20話
「…ただいまー」
「おかえり」
弟の声を聞きながら涼介はいそいそとスニーカーを脱いだ。
手を洗いながら今日は和食かな、と推測する。
玄関を開けた瞬間からいい匂いがしていた。
「なんか手伝う」
「いい」
「リプはや」
「…まな板洗って」
「はい来た」
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「それでさー、…どした」
「…ちょっと離れろ」
「え…邪魔、?」
菜箸片手に煮物の出来を確認する笑一太の肩に手を置いて隣でお喋りしていた涼介はサッと離れた。しかし弟は特段冷蔵庫に何か食材を取りに行くでもしまうでもなく、流しで何かするわけでもなく鍋の前から動かない。
「……えーた、」
涼介は笑一太の斜め後ろでうろうろとして、最終的にほぼ無意識に子犬が鳴くような声で呼んだ。
「………〜、ッ別に邪魔とかじゃない。近い、距離が。それだけ」
…そっか、何だ。…てっきり――、
「…えーたって童貞…?」
「ハ…っ…、ッ熱」
ガタンッと鍋に手が当たり動揺した弟に色んな意味で涼介は申し訳なくなった。
「大丈夫か…?ごめん、…嫌だったよな…?…俺あっちいってる」
涼介は若干項垂れながらテーブルを拭き待つことにした。
そうだよな、と涼介は台拭きを手にちょっと調子に乗っていたのかもと一人で何も考えず隣で喋っていた己の不甲斐なさに辟易した。笑一太からしたら急にこうも態度を変えられて戸惑うし馴れ馴れしくされて、嫌だっただろうと涼介は思った。
人と一定の距離を保つのがこんなに難しかっただろうかと涼介は自分が犬や猫のように笑一太を構いたくなるのかそれとも構ってくれと笑一太に引っ付いてしまっているのか夕飯が出来るまでの合間、脳内反省をし始めた。




