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4 真実

2017年8月22日 修正しました。

2017年9月4日 行間や読みやすさを修正しました。内容の変更はありません。

「しまった。結局、スキルについて聞いてないじゃないか」

 

 鑑定士の所へ何しに行ったのか。詳しく聞く前に出てしまった。でも、また行くのも気まずいな。従者の話を断ったばかりだし。うーむ。どうしようか?


「布団……」

 

 俺がそう呟いた瞬間、地面に光の粒が集まり純白の四角形が現れた。ふ、布団だ。


『お布団召喚LV1を使用しました』

 

 続いて、目の前に文字が現れる。何というか、この文字は空中に浮き出ているような感じだ。何て奇妙な。見たことは無いが、幽霊や精霊ってこういう感じなんだろうか。……ん?


「お布団……召喚……?」

 

 どこかで聞いた事がある。魔法使いの中には、精霊を召喚して使役する者がいるとか。じゃあ、この布団は精霊なのか? いやいや、布団の精霊って何だよ。仮に、もし本当に布団の精霊なんだとしても、どうしてそれを俺が召喚できるんだ? と言うか、そもそも布団を使役するって……意味不明すぎる。改めて目の前の布団をじっくり見てみたが、やっぱり布団は布団だった。


「布団、だよな……」

 

 昨日の寝心地を思い出す。今まで感じた事の無いあの感覚。体の隅から隅まで温まり、溶けてしまいそうになるほどの気持ちよさ。あれに抗える人間なんていない。断言できる。


「と、とりあえず……もう一回寝てみるか……」

 

 真っ昼間に地べたに布団を敷いて眠るという行為に恥ずかしさを覚えたが、決して惰眠を貪りたい訳ではないし、外で寝るほど非常識じゃない。しかしこれは布団のスキルを調べるためだ。俺は恐る恐る布団に滑り込んだ。


「うはああああああぁぁぁ……」

 

 とろけるような温かさ。昼間とは言えかすかに息が白く見える気温だというのに、どうした事か。この中は心地いい春の日差しが広がっているかのようだった。さっそく睡魔が襲ってきたが、俺はそれに何の抵抗も無く敗れた。


『睡眠学習LV1を開始します』

※ ※ ※


 気がつくと、俺は白い世界にいた。地面も、空も、何もかもが白い。しかし上の方にぽつんと、青い球体があった。とても綺麗だ。まるで宝石のようだけど、あれはなんだろう? ……というか、ここはどこだ? 俺はどうしてしまったんだ? 夢でも見ているのか?


『はい』


その声に、思わず首をすぼめる。何だ!?


『お布団です』

 

 ……はえ? お、お布団?


『お布団です』

 

……………………お布団……? え、あ。お布団……さん?


『はい』

 

 どうしよう。意味が全く解らない。見知らぬ白い世界で、お布団と名乗る何かに話しかけられている。その相手はどこにもいない。まるで直接頭の中に話しかけられているかのようだ。自分の体もおかしな感じになっている。これはもしや、死後の世界では? いやいや…………え? まさか、本当に……。


『いいえ』

 

 あ。ち、違うのか。良かった。死んでないのか。って、信じられるか! じゃあ何だよここ? 何なんだ? お、お布団!? 何だ? 何が目的なんだ!?


『お布団スキル解放、おめでとうございます。初回特典として、お布団ポイント18を差し上げます。これでマスターはお布団ポイントが18になりました』

 

 ……へ、へえ。そ、そうなんだ? ええと……な、なに? それ? 俺はとりあえず、このお布団と名乗る何かの会話を合わせる事にした。


『お布団はお布団です。何かではありません』

 

 え!? な? しゃべってないのに、何で解ったんだ!? ……いや、待て。そういえば俺は今、どうなっているんだ? 右手を見ようとして戦慄した。無い。目の前には、薄く光る輪郭しか無かった。なんなんだ!? もう、訳が解らない!


『落ち着いてください。お布団はマスターの味方です』

 

 ……味方。


『はい』

 

 信じていいんだな。と言いつつ、とりあえず話を聞く。こんな怪しい状態で信じられるはずがない。


『お布団は傷つきます……』

 

 な!? ま、まさか……全部、筒抜けなのか!? 思った事も……!?


『はい』

 

……これじゃ装ったりしても意味が無いな。警戒も無駄か。解った。話を聞くよ。


『では、お布団ポイントのご説明をします。このポイントを消費する事で、お布団に新たなスキルが追加されます』

 

 新たなスキル……?


