第33話 諏訪スタ満員御礼
翌日の17時。
俺達4人は今日も諏訪スタを訪れていた。
今日も諏訪湖スタジアムは昨日と変わらぬ様子で俺達を迎えて・・・
「・・・・・・・・」
ざわざわざわ
「・・・・・・・・・・・・・・」
ざわざわざわざわざわざわ
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ
「なあ圭よ」
「なに?」
「なんか人多くない?」
「多いねー!!諏訪スタに人がこんなにいるの初めて見たかも!」
昨日のこの時間は人がまばらにいるだけだった。しかし今はどうだろう?見渡す限り人人人人・・・
当日券売り場には長蛇の列ができており、何分並ぶか想像も付かない。どうやら売り場はワンオペだったらしく、受付のお姉さんがパニック状態みたいだ。
「す、すみませぇーん!!本日の当日券完売しましたー!!!」
ええええええええええええーーーーー!!!
並んでいた人達からブーイングが上がった。
中には「せっかく北条から来たのに!」という人もいて売り場は大変なことになっている。
「どうしてあんなことに?」
「拓真君のせいじゃないかな・・・?」
やはりか。多少人が増えてくれたらいいなーくらいは考えていたのだが、流石にこれは想定外だ。どうしよう?せっかく遠くから来てくれたお客さんが試合も見れずにただ帰るだけというのはあまりに申し訳ない。
「仕方ないな・・」
「ご主人。いま何を考えていますか?」
「せっかくだから挨拶だけでもと・・・」
俺目当てに来たお客さんならそれである程度満足するだろう。
「絶対にやめてください」
「やっぱダメか?」
昨日のことを反省して今日は黒田家より黒服の応援が2名付いて来てくれた。
しかし当日券売り場に並んでいるのは200名以上。もし一斉に詰めかけられたら大変なことになってしまう。
仕方なく見つからないようにゲートをくぐる。
「・・・・・・・・・・・・・」
しかし悔いが残るな。当日券売り場はその後も続々と人が集まり、もう収集がつかない事態になっていた。気持ちは分かる。わざわざ遠くから来たのに会場に入れなかったら悲しいだろう。だが野球場は当日券が無いことだって多いのだ。それを怒っても仕方ない。しかしこのままでは職員の人が大変なことになる。なんとかしなければ。
「ちょっとゴメン。皆付いて来て!」
「え、ちょ、ちょっとご主人!」
「どこ行くのタク!」
俺は諏訪スタの二階に上がり、正面の入り口を見下ろせる位置に行く。下には大勢の人が見えた。某大手同人誌即売会の写真がこんな感じだった気がする。ここに声掛けするのは流石に勇気が要るな。だが怯んでいられない。すでに当日券売り場のお姉さんは詰められまくって半泣きだ。
「みんなすまん!!!!!」
大声で彼女達に呼び掛ける。ピタッと声が止まる。そして俺を見上げると一斉に歓声が上がった。凄い圧だ。正直舐めていた。この世界の女というものを。ここにいるのは恐らく1000人くらいだろうか?男女比1:1000。ここにいる男は俺1人。なるほど世の中の男子が引きこもるのも無理ないような気がした。しかし怯んでいられない。俺は声を張り上げる。
「なんか俺のせいで今日はこんなことになってしもうた!!」
歓声が悲鳴に代わる。
拓真君のせいじゃないよー!と言ってくれている人もいるが、元はと言えば俺の観戦欲のせいだ。そこから目を逸らすことはできない。
「ただ野球のチケットは予約が取れないことも多い。今度からちゃんとネットで予約して球団のホームページなんかも確認してくれると嬉しい!俺との約束だ!みんな!分かってくれるな!?」
そういうと一斉にはーい!という声がかかった。
「それじゃあ残念だけどチケットが無いみんな!ほんっとうに申し訳ないけど、今日のところは引き上げてくれると嬉しい!今度は必ず予約を頼む!じゃあまた次の機会に会おう!」
そう言うと下にいた人達は徐々に引き上げて行った。皆こっちに手を振ってくるので俺も振り返す。下が落ち着いてきたので、俺も球場に入ろうとすると周りを既に囲まれていた。彼女達はチケットを取ることができた人達だ。
「はいはい皆さん邪魔です!今からボク達は移動しますから道を開けてください!」
菊花がそう言うとモーゼの如く人の海の中央が割れた。
そこを通るときも歓声が上がったので手を振って応えた。
「ふぅ・・・ すまんな菊花」
「はあ・・もういいです。ご主人はそのままでいてください。ご主人のソレも含めてボク達が護衛を考えますからね」
「拓真君は優しいねえ・・」
「タクが優しいのはいいんだけど、そろそろ球団に対応してもらった方が良いかもしれないね」
確かに。というか俺が正面入り口から堂々と入るのも危険な気がしてきた。バレたら女子達が一斉に突撃してくるかもしれない。流石に護衛しきれないだろうし、それで逮捕者でも出たらあまりに目覚めが悪い。
「それは後でボクたちが手配しておきます。それよりも早く客席に行きますよ」
俺達は球場の中に入った。グランドでは選手たちがアップしている姿見える。スズメーズは今日も気合十分のようだ。ちなみに座席は昨日と同じ場所だった。席に座ると目の前でアップをしていたスズメーズのメンバーが俺を見て手を振ってくるので、俺も手を振り返しておいた。
「今日の先発は高橋選手って言ってね!右の本格派で凄いんだよ!」
「へー」
圭がはしゃいでいる。どうやら個人的な知り合いらしく、圭も気合いが入っていた。しかし本格ってよくいうけど一体何が本格なのだろう?本格の定義がよく分からないけど、俺は雰囲気で本格って言ってる。
「た、拓真くーん」
あ、なんか三好の選手がこっちに来た。確かあの人はあっちの四番だったはず。玉造選手だっけ?年齢は20歳くらいだろうか?肩幅がかなり広く、身長も185cmくらいでかなり良い体格をしている。ザンバラ髪の短髪で目付きは鋭い。昨日は凄いスイングしていた。
「き、昨日はごめんね?ちょっと打ちすぎちゃって・・・」
何故か申し訳なさそうにしている玉造選手。確かに彼女は凄かった。1人で8打点くらい稼いでいたし。でもどの道彼女が打たなくても負けているのだ。それにこれは真剣勝負の世界。彼女が負い目を感じる必要なんてない。
「気にしないで下さい!真剣勝負の話ですから!」
「そ、そうかい?そう言ってくれると助かるよ」
「はい!今日も良い試合よろしくお願いします!」
ちょっとだけ雑談すると玉造選手は一礼して自分ベンチに帰って行った。良い人だ。
「・・・あれはタクに惚れたね!」
「適当なこと言うな」
その後も三好の選手がチラホラこちらに来て話しかけてくる。本来試合に集中したいだろうに、俺のせいで集中を乱してしまってちょっと申し訳ない。
「よーしお前ら!!!今日は絶対勝つぞ!!」
「「「「「「おう!!!」」」」」」
真田スズメーズナインが燃えている。目の中に炎でも見えるようだ。彼女達の気合いが伝わり頬がビリビリする。昨日はけちょんけちょんにやられたから今日はなんとかしたい。そんな想いが伝わっているようだった。
「頑張れスズメーズ!!!応援してるぞー!!」
だから俺は声の限り声援を送った。
なおスズメーズは負けた。




