① いつものお願い
「ねえ、ねえ〜、サン・ジェルマン伯爵ぅ。」
猫なで声の真田雪子。
「…なんですか急に、変な声色を使って。」
少し引き気味の伯爵。
それは西暦1992年7月1日の、昼下がりの事だった。
場所は、毎度お馴染みの、名護屋テレビ塔の亜空間レストラン。真田由理子と杉浦鷹志の二人が、ちょうど買い物に出かけたタイミングを、狙われた感じだった。
「いつも悪いんだけど、またアナタのシルバーのビートルを貸していただけないかしら?最近は、黒いのばっかりイジってるから、空いてるんでしょ?」
「今度は、ナニに使うんですか?」
「過去の伝説に、例の"アラハバキ"が関わっていそうなモノを見つけたのよ。」
「…ソレを"調査"しに行くんですね?」
「そう、ソレを"退治"しに行くのよ。」
「…前から言ってますけど、お願いですから、単独行動で、無茶な事をしないで下さいよ?」
「うん、良く分かってるわ♪」
「ホントかなあ?…まあ、貸しますけどね。」
「わ〜い、ありがとう!伯爵、大好き!」
「なんか、キャラ変わってませんか?いつものクールな感じは、どうしたんですか?」
「うん、たまには由理子のマネをしてみようかなって。どうかしら?カワイイ?」
「クルマは使ってイイですから、もう二度とヤラないで下さい。」
「はーい。」
このところ、ずっと暇だったので、久しぶりにターゲットになりそうな案件の見つけて、少々テンションが高めの雪子なのである…というか、控え目に言っても、些か情緒不安定な様子だった。
多分、相手があの、アラハバキだからだろう。
あの日、背中から心臓を剣でえぐられて以来、彼女はひたすら彼等を、目の敵にしているのである。無理も無い事だな。そう、サン・ジェルマンは思った。
あの時は結局、雪村君に助けてもらってしまったから、自力で勝った気がしないのだ。彼女は、自らの手で勝利を掴み取りたいオンナなのだ。
そのためには、地の果までも、アラハバキの残党たちを、追う気マンマンなのだろう。彼女は爬虫類族のヘビよりも、執念深いのである。
彼等も良く考えもせずに、厄介な人物に手を出したものだな。伯爵は重ねてそう思い、一人で頷いてしまったのだった。
そんな訳で、雪子は伯爵にクルマのキーを貰うと、いそいそと、地下駐車場のビートルのところに向かったのである。