『お布団召喚LV1のポイント消費スキル一覧です』


5ポイントスキル・昼寝LV1。お布団で昼間に寝ると、効率がアップする。・ベッドメイキングLV1。お布団が汚れない。・快眠LV1。お布団で寝ると、ストレスが吹き飛ぶ。・抱き枕LV1。お布団で枕を抱いて寝ると、安心する。


10ポイントスキル・添い寝LV1。お布団で一緒に寝ると、相手もお布団の効果を得られる。・夢枕LV1。お布団で寝ると、たまに未来を予知する。・ショートスリープLV1。お布団で眠る時間が短くなる。


20ポイントスキル・聖域LV1。お布団の中にいる間は、時間が止まる。・お布団魔法LV1。お布団が浮く。・お布団領域拡張LV1。お布団の大きさが変化する。


50ポイントスキル・買い替えLV1。お布団ポイントを使って、お布団を買える。・延命LV1。お布団で眠ると、寿命が伸びる。


100ポイントスキル・?????

1000ポイントスキル・?????

10000ポイントスキル・?????


『以上です』

 

 あ……あり、がとう。うん。よく解ったよ。そうなんだ。スキルすごいねえ。あ、あはは……どうしよう。全くもってついていけない。


『であれば、お布団がスキルを推奨します』

 

 え。あ、そうか。筒抜けだった。じゃ、じゃあもう、悪いけど選んでくれない? 俺ちょっとまだ理解できなくて。


『お布団としては、ベッドメイキングと昼寝を推奨します』

 

 うん。えーと。じゃあそれで。


『ありがとうございます』

 

 どこからか、チーンという鐘が当たるような音と共に、大量の枕が降ってきた。一瞬にして白い大地を埋め尽くし、俺もそれに巻き込まれた。

お布団ポイントは現在8ポイントです。またのお越しをお待ちしております』

※ ※ ※


「うわ!」

 

 ぼやけた目の焦点が定まっていくにつれ、すぐそばの草が水滴を弾いているのがはっきりと見えてきた。元の世界に戻ったのか……? ご神木の葉っぱに水滴がぱらぱらと落ちて心地いい音を奏でている。雨が降っているらしい。


『お布団で寝たので、以下の能力が発動します。お昼寝LV1が発動しました。睡眠学習の効果で、LVが10から12に上がりました。三時間の睡眠で、お布団ポイント3を獲得しました。合計11ポイントです』

 

 目の前に浮かんだ文字が、現実である事を示していた。お布団と名乗る……いや、もうアレはお布団という事にしよう。お布団がいるあの世界は、どうやら幻ではないようだ。あまりの出来事についていけず、布団の中で寝返りを打って空を仰いだ。


「!?」


 雨が、俺を避けている。ゆっくり見渡すと、布団の周りだけ雨が当たっていない。まるでガラスの箱にいるようだ。それに大地は雨で酷い状態だというに、布団には泥シミひとつ無かった。濡れてもいない。これは……そういえば、布団が汚れないスキルがあった。確か、ベッドメイキングだ。それが、この効果なのか?


「信じられない……」


 いよいよ、このスキルはとんでもないものなんじゃないかと思えてきた。現実離れした光景に呆然としていると、雨の音に交じって足音が聞こえた。耳を澄ますと、はっきりと解る。一人、二人……六人。こいつらは、まさか。俺は嫌な予感がして、ご神木の影に隠れた。布団は俺が離れた瞬間に光の粒になって消えた。


「さっみいー」「あー」「くそ」


 トマスが率いる不良連中がご神木で雨宿りをしているようだ。相変わらずくだらない話で盛り上がっている。このまま何も関わらずに済むならそうしたい。しかし……。


「トマス、いよいよ明日なんだろ。気分はどうだよ?」


「ああ。問題ねー」


「ノレムがいなきゃさっさとしてたのになあ。トマス」


「うるせえ! アイツの話なんかすんな! くそっ。気分わりい!」

 

 明日? 決行? 何の話をしているんだ?


「とにかく、明日だ。フェミルは……俺のモンだ」

 

 その言葉に、胸がどくんと弾けた。


「……どういう事だ?」


 俺はゆっくりとご神木の影から姿を現した。意外な場所から出てきた俺に少し動揺したようだが、不良連中がみるみる凄んでいく。


「害虫かよてめえは……!」


「答えろ! どういう意味だ! フェミルに何をする気だ!?」


 俺の言葉にトマスは逆上し、ご神木を思い切り蹴り上げた。


「てめーには関係ねえだろ!」


「……ご神木を傷つけるな。謝れ」


 周りの不良連中も次々に殺気立ってきた。ナイフを取り出した一人が、ご神木をガリガリと刻む。……まるで、フェミルとの思い出を汚されたような感覚になり、心の底から怒りが沸いてくる。俺はトマスの襟を掴んで叫んだ。


「あやまれ!!」


「てめえええはそれしかねえのかよおお!」


 トマスの拳は俺の顔面に当たったが、殴ったほうのトマスが右手を抑えて悶えた。


「くそ! 何をしやがった! や、やれ! 今日は徹底的にやれ!!」


 トマスの号令で、不良たちが一斉に襲ってきた。上等だ。俺だってもう我慢しない! そう思った途端に不良連中の動きが遅くなった。不良だけでなく、雨粒も遅く落ちている事に気がついた。


