第九殺
とりあえず、『助けに行きますか?Y/N』と表示されたウィンドウ見て迷わずにYを押した。押した瞬間、目の前の景色が変わった。目の前には3人のプレイヤー、そのどれもがPKを示すレッドネームが見えた。後ろにはトゥルムと知らない女性プレイヤーが2人。
「なるほど。PKが襲ってきたと。それで、どうしてトゥルムは戦わないんだ?」
PKerを見る限り、HPが減っている様子はない。
「いやー。MPがすっからかんの時に襲ってきてさ。任せてもいい?後ろの子たちは完全に初心者だから3対3でも厳しくてさ」
そういうことだったか。しかし俺もスキルを試したかったからちょうどいい。それに俺はやっぱりモンスターよりも人を相手にする方が好きだしやりやすい。
「ああ。任せておけ。相手がPKなら俺はレッドにならないよな?」
レッドプレイヤーになるのは嫌なので一応確認しておく。
「大丈夫だよ。だから思う存分やっちゃって」
思う存分とは言っても今の俺は武器がないので本気は出せないが、まあ見た感じ装備の質もよくなさそうだし、素手でも素のSTRが高いから問題ないだろう。この縛りの状態でPKに3対1で勝てば動画のネタになる。ウィンドウから録画をオンにしてウィンドウをすぐに閉じる。
「へっ!作戦会議でもしてたかぁ?一人くらい変わらねぇよぉ?初心者2人に魔法を使えない魔法使いとSOSの1人なんて取るに足らねえなぁ!」
リーダーと思わしきプレイヤーが威勢よく吠えた。
「待たせたか?俺が3人まとめて相手してやるよ。お前らくらいなら素手で十分だよ」
実際は武器がないだけだが。それに、素手での戦闘はさっきまでいやという程見てきたからな。
「ッ……。いうじゃねえか。なら望み通り袋叩きにしてやるよ!《ヴァニシング》」
PKその1が両手剣のスキルを使って、俺の目の前まで剣を振り上げた状態で急接近してきた。なんか挙動が地面の上を滑って近づいてきた感じに見えた。
「何その技。地面の上をスライドして移動するスキル?」
軽く煽りつつ、縦に一直線に振るわれた剣を少し体を横にずらしてギリギリのところで躱す。その直後にPKその2が放った矢が俺の顔のど真ん中に飛んできていたので顔を横に傾けて躱す。正確すぎる射撃は躱しやすい。さらに、PKその1の背後に隠れていたPKその3が短剣をこちらに向けた。
「《ヴォーパルスラッシュ》」
その3がスキルを発動させて、体がでかいわりに素早い動きで俺に突きを仕掛けてくる。そのスキルはな……当たらなきゃなんともないただの通常攻撃と何も変わらないんだよ!突きに対して、軽く横に跳んで躱した。突きというのは確かに最速で放てる強い技だ。しかし、当たらなければ側面は隙だらけになる。その隙を突かないほど俺は甘くない。がら空きの首に向かって鋭い手刀の突きを放つ。俺のSTRはかなり高い。それに加えて《疾風迅雷》が3回分上乗せされている。さらに《首狩り》や《無傷》なども発動している。その結果、紙装甲な軽戦士を一撃で屠るなんてたやすいことだ。
「こんなものか?」
煽るのは忘れない。こいつらだって好きでPKやってるんだ。このくらいは慣れてるだろ。
「くそがっ!こんなもんなわけねぇだろうが!」
まだまだ元気なその1。その2は弓を構えて俺をいつでも打てるように狙っている。
「《ヘヴィスラスト》!」
少し離れはしたがそれでもまだ近い距離にいたその1がすぐに別のスキルを発動して俺に迫る。刀身が輝き、縦だと躱されると思ったのかそれともスキルの仕様かわからないが今度は剣を勢いよく横に振った。その先から斬撃が飛んできている。斬撃はかなり低い。膝と腰の間くらいか?その2をちらりと見れば弓を少し高めに構えている。ああ、低めの横の攻撃を相手を飛ばせて空中を狙い打つつもりか。ならばその逆を行こう。
一瞬で思考し、速攻で地面に手をついて4足歩行の状態になる。その1はスキルのわずかな硬直でその2は驚きで動けていない。低い体勢のまま、顔の横に手を持ってくる。この構えから放たれる技は一つしかない。
「《月狼流:溜光貫手》」
溜めた時間はせいぜい1.5秒。それでも目の前のPKその1を殺しきるには十分だろう。4足状態から飛びつくようにその1の首に手刀の突きを放つ。その手はその1の首を貫いてその体をポリゴンエフェクトに変えていった。これで残るはその2のみ。
「頑張って当ててみろ」
そう言うや否や俺はその2の周りを円を描くように走りまわる。頑張って狙ってきているがそんな簡単には当たってやらない。
「くそッ!なんでどんどん速くなってんだよ!」
悪態をつきながらもあきらめずに俺に矢を飛ばしてくるその2。射撃の狙いが正確でうまいのだが、飛び道具では俺にとっては遅すぎる。この世界に生まれ変わってすぐに見たドラマで銃の存在を知って感動と同時に躱せるか?と本気で考えたものだ。当時の俺が思案した結果として、そういえば魔王の魔法でもっと速い攻撃があったことを思い出して、躱せる。という結論に至った。
「なあ、なんで銃が強いかわかるか?ところで俺も最近知ったがこのゲームってすごいことに慣性がしっかりしてて、勢いがつけば与えるダメージが大きくなるんだよ」
その仕様を知ったからこそAGIをこれまで以上に集中して上げていこうと思ったわけだ。
「はぁ?何がッ……言いたい!」
つまり何がいいたいかというと……
「はい時間切れ。正解は速いから、だ。そして今の俺は速い。つまり強い。それだけだ」
無茶苦茶な俺の理論を語ったところでさっさと倒してしまおう。PKその2が矢を打った瞬間にそれを躱して、一気に接近する。構えた手刀を顔の横に持ってくる。この技のRTは既にゼロになっている。
「《月狼流:溜光貫手》」
その2もその1とその3と同じように首を貫いた。ポリゴンエフェクトになって消えていくその2。これで戦闘は終わりだ。
「お疲れ様!助かったよ!」
振り返って、トゥルムたちに近づいていった。SOSが終わって元の位置に転送されかけの俺に声をかけてきた。
「ああ。先に街に戻ってるからあとで合流だ。後ろの二人のこともその時にな」
「わかったよ!」
そうトゥルムに言って、消える寸前にちらりとトゥルムの後ろにいる二人を見た。初めに来たときは分からなかったがどこかで見たことがある気がした。
そんなことを思いながら俺は元居た場所に転送された。
読んでくれてありがとう