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15 作戦会議

2017年8月23日 修正しました。

2017年9月6日 行間や読みやすさを修正しました。内容の変更はありません。

俺達は警備隊の詰め所へと向かっていた。入口まで行くと、上半身だけ鎧を着て下は短いスカートの女性兵士が敬礼し、中へ通してくれた。通り過ぎる兵士は何だか女性ばっかりのような気がする。通された部屋には、長くて大きい机が中央にあり、椅子がちらほらと置いてあった。作戦会議室だろうか。初めてこういう所に来たせいか、少しワクワクする。


「ワリいな。仕事の話ならここじゃねえと締まらなくてよ」


「いえ」


 ヨナさんがメイプルさんと向かい合って座ると、俺とフェミルもそれに続く。


「それで、お話を伺いましょうか」


「アンタらには、街の警備を依頼したい。つっても、ノレムにだけどな」


「え? お、俺ですか!?」


 メイプルさんはそう言って、邪悪な笑顔で俺を見つめてきた。う、嫌な予感がする。


「貴女方の鎧はお飾りなのですか?」

ヨナさんが「警備は貴女のお仕事ではないのですか?」と言わんばかりの皮肉を言った。


「そう言うなよ。こちとら人員が限られてんだ。現状すでに限界だってのに、賊が商家を襲撃するって情報が入ったんだ。もう、アタシらだけじゃお手上げだぜ。はは。こんな事、街のやつらにゃとてもじゃねえが、聞かせられねえな」


はあ、とため息をつきながら頬杖を突いて脱力していく。


「だいたいよー。アタシにゃ向いてねえってんだ。責任者とかよー……」


 今度はぶつぶつ愚痴りだした。だいぶ参っているようだけど、大丈夫かな? やっぱり働くって大変なんだろうな。俺もやっていけるんだろうか……と将来の心配をしていると、扉を叩く音が聞こえ、宿で見た金髪の少女が入って来た。


「雷姉貴。お茶です」


「おう、クー。ありがとな」


 相変わらず眠たそうな顔だ。お茶を受け取ろうと伸ばした手を逆に掴まれ、俺は廊下へ引っ張り出された。扉が閉まる瞬間、中にいるフェミル達も驚いた顔をしているのが見えた。


「え?」


「お前がノレムか」


「え……と、はい。ノレム・ゴーシュと申します……」


「ノレム。雷姉貴を貰ってやってくれ」


 ……? ん? んん? 意味が解らない。何だ? 何を言ってるんだこの人は? 冗談……には思えなかった。その表情があまりに切なく、必死のように感じた。それが逆にますます俺を混乱させた。固まっていると、メイプルさんが扉を開けて顔だけ出した。


「おい、クー。何してんだ?」


「いえ、別に。それじゃ」


 俺に爆弾のような言葉を投げかけ、そそくさとその場を去って行った。首を傾げるメイプルさんを見て、さっきの言葉を思い出す。貰うって、ええと。どういう意味で?


「……要は、アタシらが商家の警備をしている間、街の警備をしてほしいんだ。見回りだけで構わねえよ」


「いくらでも替えが利きそうな案件に感じますが?」


「言いてえ事は解る。ギルドに掛け合って警備の依頼をしろってんだろ? 無理無理。交易所の冒険者ギルドはほとんど商業関係だ。戦闘の手練れは一人もいねえ。それに、依頼を出したところでもう遅え。襲撃は明日、明後日だ」


「……その情報は確かなのですか?」


「は。情報に絶対はねえよ。ちっとでも怪しけりゃ叩く。でなけりゃ、人の命なんて守れやしねえよ」


しばらく黙った後に、ヨナさんがメイプルさんの目を見据えて口を開いた。


「本題に入ってください。ただの見回りなら、手練れが必要な理由がありません」


 ヨナさんの言葉にメイプルさんは両肩を少し上げて、ため息を漏らした。


「いや、たまんねえな。ここまで直球だと。それなら、単刀直入に言うわ」


 体勢を整え、俺の方へ体を向けたメイプルさんの顔が真剣そのものだった。


「ノレム、アタシと一緒に黒衣の人攫いから街を守って欲しい。できるなら討伐もだ。賊の件が解決するまでの三日間だけでいい」


「え!」


「黒衣の人攫い……色々な村や町で噂を聞いています。しかし、ここに現れるという根拠は?」


「つい最近、交易所の周りで目撃された。理由としちゃ、それだけだ」


「勘、ですか」


「言ったろ。ちっとでも怪しけりゃ叩くって。非効率的になろうが構わねえ。失くした命はメガミサマだって元には戻せねえんだからな」


「……なるほど」


 ヨナさんが初めて頷いた。どうやらメイプルさんの言う事に納得したらしい。


「ノレムさん。どうしますか?」


「えと、俺に問題はありません。ただ、黒衣の人攫いとやらと俺が戦えるのかどうかはちょっと心配ですけど……」


「は。構えなくてもいいぜ? 念の為の見回り警備だから」


 そう言うメイプルさんの顔は、至って真剣だった。その雰囲気に、バチバチの戦闘になるかもしれない

予感がして今日はお布団でたっぷりと寝ておこうと決めた。

賊が襲撃するかもしれない三日間、詰め所の一部屋を貸してくれることになったので、正直助かった。宿代をどうしていいか目途がつかない。従者としてお金を頂きたいが、まだロクに働いていないので俺からは言い出しづらいし……。

