表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
35/35

元、不登校の黒髪ダウナー幼なじみに愛され過ぎて困っています

『祝 卒業!!』の文字とともに、風に舞う桜や、卒業証書を持った学生たちが描かれている。


 そんな華やかな黒板を背景に、担任の内藤先生が教壇に立った。


 卒業式が終わった今の時間こそ、高校で過ごす最後の時間だ。


「みんな、今日までよう頑張ったな。全員が第一志望に決まった訳やないけど……全員進路は決まって、こうして卒業に漕ぎつけたな!」


 黒のスーツを身にまとい、胸元に造花を挿している内藤先生。


 そんな先生の熱弁を、空音は背筋をピシっと伸ばして聞いていた。

 一方の海歌は頬杖をついているが、一応先生の話には耳を傾けている。


「これから巣立っていくお前らに、2つ、伝えたいことがあんねん」


 内藤先生は人差し指を立てた。


「1つ――言葉を大切にして生きてほしい。言葉は、時に人を助け、時に人を傷つける。せやからこそ、言葉を大切にしてほしいんや。これが、3年間の国語の授業を通して1番伝えたかったことや」


 まさに、現代文の先生らしい訴えだった。


 そういえば、海歌と言葉をぶつけ合ってケンカをしたこともあったなと思い出した。もう1年以上も前か……


「2つ――どんなに道を踏み外しても、人生はいくらでもやり直せるっていうことや」


 指を2本立てた内藤先生は、語気を強めた。


「オレは、学生の頃にヤンチャしとって、親を何回も泣かせた。バイク乗り回して事故ったこともあった。やけどな、そんなオレでも高校の教師になれてんで。真面目で誠実なお前らなら、何にだってなれる。もしも過ちを犯しても、いつだってやり直せんねん!」


 先生の言葉の一つ一つが脳内に響き渡り、胸の奥に突き刺さる。


 ふと、海歌のほうを見ると、振り向いた彼女と目が合った。彼女の白い頬を伝った涙が、ポツ、ポツと机を叩いている。


「ほな、またどっかで会お――3年1組、解散!!」





「内藤先生って、最初は恐い先生だと思ってたけど、全然そんなことなくて、むしろ、優しい先生だったな」


「わたしが進路について相談したら『まずはアルバイトから探してみたらどう?』って、一緒にバイト先探してくれたんだよね。あの先生、マジで神ってる。先生ガチャ大当たり」


 俺と海歌はベンチに座って、卒業アルバムを見ていた。


 校門には『祝 卒業証書授与式 東京豊穣高校』という看板が立てかけられていて、生徒やその親たちが長蛇の列を成し、順番に写真撮影をしていた。


「そういえば、海歌のお母さんはどんな反応してた?」


「私が卒業できるよって言ったら、泣きながら抱き着いてきた」


 学内での出来事や、プライベートの思い出まで……様々な記憶を辿りながら、ページをめくっていく。


 そして、卒業アルバムの最後のページを開いた。


『陸翔へ。マジでありがとう。おかげで高校卒業できたよ!これからもずっと仲良くしてほしいし、ずっと一緒にいてほしい。I LOVE YOU フォーエバー!!  宮本海歌より』


『陸翔くん、卒業&第一志望合格おめでとう!ウチら3人の絆は永遠に不滅!!また3人で一緒に遊びたいな!これからもよろしく~ 道山空音』


 そこには、3年間を通して仲良くしてくれた大切な恋人と、親友からのメッセージが記されている。


……初めて、最後のページが白紙じゃない卒アルを手に入れた!


