本的にこのオークの森で得たオークの肉を口にすることができるのは、偶然調査依頼などを受けて森に入り、偶然オークと戦闘になり、偶然オークの討伐に成功し、偶然オークの肉がドロップした高位の冒険者や、それと個人的な付き合いがある人間に限られるのです」
「なるほどなー」
それでは高くなるのも当然よね。
「よって、あの日に頂けたお肉はとても稀少な品なのです」
あの日どころか毎日いただいているけど、それを当たり前だと思うなって言いたいのよね?
「さらにリョウ様曰く、一番おいしいのは子供の肉だとか」
「そういわれると残虐な気もするわね」
オークからしたら私たちって子供を好んで襲う化け物に見えるんじゃない?
「牛や羊、鳥だって食べていますからね。今更ですよ」
「それもそうか」
子供の方がお肉が柔らかいっていうのは聞いたことがあるし、そういえば私も仔牛の方が好きだったわ。
「話を戻しましょう。それで、この子供のオークは基本的に集落から出ることはありません」
「らしいわね」
「なのでもしこのお肉を得たいと思った場合は集落を襲わなくてはなりません。でも集落にはジェネラルオークがいます」
「それは、無理ね」
まだ戦ったことはないけど、ジェネラル自体は何度も見たわ。リョウ様は片手間に倒しているし、私も森に入る前と比べてかなり強くなったって実感はあるけど、自分では勝てないことくらい理解しているわ。
「はい。普通は無理なのです」
そんなに普通を強調しなくても大丈夫だってば。それにサキが言いたいこともわかったわ。
「たとえリョウ様がどれだけ簡単に得たものであっても、あれは限りなく高級な食材。私たちはそれをいただいた恩を返さなくてはならない。そう言いたいのよね?」
「そうです。差し当たっては私が責任をもってお返しするつもりですが、もしかしたらお嬢様にもお手伝いをしていただかなくてはならなくなるかもしれません」
「それは別に構わないんだけど。むしろ私が率先して恩を返さないとダメなんじゃない?」
もともと助けてって頼んだのは私なんだし。
「それはいけません! まずは私からです!」
「えぇぇぇぇ」
いやぁ、サキがリョウ様のお手付きになりたいってのは知ってるけどさぁ。そもそもの話、サキは焦っているからアレかもしれないけど、リョウ様は別に私たちの体を求めているわけじゃないと思うのよね。
「……なにかご不満でも?」
「いや、サキがそうしたいならそれでいいわよ」
だからそんなライバルを見るような視線を向けないで欲しいんだけど
「そうですか! ではそのようにさせていただきます!」
「え、えぇ。そうして頂戴」
うん、サキがいろいろな妄想に浸って幸せでいられるんだから、もうそれでいいわ。
―――
あれから早数か月。いまだにお手付きにしてもらってないみたいだけど。貸しとか借りの話は一体どうなったのやら。
「……何か?」
「なんでもないわ」
えぇ。なんでもないのよ。で、何の話だっけ?
あ、そうそうお肉よ。お肉。
「時間の経過がないことがアイテムボックスの長所だと思っていたけど、それだけじゃなかったわね」
長所は短所とはよく言ったものよね。
「……そうですね。時間が経過しないということは熟成されないということでもありますから」
微妙に誤魔化せていない気もするけど今は無視よ無視。
「そうね。あのお肉は生でも十分以上においしいし、少し焼いただけでもかなりおいしいんだけど、おいしいからこそ他の食べ方も試してみたくなるのよね。そして燻製とかハムにするにはどうしても時間がかかるわ」
「はい。だからこそアイテムボックスに大量のオーク肉を保管しているベシータ様も加工中のお肉には手を付けておられません」
ここでしょう。
「つまりはそれらを持ち出せるようにすることこそが、ベシータ様がいう『出立の準備』ってわけね」
「そうだと思います」
引っ越しの準備がお肉の準備っていうのもどうかと思うけど、相手がベシータ様じゃしょうがないわよね。
私だってこのお肉は好きだから問題ないし、なんなら御爺様へのお土産として使えるかもしれないと考えれば、ここに置いていくという選択肢はないわよ。
「よし、そうと決まったら準備を……ってあら?」
晴れているのに空が数秒光ったと思ったら、遠くからカミナリのような音が聞こえてきたわ。
これは明らかに自然現象ではない。というか。
「カミナリ、いえ、リョウ様ですね」
「ベシータ様、よ」
「これは失敬」
「まったく、隙あらば距離を縮めようとするんだから」
「メイドですので」
「それはどうなの?」
サキの乙女心はさておくとして、今のは間違いなくベシータ様の攻撃の余波。
そしてベシータ様が技を使ったのであれば戦闘は終わったとみていいわ。
つまり? もうすぐ帰ってくるってことよ。
「帰ってきたベシータ様に『何もしていないじゃねぇか』なんて言われてお叱りを受けるのはごめんだもの。急いで準備しましょうか」
そのくらいでお叱りになるとは思えないけど、まぁ多少はね?
「そうですね」
サキも納得したことだし、やりますか!
――
とはいえ、森から出たら何をしようかしら。御爺様へのご挨拶と叔父様へ一撃加えることは確実として、問題はその後よね。
死んだはずの私が生きていたとして、よ。そんな私がいきなり『ブルマリア侯爵家は継ぎません。叔父様にお任せいたします』と宣言したところで周りがどう動くか……。
はぁ。今の私はサキとベシータ様さえいればそれでいいんだけどね。
とにもかくにも、森を出たあとのことよ。面倒なことが少しでも減るよう、いまからいろいろと考えておきましょうか。
肉、嫌いではないもの。
とりあえずマダオは殴る。
叔父は死ぬわ。私が殴るもの。
そんなお話でした。
―――
閲覧ありがとうございました。
本当におしまい? 作者のログにはなにも(ry
ポイント欲しいです。
おらにみんなの元気を分けてくれ!
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