まちの未来
六月
雨実村では田植えを終えた田圃に
青々とした苗が風に揺れていた
一方で 役場では春から続いてきた
もう一つの課題がいよいよ節目を
迎えようとしていた
瀬河市 雨実村 青月村による
合併協議である
これまで三つの自治体では
其々 住民説明会が何度も開催されてきた
雨実村では公民館や集会所を巡り
村長や職員が住民からの質問に答えた
瀬河市でも各地区で説明会が開かれ
市民からは行政サービスや税金 学校などに
ついて多くの質問が寄せられた
青月村でも 小さな集落ごとに意見交換会が
行われ 将来への期待と不安が語られていた
説明会を重ねるごとに 住民たちは
「合併するか しないか」だけではなく
「どんな地域を子供達へ残すのか」を
考えるようになっていった
六月中旬
三自治体では それぞれ臨時議会が開かれた
瀬河市では臨時市議会
雨実村と青月村では臨時村議会
議題は共通していた
合併の是非を問う住民投票条例の制定である
議論は数時間に及んだが
最終的に三議会とも条例案は可決された
今回の住民投票では
『義務教育を修了した住民
すべてに投票権を与える』
高校生や専門学校生 働き始めたばかりの
若者も 自分たちの地域の
未来を選ぶ一票を持つことになった
議会終了後
古川村長は窓の外を眺めていた
「ここまで来たか……」
助手席にいた新田も小さく頷く
「いよいよですね」
「そうだ」
「これからは行政だけではない」
「住民一人一人が未来を決める時間になる」
村長の言葉には 重みがあった
数日後
瀬河高校でも この話題でも持ち切りだった
昼休み
食堂や教室では 生徒たちが新聞記事や
市の広報紙を見ながら話し合っている
「俺たちも投票できるんだって」
「え?本当に?」
「義務教育を終えている人が対象らしいよ」
「十八歳じゃなくても?」
「そうみたい」
教室では教師も生徒へ話かける
「今回は皆さんも地域の一員として
大切な一票を持ちます」
「賛成でも反対でも構いません」
「自分で考え
自分の意志で投票してください」
生徒たちは真剣な表情で耳を傾けていた
一方 雨実村役場
ふるさと振興課では 新しいポスターが
届いていた
『三自治体合併住民投票』
菫が掲示板へ丁寧に貼っていく
その横で新田が日程表を確認した
「村長」
「三自治体で正式決定しました」
古川村長は静かに資料へ目を落としていた
『八月 お盆休み期間中の日曜日』
帰省する人も投票しやすいよう
配慮された日程だった
村長はゆっくりと頷く
「これなら
ふるさとを離れて暮らす若い人たちも
かえって来られるかもしれない」
新田も続ける
「一人でも多くの人に 自分たちの未来を
選んでもらいたいですね」
窓の外では 六月の風が青々とした田圃を
渡っていく
その風は
三つの自治体がそれぞれの思いを胸に
八月の住民投票へ向かって歩み始めたことを
静かに告げているようだった




