第62話 真田スズメーズ事務所
「お、拓真君やーん!なんやなんや!遊びに来てたんなら言うてや!」
「あ、こんにちは水蓮さん!」
お手洗いを借りて圭の部屋に帰る最中に水蓮さんに会った。
水蓮さんはご機嫌のご様子。
「なんだかご機嫌ですね?」
「拓真君のおかげで随分税収が増えてなー♪予算不足で伸び伸びになってた公共事業にようやく手を付けられる目途が付いたんや♪これも拓真君のおかげやね」
「あはは・・・ お役に立てているようなら何よりです」
「ところで拓真君・・・」
水蓮さんがチラっと俺を見ると言いにくそうに言う。
「種付けの方、あんまり進んでいないみたいやね」
「う・・・」
そうなんだよなあ。結局伊月さんにばかり相手をしてもらっている。
「ウチとしても強制はできんのやけど、できれば色んな子にお願いな?」
「そうですね・・・ただどうも誘いにくくて・・・」
『今から種付けどうですか?』と知り合いとはいえいきなり女子に聞くのは物凄く抵抗があるのだ。元の世界では完全に変質者である。
「拓真君。何度も言うようやけど、拓真君に相手をしてもらえるって聞いて喜ばん女なんておらんのやで?だから堂々と誘ったらええねん」
「あはは・・・ それって水蓮さんもですか?」
冗談交じりに言ってみる。
「そんなもん当たり前やん。なんなら今すぐでもええくらいやで」
「え?」
「え?」
あまりに当たり前に言うからビックリした。
水蓮さんは妖艶な和服美女だ。
やや着崩した和服から出る胸や足がとてもセクシーでらっしゃる。
そういえばなんで関西弁なんだろ?
水蓮さんも関西の三好領の大学に通っていたそうだから、その時にうつったんだろうか?
いやそんなことはどうでもいい。
水蓮さんの年齢は35,6といったところだろうか?
俺の元の精神年齢に近い年齢で、正直ドストライクなのだ。
圭や美月もモチロン魅力的な美少女なのだが、やはりちょっと犯罪的な感覚があるため突撃しづらい。
その点水蓮さんは完璧だ。
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・え、え~っと。た、拓真君?そないに見つめられると照れてまうんやけど」
「・・・・・・・・・・・・」
息を荒げながらじりじり近付いてみる。
「ちょ、ちょっと・・あの・・・ウチみたいな年増なんて流石に眼中にないやろ?そんなおばはんをからかったらあかん・・・」
更に壁に追い詰められていく水蓮さん。
「あ、あの・・・せ、せめて湯あみをおねがいし」
「あ、タクー?お手洗いの場所分かったー?」
「うひゃあ!!」
「おひゃあ!」
ビックリした。
どうやら帰ってくるのが遅かったため圭が迎えに来たらしい。
「あれお母さんだ。タクと何してたの?」
「ぐ、偶然会って話をな!あははは!」
「? そう? それよりタク!早く帰って続きやるよー!」
「えー・・・俺もうゲームはお腹いっぱいなんだけど・・・」
というかボコボコにされ過ぎてもう嫌だ。
俺のロボすぐに爆発する。
「あ、それならこれからスズメーズの事務所に行くんやけど、一緒に来ぉへんか?」
「おお!スズメーズの事務所ですか!」
プロ野球の運営現場なんて滅多に見られない。
これは是非行かなくては!
「よし圭!一緒に行こうぜ!
「んー まあいいけど。そんな面白いもんでもないよ?」
圭はあまり乗り気ではないらしい。
なんで?と思ったが理由は行ってみてすぐに分かった。
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というわけで真田スズメーズの事務所にやってきた。
スズメーズの事務所は高島城のすぐそこの小さな雑居ビルの2階にあった。
「あ!拓真君いらっしゃい!今日はどうしたんですか!?」
テンション高いお姉さんが迎え入れてくれた。
「・・・・・・・・ここが真田スズメーズの運営事務所?」
「せやで?」
「あの・・・俺の眼がおかしくなったのでしょうか?3人しかいないように見えるんですけど」
「タクの眼は正常だよ?」
「せやで?」
「・・・・・・・・・・・・」
眩暈がする。
たった三人で球団の運営なんてできるものなのだろうか?
