違和感
ある初夏のことです。私は1人旅を決行し、つつじ祭りをしているという山道を歩いていました。車が混んでいて、私は夕暮れ道を急ぎました。やっと着いて見ることのできたつつじは、盛りを超えていました。雨にまで降られ、私は茶色くなって萎んだつつじの集まった枝を横目に、急ぎました。つつじの丘を出ると、駐車場まで山を下りました。雨はやみましたが、日は暮れ切って真っ暗。水の流れる音だけがします。心細くて、仕方ありません。スマホのライトをつけて、濡れた道をひたすらに下ります。
そんな時でした。「もしもし。」と後ろから男の人の声がします。ビクッとして振り返っても誰もいません。私は怖くなって走りました。すると、「もしもし。」とまた聞こえます。私は、今度は振り返りません。走り出しました。すると、「待って。」と冷たい手が肩に触れました。
私は、思わず、きゃあ、と悲鳴を上げました。すると、彼は、「落としたよ。」と、私にストラップを手渡しました。「あっ…これ。」私がお土産屋さんで買った、狐のストラップです。「あ、ありがとうございます。」
身構えて固めていた手を、少し緩め、スマホのライトを少し上にして彼の顔を照らして驚きました。彼は、これまで見たことがないほど、清く、美しく、知的で、尊く、優しい顔をしていたのです。私は、しばらく見惚れてしまいました。
しかし、私は何か彼におかしさを感じました。まず、一切、荷物を持っていないのです。ここら辺に住んでいる人?…本当に、そうでしょうか?まだ、17、8歳に見える少年が、こんな山奥に住むでしょうか?白いシャツ。一切、シミや汚れがなく皺さえありません。そして、何よりおかしいと思うのは、さっき、すぐ後ろで、最初に「もしもし。」と呼ばれた時、後ろには確かに誰もいませんでした。しかし…
彼も、私を黙って見つめていました。
私は、考えが広がる前に、すぐにこの状況の異様さに気づきました。ただ、ストラップを拾ってもらっただけ。とのかく早く車に乗って帰るべきです。まずは、駐車場に向かわないと…
「ありがとうございました。」
私は、彼から、さっと離れようとしました。すると彼は、「スマートフォン。」と言いました。
「はい?」私が聞き返すと、「これは?」と言います。見ると、明かりの付いたスマートフォンが彼の手にあるのです。




