22 王都到着
22話を修正しました。
2017年8月23日 修正しました。
2017年9月6日 行間や読みやすさを修正しました。内容の変更はありません。
アロイス村に三、四日ばかり宿泊した後、俺達は王都へ向けて出発の日を迎えた。
「バンゾさん、オハンさん、お世話になりました」
「叔父さん! オハン! またね!」
「それでは」
「……じゃあな」
「みんな、気を付けて」
「たまには帰って来ておくれよ!」
村からしばらく歩き、これからの方針を思い返す。
※ ※ ※
とりあえず王都へ行ってアル・ゴーシュを探すのが現実的では、という結論に至った。西方諸国に行く事も検討されたが、さすがに当てがなさすぎた。それに……。
「王都なら直接、英雄ギルド入りができます」
ヨナさんが俺に耳打ちしてきた。どうやら、ギルドといっても英雄ギルドに入れたいらしい。冒険者ギルドじゃ駄目なんだろうか? 雇われの身なので、どうしてなのか聞きづらい。お布団が言うには、俺は自分を抑えて他人を優先しているがゆえに和が乱れないが、それではそれ以上の関係が発展しないそうだ。確かにその通りなんだけど、こればかりは性格な気もする。他人とぶつかるって、正直言って怖い。……でも。
「ヨナさん。あの、な、何で俺を英雄ギルドに入れたいんですか? それに、英雄ギルドって何なんですかね……?」
お布団の言葉に後押しされた俺は、ぶつかってみた。
「……時期が来たら、お話します」
無残に砕け散った。ああ、お布団。本当だ。本心で質問を言って拒否されるのって、凄く傷つく。
「ちゃんと頼りに、していますから」
意外な言葉をヨナさんから聞いた。その顔は申し訳なさそうだった。短い時間だけど一緒に旅をして、こんな顔を見るのは初めてだった。
※ ※ ※
「頼りにしてる……」
「ん? ノレム?」
「あ、いや。何でもない」
他人とぶつかったなんて大げさなものじゃないけど、おかげでヨナさんの事を一つ深く知ることができた。あのヨナさんが俺を頼りにしていると言ってくれた。お世辞かもしれないけど、嬉しかった。
「フラフラ歩いてんなよ、ノレム」
「あ、ああ」
メイプルが後方で、辺りを警戒しながら歩いている。ちらりと前にいるヨナさんを見た。そういえば、最初からこの二人は本音のぶつかり合いをしていた。そのせいか、二人はすぐに馴染んだように感じる。仲良くする事だけが関係を深める訳じゃない、か。むしろ逆もあるのか。
「人間関係って……難しいなあ……」
「んん? ノレム?」
「あ、ごめん。独り言」
俺達はメイプルがいた交易所で補給して、王都を目指した。北へあと二十日間はかかるらしい。そんなに遠かったっけ?
「ノレムさんには、戦闘訓練を受けながら王都へ進んでもらいます」
「え!? 訓練!? た、戦うんですか!?」
「王都へは山を越えて行きます。街道は使いません。向かうにあたり、その道中で出てきた魔物はすべてノレムさんが倒してください。メイプルさんもフェミルさんも、魔物が襲ってきてもその場から動かないように言ってあります」
「ま、待ってください! 戦うのは解りました! でも、せめて安全なところに逃げていてくださいよ! 怪我したらどうするんですか!」
「即死さえしなければ、傷を負ってもノレムさんのお布団で完全回復するでしょう」
「そんな……無茶苦茶ですよ! 俺はこの前までただの、成人前の村人だったんですよ!?いくら強くなったって、戦い方を知りません! 素人同然ですよ!」
「私たちに怪我をさせたくなければ、死ぬ気で戦い方を身に着けてください。それが遅れれば、いずれ私たちの誰かが命を落とすでしょう」
それ以上は何を言っても無駄だった。俺はこの無謀な戦闘訓練に挑まなくてはいけなくなった。
※ ※ ※
交易所から出て山道を歩いて行くと、動く木の魔物、トレントヴィオに出くわした。ヨナさん、俺、フェミル、メイプルの順に列を作って移動しているので、前方から来た敵に対してはいきなりヨナさんが危険になる。俺は少し離れた位置のトレントヴィオを十分に目視して警戒した。妙な動きをしたら飛び出して、攻撃するつもりだ。
「……頼みましたよ、ノレムさん」
「わ、わかりました」
「魔法満腹睡眠【ポンポンスリープ】」
ヨナさんが呪文を唱えると、フェミルとメイプルが小さく「けぷっ」と呟いた。二人は恥ずかしそうに口元を手で隠したが、すぐに膝から崩れ落ち、地面に突っ伏した。その光景に驚いていると、ヨナさんからも「けぷっ」と聞こえ、地面に倒れた。三人とも静かに寝息を立てている。
「その場を動かないって……ここまでやるのか……!?」
いよいよ、俺は覚悟を決めた。三人には指一本触れさせない。辺りを警戒する。葉のこすれる音だけが妙に響く。おかしい。今は風が吹いていない。まさか……囲まれている? 落ち着け。焦るな。でも、モタモタしてもいられない。
がさり、と一瞬だけ大きく音が鳴った。そっちに目をやると、普通の木に交じってトレントヴィオが急接近してきたのが見えた。その進行方向には、フェミルがいる。
「くうっ!」
俺は体を捻りながらトレントヴィオに突進し、勢いよく回し蹴りをお見舞いした。まるで虫食いだらけの枯れ木のように脆く砕け散った。その音を合図のようにして、周りのトレントヴィオが一斉に襲い掛かって来る。俺は大声を上げながら、必死に撃退していった。
