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瀬河地域将来研究会

八月上旬

朝から強い日差しが照りつけていた

雨実村役場の公用車は

山道を下り瀬河市へ向かっている


運転席には新田

助手席には小川菫

後部座席には古川村長が座っていた


膝の上にはノートパソコンと資料の入った鞄

今日の役目は議事録作成だった

「緊張してますか?」

前を向いたまま新田が聞いた

「少しだけです」

菫は正直に答えた

「私も初めて出席した時はそうでした」

新田が笑う

「今日は勉強のつもりで聞いてください」

その言葉に少しだけ肩の力が抜けた


瀬河市役所

四階大会議室

会場にはすでに多くの職員が集まっていた


窓側前方に瀬河市

窓側後方に雨実村

廊下側前方に青月村

廊下側後方に事務局議事録担当

そして正面に県庁の地域振興課長

名札が並ぶ長机


菫は会場の一番後ろに設けられた

事務席へ向かった

発言者席ではない

だが全体がよく見える場所だった

やがて参加者が揃う


瀬河市長

瀬河市企画政策課長


青月村長

青月村総務課長


古川雨実村長

新田雨実村ふるさと振興課長


県地域振興課長

他数名の担当職員


定刻となり

県地域振興課長が立ち上がった

「本日はお忙しい中

お集まりいただきありがとうございます」

穏やかな口調だった

「本研究会は 

将来にわたり地域住民の生活を支えるため

現状と課題を共有することを目的と

しております」


菫はキーボードを打ち始める

議事録作成

だが実際には内容が気になって仕方なかった


最初は人口推計だった

スクリーンにグラフが映し出される

瀬河市

雨実村

青月村

どの線も右肩下がりだった

特に青月村

急角度で落ちていく

菫は思わず数字を見つめた

現在約三百人

二十年後予想

二百人を下回る

会議室は静かだった

誰も知らない数字ではない

だがこうして並べられると重みが違う


続いて医療

消防

学校

水道施設

公共交通

説明が続く

どれもすぐに破綻する話ではない

しかし

どれも放置できる話でもなかった


質疑の時間になった

最初に口を開いたのは青月村長だった

「一つよろしいでしょうか」

会場の視線が集まる

年配の村長だった

穏やかな人柄で知られている

だがその表情には疲れが見えた

「資料の数字について異論はありません」

そこで言葉を切る

「むしろ実感に近いと思います」

静かな声だった

「正直に申し上げます」

会議室が静まり返る

「青月村では十年後を議論する余裕が

ありません」

誰も口を挟まない

「五年後を心配しています」

その言葉は重かった

「消防団員の確保も難しい」

「診療所の維持も不安です」

「小中学校の児童数も減り続けています」

資料には載っている

だが本人の口から語られると違った

数字が現実になる

菫はキーボードを打ちながら

胸の奥が少し重くなるのを感じた


暫くして瀬河市長が発言した

瀬河市も決して余裕があるわけでは

ありません」

その言葉に何人かが頷く

「しかし地域全体として

考える必要がある時期に来ているとは

思います」

広い意味での連携

その必要性を語る

まだ合併という言葉は出ない

だが

誰もが同じ方向を見始めているようにも

感じられた


会議終了後

参加者たちが資料を片付け始める

菫もパソコンを閉じた

「お疲れ様」

古川村長が声をかける

「お疲れさまでした」

会議室の窓から瀬河市街地が見える

その向こうには雨実村の山々がある

「どう思った?」

古川が聞いた

突然だった

菫は少し考える

「正直……」

言葉を探す

「まだよく分かりません」

それが本音だった


人口

財政

医療

学校


どれも大切だった

そして雨実村には

守りたいものもたくさんある

古川は静かに頷いた

「それでいい」

短く答える

「わしもまだわからん」

村長の視線は窓の外へ向いていた

夏空の下

瀬河地域将来研究会

その第一回会合は終わった

しかし本当に始まったのは

これからなのかもしれなかった





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