第47話 これからの話
8月8日。梅香隊は中里に呼び出されて庶務室にいた。
「さて、君たちを呼び出したのはほかでもない。すでに聞いている通り、山部島改造を中心とした信濃計画第一段階が終了しようとしている」
中里はそのように切り出して、話を始めた。
「現在、我が国日本は、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドと共に、国籍不明勢力に対する反攻作戦を実施しようと事務次官レベルでの話し合いが始まっているところだ。詳細はまだ決まってない部分が多いが、この反攻作戦には君たち民間飛行隊も参加する予定である。そしてこの反攻作戦で、山部島を使うことが決まっている。ちょうどアメリカも影の人工島を拿捕したしな。これをもって他の人工島を攻撃するというのが、信濃計画第二段階の概要だ」
そこまで話を聞いた上で、加藤が手を上げる。
「なんだ? 加藤」
「仮に私たち民間飛行隊が出動したとして、何かできることはあるんでしょうか?」
「そうだな。もっともな意見だ」
中里は腕を組み、言い聞かせるように話す。
「君たち民間飛行隊と、我々自衛隊の飛行隊の違いは、一種の物量の違いにある。影に対する攻撃力や命中率は我々自衛隊の方が分があるが、その分数量に大きな制限がある。その点、継戦能力や攻撃の物量は君たちのほうが上だ。機銃を1000発も携行できるのはアドバンテージと言え、それこそが影に対抗するための抑止力とも言える」
「そうなのかなー?」
浜口が疑問に思う。ちょっと分からなかったようだ。
「単純に考えてみれば分かる。自衛隊にはミサイルがあって、レシプロ機しかない影には百発百中だ。しかし空自飛行隊がどんなに数を合わせてもミサイルは100発にも届かないだろう。それだけでは影の猛攻をすべて防ぐことはできない。その一方、君たち民間飛行隊は1000発もの弾丸を持っている。運や実力が良ければ10発で1機を墜とせるだろう。それを繰り返していけば、理論上は君たちのほうが多くの敵機を墜とせる」
「しかし、それは理論上の話ですよね? 現実ではそうはいきません」
加藤が反論する。
「そうだな。だからこそ現代戦では陸海空の戦力を統合し、お互いに補完し合いながら戦うのが基本となる。そうして勝利を手繰り寄せるんだ」
そういって中里はホワイトボードを引っ張り出してくる。
「そういうわけで、他の人工島の攻略には航空戦力だけでなく、海上戦力も参加する。空自は第3飛行隊と小松基地の第306飛行隊が参加することになっている。海自からは補給艦のましゅう、もがみ型が3隻の参加が決まっている。正直これだけで足りるかは不安だが、破壊するだけなら問題はないだろう」
そういってホワイトボードに今回の参加戦力を書き連ねていく。
「その他、米国から第3艦隊の空母打撃群が参加することになった。これで米国の人工島戦力と1個空母打撃群、日本の空母打撃群相当艦隊が集結することになる。これだけあれば、中堅国といい勝負ができるだろう。当然、影の人工島を破壊するには十分だ」
ホワイトボードに参加する戦力が羅列される。
「これで、世界中にある人工島10個を無力化する。できる限りな」
「でも~、できるものなんですか~?」
岡井が聞く。
「まぁ、1個か2個を無力化するくらいならできるだろう。だがそこが限界だ。損傷は激しく、士気はダダ下がり、補給は底をついている状態だろう。そんな状態で連戦はできない。一度は休暇を得る必要があるだろうし、日米以外の大国にも協力を得る必要がある。今だったら中国に協力を得るのが一番手っ取り早い。その他にも、イギリス、フランス、ドイツ辺りにも協力を得られればいいんだが……」
「正直希望論っていった所ですね……」
神崎が感想を述べる。
「とにもかくにも、人工島の無力化する作戦は、現在立案中となっている。そういうわけで、我々は一足先に山部島へと拠点を移し、習熟度向上を目的とした訓練を行う。その後、信濃計画第二段階である、日米共同作戦を実施する」
そういって中里はペンを置き、梅香隊の3人のほうへ向く。
「これから厳しい戦いが待っているだろうが、それでも、どうか耐えてほしい」
中里からの言葉で、浜口と岡井は覚悟を決めた表情をする。その一方で、加藤は苦虫を噛み潰したような表情をした。
「加藤は賛同しにくいだろう。しかしこれは総理にも上がっている話であり、総理はこれに承認のハンコを押そうとしている。どうか分かってほしい」
中里の説得に、加藤は重い口を開く。
「……分かりました。私としては少々不本意ですが、それも軍隊では普通だということを思い出しました。父もそういう気持ちになったことがあるのでしょう。父の背中を追うには、こういう経験も必要であると感じました」
「理解してくれて助かる。それでは明日ヒトマルマルマル、宿舎にある荷物をまとめてここに集合だ。荷物は預けて山部島に配属になる」
こうして解散となった。
「ところで、僕は……?」
「お前も俺と一緒に山部島に配属だよ。喜べ」
「そっすよね……」
あまり素直に喜べない神崎であった。