『睡眠学習LV2を開始します』

※ ※ ※


『お布団です』


ああ。ただいまお布団。


『お布団は色々と考えていました。マスターは、朝からお布団の文字を見てゲンナリしませんか?』


いや、もう慣れたから構わないけど。

『駄目です。マスターに負担を掛けたくありません。そこで、今度からお布団は文字をちょっとでも少なくするように工夫をします』


え、そう? そこまで気にしなくていいんだけどな。


『それに、とっておきのスキルを開発中です』


おお。何だそれ。どんなスキルなんだ?


『まだ秘密です。お布団はにやにやします』


そうなんだ。楽しみにしてるよ。

 

チーンという音と共に、羽が中に入っている白い布団が大量に降って来た。隙間なく降る布団にいつも通り溺れた。

※ ※ ※


『マスター支援LV1が発動しました。マスターのレベルが52に上がりました。お布団ポイント8を取得。合計35ポイントです』


おお!? 起きるたびに襲われた文字の嵐が、こんなに少なくなった! 嬉しいような。寂しいような。

起床後、食事を摂って作戦会議室へと向かった。部屋の中には、上半身だけ鎧を着て短いスカートを履いた女性、女性、女性……いくら辺りを探しても、男性は俺だけだった。何だか妙に恥ずかしくなり、思わずフェミルの顔を見た。いつもの笑顔を見せてくれた後に、俺の手を引いて後ろの方に座らせてくれた。それが余計に恥ずかしくなり、俯いてしまった。今の俺は、誰よりも女の子のような姿だっただろう。


「集まってるな」


 メイプルの声がした途端、ざわざわと騒いでいた女性たちが沈黙し、姿勢を正した。前を見ると、腕を組んで仁王立ちをしている。


「おめぇらも聞いてるとは思うが、今日か明日、賊が商人の家を襲撃するって情報が入った。アタシたちの人員は限られてる。そこで、昔からの知り合いで、総長とも縁のあるノレムに助力を求める形になった。心配しなくていい。そいつは、アタシの雷速を見切れるヤツだ。アタシとノレムが組んで街を巡回する。あとは、おめぇらが肝だ」


女性たちの顔が引き締まった。戦士の顔とでも言うのか。各々何とも頼もしい。……というか今、メイプルさんは変な事を言わなかったか?


「ノレムは入口で待っていてくれ。すぐ戻る」


 会議は解散し、あんなにいた兵士たちがあっという間にいなくなった。働く大人って感じだ。感心していたせいでメイプルさんにさっきのはどういう事か聞きそびれてしまった。まあ、何となくは解る。あの人の性格から、周りの兵士への気遣いなのだろう。良く解らない人が自分たちを差し置いてメイプルさんと行動して警備だなんて、角が立ちそうだもんな。


やる事もなく突っ立っていると、後ろから視線を感じた。振り返ると、長いスカートを履いた女性兵士が驚いて、慌てて離れていった。何だろ? じっと見ていると、その向こうから金髪の少女、クーさんが歩いてくるのが見えた。


「ノレム」


「あ、どうも」


「女ばかりで驚いただろ。ここは通称、女傑の交易所って呼ばれている」


「女傑……た、逞しいですね……」


「……そうでもない」


 クーさんは近くに誰もいない事を確認すると手招きし、耳打ちしてきた。


「ここは、いわゆる形だけの警備隊だった。そこまで爵位の無い貴族の女や、力の無い領主の娘の価値を上げるために無理やり入れられる所だった。だから、当時の戦力は素人同然だ。治安も今よりずっとずっと悪かった」


「そ、そんな事が……」


「意外か? 割とよくある話だぞ。でもそんな時に雷姉貴がやって来て、あたし達を鍛えてくれた。最低限でも戦えるように。……死なないように。雷姉貴のおかげで、今のあたし達は戦う力を手に入れた。感謝してもしきれない。雷姉貴はあたし達全員の恩人だ」


 クーさんの表情は相変わらずだが、その目には光が宿っているように感じた。


「だから貰ってやってくれ」


また言われた。貰うって、どういう意味で?


「ワリい、待たせたなノレム。ん? クー。どうした?」


 メイプルさんの鎧が軽装になっていた。しかし、腕や胸の収納に妙な膨らみがあり、そこに何らかしらの武器を隠しているのが何となく解った。


「いいえ、話は終わりました」


「ふん? そうか。じゃあ、ノレム。頼むぜ」


クーさんとの不思議な会話を終え、俺とメイプルさんは街を警備するために外へ出た。


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