※ ※ ※
あれから二十日が経った。だいぶ王都へ近づいただろう。
「どうですか?」
ヨナさんが小さな声で俺に尋ねた。
「正面から向かって、九時、十一時の方向に魔物がいます。衣擦れから察するに、獣人かアンデッド。素
早く移動しているようなので、獣人のオークかゴブリンだと思います」
俺はヨナさんより前に陣取り、相手の出方を見た。何もしてこないのを考えると、相手は襲うタイミングを計っているようだ。それを確認して、俺は懐から大小さまざまな石を取り出し、思いっきり魔物の方へ投げた。
「ギュアアアア!」「グゲッツ!」「アギャガッ!」
お布団のおかげで高LVになった俺の投石は、高速で飛ぶ鋭い散弾と化し、木や石を貫き魔物に致命傷を与えるまでになった。ヨナさん曰く、そこらの魔法よりもはるかに凶悪だそうだ。前方を確認すると、俺が石を投げつけた一帯が穴だらけになっていた。そこに、同じく穴だらけのオークが数体寝転がっていた。そのうちの一匹の呼吸が聞こえる。そいつへ近づくと、オークは素早く体を起こし、不格好な斧を振り上げた。
俺はそれを確認すると、体を半身だけずらして斧が振り下ろされるのを待った。すぐ側を通過する斧を見てから、オークの頭に肘を食らわせた。頭蓋骨が砕ける感触。よし、これでこいつはもう立てない。魔物を発見してから撃退までだいたい四、五分。まあまあかな。
「ノレム、何だかすっごく強くなったね!」
フェミルが笑顔で迎えてくれた。いつものえくぼを見ていると癒される。
「ありがとうフェミル。まあ必死だったからなあ……」
「おめぇはまだまだ強くなるぜ。こんなもんじゃねえよ」
メイプルが腕を組んで邪悪な顔で笑っていた。最近やたらと戦いを挑まれる。そのたびに勝ってはいるが、徐々にメイプルの動きが読めなくなってきている。さすが戦士と言うか、死角を突くのが実に上手い。お布団スキルが無ければ、姿が消えたように錯覚してしまうだろう。
「そ、そうだな。頑張るよ」
俺はこの二十日間、必死に三人を守りながら旅をした。その過程で、どうしても怪我をさせてしまう事もあった。その度に謝罪し、反省した。いくら治るとは言っても、傷ついた姿は見たくない。それに、次は怪我で済まないかもしれない。どうすればもっと安全で、確実に、素早く倒せるかを必死に考えた。そのおかげか、俺は魔物に対して少しは対処できるようになったようだ。
「ノレムさん」
「はい。大丈夫です。魔物の気配も音もしません」
「いえ、着きました」
一瞬その意味が解らなかったが、ヨナさんの後ろにある巨大な建物のようなものが見えて、ようやく理解した。林を抜けると、平野が広がっている。その向こうに、山の上に鎮座した城と、それに続く城下町があった。
「王都……ようやく着いた……」
長かった。これでもう緊急事態にも似た戦闘から解放される。良かった……。
「ヨナさん、ありがとうございます。最初はどうなるのかと思ったんですけど、何とかなりました! おかげで魔物にもいちいち驚かなくなったし、音や匂いで何匹いるかとか、筋肉の動きで何をしようとしているのか解るようになりました! あと、三人の中で誰がどうやって狙われるのかとか、それが何故なのかとか、体を最小限に動かして攻撃するにはとか、あとは……」
「……」
ヨナさんが黙ってしまった。不味い! ちょっとはしゃぎ過ぎた。成人したっていうのに、すぐに子供のようになってしまう。いかんいかん。
「私は……」
「え、あ、はい!?」
「ノレムさんが、戦闘に入るための心構えが足りないと判断したので、それを二十日間で獲得してもらうつもりでした」
「こ、心構え!? それだけですか!? そんなの別に、口で言ってもらえば……」
と、そこまで言いかけて想像する。果たしてこの二十日で会得したものが、口で説明をしただけで得ることができるのかどうか。恐らく、十分の一も理解できない。
「しかし、それ以上の戦闘技術をあっさりと習得してしまったので、驚きを通り越してどう言っていいのか解りません。……が、とりあえずは……」
ヨナさんの白い手が、俺の頭に触れてきた。
「よくできました」
「え、ちょ、よ、ヨナさん!?」
不意打ちで頭を撫でられて、どうしていいか解らなくなった。香水なのか、いつか嗅いだ花の蜜のような香りがする。ヨナさんとこんなに近い距離で話をするのはアロイス村以来だ。間近で見ると、本当に綺麗な人なんだと解る。
「強くなるたびに、ご褒美をあげましょう」
「……ヨナさん、俺はもう成人ですよ」
「私にとっては幼子です」
メイプルとフェミルの事が気になったが、二人とも王都を見ていた。いつ振り向いてくるのか気恥ずかしくて仕方がない。
「次はキスをしてあげます」
「き!?」
ヨナさんは俺の頭から手を放して歩き出した。それと同時に二人が振り返り、運よく俺が子ども扱いされていた姿を見せる事は無かった。
「……俺はヨナさんにとって子供どころか、赤ちゃんみたいなもんなのか……?」
俺は王都に着いた感動よりも、ヨナさんの行動に緊張してしまった。何だかどうにも、くすぐったい。