「……さすがに、もう驚き飽きた」


 目の前の不良の腹を殴ろうとしたが、岩を砕いた事を思い出してできるだけ弱く殴ってみた。まるで熟れすぎた果物のように柔らかく、ずぶずぶとめり込んでいく。背中まで突き破るのではないかと思い、途中で手を引っ込めた。その瞬間に世界は元の速度に戻り、俺に殴られた不良は草むらの向こうまで吹き飛んでいった。


「は?」


 トマスの気の抜けた声がする。他の不良は、味方が一人吹っ飛んでいった事に気がついていない。少し離れていたトマスだけが解った。俺が不良たちを次々にぶちのめしていった光景を思う存分見る事ができただろう。


「ひ……な、なんだ!? なんだよ!?」


 俺の変化と、仲間の全滅にすっかり怯えてしまったようだ。ざまあみろ! ……しかし、大丈夫かな。一応は手加減しているから、大怪我は負っていないとは思うけど。


「何度も言わせるな! フェミルに何をする気だ!」


「なっ……」


「答えろ!!」

 

 俺の声で、ご神木で羽を休めていた鳥が一斉に逃げてしまった。声までLVが上がっているのか?


「こ…………こく……はく……」


「ん?」


「告白だよ……」


「え?」


うん? こくはく? って、あの、えーと。好きな人に思いを伝える……告白?


「と、トマスはガキの頃からずっとフェミルが好きだったんだよ」


 後ろから、腹を抑えながら不良が這ってきた。良かった。大したことないようだ。と言うか、それより、え? ほ、本当に?


「……そうなのか?」


「お前が、屋敷に来る前からだよ……!」


 えええ? うそ!? てっきり、何か酷い事をするのかと……。


「ご、ごめん……」


「……謝ってんじゃねえよクソッタレ……」


「いや、あれだ。痛み分けにしよう! 俺もほら、お前らに長年に渡って嫌がらせを受けたし、放火もされたし! いや、放火はちょっと許せないけど! でも、うん! これでチャラで!」


 あのトマスが告白をしようとしていたとか、それを俺が水を差してしまったとか、そもそもそんなの駄目だ! とか、申し訳ない気持ちと長年の怒りで大混乱していた。


「しつっけえな! そんなみみっちい事してねえって言ってんだろ!」


「え……まだ誤魔化す気なのか?」


「少なくとも、俺はそんな事してねえ! おい! お前ら! ノレムに嫌がらせしたの誰だ!? この中にいるんだろ!」


 トマスの声に、不良たちは顔を見合わせるばかりだったが、不良の一人が恐る恐る手をあげた。


「あの……」


「お前か!」


「ちが! ちがう! 話を聞いてくれ!」


 不良の一人……ナロは、顔が真っ青だった。まるで幽霊でも見たかのような表情だ。


「見たんだよ……あの時……」


「あ? 何を」

 

 ナロは口をぱくぱくさせながら、異常に瞬きをしていた。当時の記憶を振り返っているようだが、様子がおかしい。


「おれの家……ノレムの家が見える位置にあって、あん時に何となく窓の方を見てたら、裏口のあたりが突然明るくなったんだ。興味が出て確認しに行ったら……」


 ごくりと唾を飲んで、衝撃的な事をつぶやいた。


「村長が、ノレムの家を燃やしてたんだよ。炎に照り返されて、顔が、村長の顔が、すっげえ怖くて。何にもない顔なんだよ。怒ってるとか、悲しいとか、そういうんじゃなくって、ただ、ただ、無表情だった。それが怖くて……」


「おい……確かか、それ? 何でそれを言わねえんだ?」


「だって信じられねえんだよ! あの村長が、だぜ!? それに、人が変わったみてえにノレムって叫びだして……おれ、おれ、きっと勘違いしたんだって。そう思ったんだ」


「……嘘だ」


 バンゾさんが、火事の犯人? あり得ない。


「う、嘘じゃねえよ! 何だったら、おれだって嘘って思いてえよ! でも! あの顔が忘れられねえんだよ! なんにもねえんだ! 本当に! まるで死人みてえだったんだよ!」


 ナロはそう言い、肩を抱いて震えだした。とてもじゃないが、嘘に見えない。


「嫌がらせも……村長じゃねえのか?」


 不良の一人、マッセが口を開いた。


「村長は見回りしてるから……村のどこで見かけても怪しくねえし。ノレムの家の前にいても、不思議じゃねえ」


「……嘘だ…………」


 でたらめでも、バンゾさんが悪いなんて聞きたくない。きっとこいつらが誤魔化しているんだ。そうだ。聞けばいい。すぐに答えてくれる。そんな事なんかしていないって。しかし、俺の心とは裏腹に、屋敷に向かう足取りは重かった。


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