しかもあの人達は見たことがある。
確かチケット売り場のお姉さんと売店のお姉さんだ。
自分達で店員までしてるとは一体どれだけ人材不足なんだ?
スズメーズの事務所は10畳ほどのスペースに机が置いてあり、その上に書類が乱雑に積まれている。
なんだか昭和のドラマで見るような仕事場だ。
「これじゃあ全然手が足りないですね・・・」
「せやな。今は諏訪藩もサポートをしてんねんけど、全然人が足りてないのが現状やな」
しかも書類が山積みになっているあたり、仕事の効率も良くなさそうだ。
水蓮さんが近くにいたお姉さんを捕まえて何やら話していたが、みるみるうちに顔が曇っていく。
「やっぱ全然間に合わんな・・・」
「ええ・・・ あと4ヶ月でなんてとてもとても・・」
「何があったんですか?」
「あ、ああ拓真君は心配せんでええよ」
水蓮さんが書類をヒラヒラするとチラっとタイトルが見えた。
「諏訪スタ観客席の増設?」
「ん?ああ見えてもうたか。せや、拓真君のおかげで諏訪スタにもようさんお客さんが来るようになったからな。観客席を増やさなあかんのやけど・・・」
聞けば諏訪スタのチケットを買えなかった人達から苦情が殺到しているらしい。
まあ苦情についてはどうしようもないからこの際良いのだが、本来4万人でも埋まるようなスタジアムが1万5千人しか客が入らないのは非常に損だ。
「でも大丈夫なんですか?1万5千人でもかなり混乱が起きたって聞きましたけど」
特に多かったのが宿泊場所の不足、食事処の混雑、駐車場の不足、トイレの待ち時間が長すぎる。
この辺りの問題を解決しないといけない。
幸いここが田舎で道が広めだったおかげで大渋滞は起こらなかったようだが、それもさらに人数が増えればどうなるか分からない。
観客席だけ増やしたって人間の移動がスムーズに行われなければ待ち受けるのは地獄だ。
水蓮さんもその辺りのことはよく分かっているのだろう。
「せやねんなあ・・。せめてあと1万人くらいは入れるようにしたいんやけど・・・。ここが田舎だったおかげで土地だけは余ってるんよ。だからあとは建てるだけなんやけどなー・・・」
「・・・そんなノウハウあるんですか?」
「あるわけないやんw」
「ですよねー・・・」
これはどうしたものか。
少なくともここにいる職員さん達で対応できることとも思えない。
諏訪スタが建ったのは今から40年も前。
その頃のノウハウや建設業者との人脈などとうに失われている。
スタジアムの周りには土地はまだまだあるし、観客席増は恐らく可能だろう。
しかし他の工事が全然間に合わない。
「今川と長尾からホームゲームをこっちでやらないか?って連絡まで来てるんやで?」
「あー 比較的近いですからね」
長尾のホームは春日山スタジアムで収容人数は3万5千人。
今川のホームは浜松スタジアムの収容人数は4万人。
ここを使わせてもらうのか。
確か今は北海道にいる球団は過去に東京ドームがホームだったこともあるし、それも可能ではあるのか。
でもなあ・・・。
「勿体ないですよね?」
「せや。それに拓真君をおいそれと他領に出す訳にもいかん」
「うーん・・・」
全く問題の解決方法が分からない。
これは一体どうしたものやら。
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「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「タク?考え込んでどうしたの?」
あれから高島城の圭の部屋に帰ってきてからも俺は考えていた。
どうしたらこの問題を解決できるだろう?
真田スズメーズの球団職員も諏訪藩の職員もこういった事態に全く慣れていないように感じた。
日常業務を行うのに精一杯でとてもじゃないが対応しきれていない。
高等教育を受けている人間の不足がここにきて露呈した形だ。
「いや諏訪スタ問題なんとかならないかなーって」
「ご主人が考えることじゃないでしょう?あれは彼女達の仕事ですよ」
「そうだよタク?タクは今まで通り楽しんでくれたらそれでいいんだから」
そうは言うがなあ。
「あとタク。私的にはこっちの方が心配なんだけど・・・」
「こっち?」
こっちってどっちだ?
「これ見てタク」
圭にスマホを渡される。
ページを見るとどうやら野球掲示板のようだった。




