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香る、橙  作者: 真砂木
18/20

18話

 

 夕方までみっちり複数の講義を受けた。

 ……面白かった…。やった、今日はもう帰るだけ…


 大学で触れる知識は楽しくもあり充実感があるものの、はたからみるとその姿は若干よろけて見える。


 外で一旦一休みしようと涼介は空いたベンチを探しふらふらと歩いていた。

 「あ…」


 涼介の目に見慣れた後ろ姿が映る。


 思わず近くまで寄りベンチに座るその肩をポん、と叩いた。

 涼介は悪戯な笑みを浮かべ人さし指を出し待機する。


 横を向いた高梨子のほっぺに、狙い通りぶすりと指が食い込んだ。


 「…涼介…」

 頬に刺さる指を気にもとめないその顔は少しだけ間が抜けている。


 いつもは高梨子がやりそうな事を今日は涼介がやり返す。


 したり顔で笑みを浮かべる涼介を見た高梨子。自身の頬をつぶす涼介の指ごとやんわり捕まえて顔から離した。


 「「……」」


 何この不思議な間…面白くて嫌じゃないけど…。ちょっと高梨子と駄弁ってこ…

 …その前に、


 「手え」


 「…あっ、と…」


 涼介の指摘に高梨子は視線を手元へ落とし、握ったままの手をゆっくりと解いた。涼介は隣座ってい?と訊きながら返事を待たずに即すわる。

 

 …何かお茶でも買ってくれば良かったな

 ベンチの背にもたれながらそんな事を思った。

 ふと見ると高梨子が読んでいたと思われる本が横たわっていた。

 もしかしなくても、

 「本……邪魔した…?」


 「べつに大丈夫だよ、」


 「미안해요(ミアネヨ)S'il(スィル) te(トゥ) plaît(プレ), pardonne-(パアドン)moi(モア)


 「っふ、気にしすぎだから」

 

 と高梨子は笑みを深めた。


 通じるんだ…俺最近学習したばっかなのに…


 涼介は本をちらりと見た。

 「……何読んでんの、ちょっとみてもいい…?」

 

 「いいよ」


 快く了承してくれた。

 さっそく手に取り表紙を見て適当にページを開きざっと読む。

 また少し飛ばして違うページへ行く。


 読んでる途中で最初の一文が気になり再び始めのページに戻り、最初の一行を読んで涼介はまんまと心を掴まれた。

 うわ…これ面白そう。


 そのまま読み進め、涼介は次をめくろうとした手をとめた。いつの間にか本に入り込んでいた。そう気づいたからだ。


 「…高梨子、ごめん」

 開いた本を持ったまま涼介は隣を見た。高梨子は口元を薄っすら緩め涼介を興味深げに見ていた。


 …すごく見られている…

 …てか何か言えよ…

「…恥ずい。そんな見られると…、何…」

 お金とりますよとふざけて返そうとした涼介。しかしその前に高梨子が言った。

 「もう平気…?」

 涼介は一瞬その意味がわからなかった。が、先日の与恵の言葉が蘇りその意図が伝わった。


 「…うん、すっかり。ご心配おかけしました」


 「元気になって良かった、涼介が」


 微笑んで見つめられると何だか照れくさい。涼介は目線をはずし首に手をあてながら言った。


 「あの、俺が居ない間の…講義内容とか聴いてもいい、?」


 高梨子は間を開けずに返事をした。


 「いいよ、いつでも…今日?」


 …今日は……、

 「いや…今日はもう、帰らないと…高梨子はいつ空いてる…?」


 「……、待って」


 そう言って携帯をいじると「明日の午後は、?」と訊かれた。

 

 「…二時までなら空いてる」


 「じゃあお昼終わりに何処かで待ち合わせする…?」


 高梨子の言葉にピコンと閃いた。

 ………これ、いい機会じゃん


 「…高梨子、さえ良ければ何だけど。…ご飯一緒に食べない…?与恵と伊藤と…4人で…」


 高梨子は少し考えてからゆっくり瞬きをすると言った。


 「俺はいいけど…二人はいいの…?」

 「それは大丈夫…。あんま気分乗らない…?」

 「いや…、嬉しい。誘ってくれて」


 そう言って笑った高梨子がぴかーと光って見えた。


 「う…、眩しッ」

 「何してるの」

 「いや、…。あー…これ返す、本」

 「…それかりていいよ、良かったら」

 「…マジ?」

 「読まない…?」

 「読むともっ…!ありがと、すぐ返すから…。…、じゃあ明日な」

 「うん明日」


 そう言ってわかれた翌日。


 

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