 これまで二人からもらったプレゼントと一緒に、家宝にしたい。


「海ちゃん、陸翔くん! やっほ!」


 卒アルを閉じたそのとき、鼓膜にキンと響く聞き馴染みのある声が響いた。


 顔を上げるとそこには、黒色の高級車が停まっていて、その車の後部座席の窓から空音が顔を覗かせていた。


「あ、空ちゃん。完全に元気になった?」


「うん! 過去のことでずっとくよくよしてるより、未来に待っている楽しいことを想像したほうが良いもんね!」


 空音は車のドアを開けて外に降りた。



――彼女は、第一志望だった超難関、東大(東宮帝都大学)に合格できなかった。


 合格まで、あと7点足りなかったらしい。


 いつも元気な空音らしくなく、3日前まで学校を休んでいた。


「第一志望には落ちちゃったけど……私立の滑り止めには受かってたから、やりたかった哲学の勉強は、問題なくできるよ!」


「私が空ちゃんを遊びに誘ってなかったら、受かってたかもしれないのに……」


「海ちゃんのせいじゃないよ。勉強がすべてじゃないし……むしろ、海ちゃんと陸翔くんには100万回ありがとうって言いたい!」


 空音は私立大学に通うために、千葉県に引っ越すことになっている。決して遠くはないが、これまでのように毎日、毎週会うということはできない。


 もしも東宮帝都大学に合格していたら、気軽に会える距離だったのに……


 そう思うと、はたから話を聞いていた俺も肩がずっしりと重くなった。


「2人のおかげで、チョー充実した高校生活を送れたよ。2人は一生ものの大親友……ベストフレンドだよ! それに比べたら、不合格なんて大したことじゃないよ!」


「ごめん……じゃなくて、ありがと、空ちゃん」


「こちらこそ、ありがと、海ちゃん」


 人目をはばからず、ぎゅっと強く抱きしめ合い、笑顔を取り戻した海歌と空音。


 見ているこっちまで、心が温かくなった。


「ウチ、大学生活超チョー楽しみ! 昨日ね、軽音サークルの先輩たちとチャット交換したの! 友達とか、ワンチャン彼氏見つけられるかなーって!」


「さすが空音、繋がり作るの早すぎだろ……」

「陽キャって、いろいろ凄いなぁ……」


 あまりに軽快で社交的な空音の身のこなしに、陰キャな俺と海歌は、ただただ驚かされた。


 話はほどほどに、空音は車のドアを再び開けた。


「またね、陸翔くん。改めて、卒業と、第一志望合格おめでとう!」

「空音も、合格おめでとう。勉強と大学生活、楽しんで」

「うん! 目いっぱい楽しむつもりだよ!」


 空音はまず、俺と握手を交わした。


 次に、海歌の正面に立った。


「海ちゃん、今日までよく頑張ったね! すごい!」


「いや、私なんて、陸翔と空ちゃんと比べたら全然すごくないから。二人がいてくれたから、頑張れただけだよ」


「ウチは引っ越しで忙しくなるけど……2回ぐらいは海ちゃんの家に遊びに行く予定だから、そこで思い出話、いっぱいしようね!」


 空音が両腕を伸ばしながら、海歌の胸の中にすっぽりと収まった。


 そして去り際、空音は海歌の頬に顔を近づけた。


「っ……!?」

「海ちゃんも陸翔くんも、大好き!!!」


 そう叫んで、空音は再び車の後部座席に飛び乗って、高校を去った。


「……キスされた」


 自らの右の頬を撫でる海歌は、耳元から鼻先までを真っ赤にしていた。


「もー、何なのあの子……まあ、空ちゃんならいっか」


「じ、じゃあ、俺たちもそろそろ行こうか」


 困惑を共有しながらも、俺と海歌は校門のほうへゆっくりと歩いた。


「よく考えたら、大学って空ちゃんみたいな可愛い人たちの巣窟じゃん」


「だろうな。頭髪とか服装の校則がなくなるだろうし、オシャレに興味を持つ人が多くなるだろうし」


「私以外の人とチャットしたり、お話するのも、全部、私の許可もらわないとダメだから」


 相変わらずの警戒心と嫉妬の強さを覗かせた海歌。


 実際高校より大学のほうが、オシャレで、大人びていて、可愛い人が多い印象がある。


 しかし、俺は重度の口下手。


 新しい環境も相まって、海歌以外の異性の人と会話するのは難しいだろう。1年前のケンカの件でお互いに嘘はつかないと約束もしているので、海歌の心配するお喋りも、チャットの交換も、たぶん起こらない。


「……大丈夫。俺、人と話すの苦手だから」


「なら、安心して指輪が買える」


「指輪……? 結婚指輪のこと?」


「うん」


 海歌は、さも当然かのように首を縦に振った。


「いくら何でも早いって。俺ら、まだ18歳だよ」


「でも、年齢的には結婚できるじゃん」


「まあ、法律的にはそうだけど……」


「私、結婚式でドレス着たいな~。2人で済む家は、戸建て、それともマンション? 子どもは二人ぐらい欲しい……なんちゃって。ひひひっ」


「だから、気が早いって!」


 白い歯を見せて笑った海歌。


 しかし、これまで彼女が語った愛や気持ちに、嘘偽りはなかった。


 もしかしたら「ドレス着たい」とか「子どもは二人ぐらい」という言葉も、本気マジなのかもしれない……


「まあ、考えておくよ」


 俺が前向きな姿勢を表すると、海歌はあからさまにニヤリと笑った。


 そんな話をしていたら、高校の門が間近に迫った。

 ここを通り抜ければ、いよいよ高校を去ることになる。


 俺は、これまでの楽しかった思い出や大学受験の苦労に思いをはせながら、校門を潜り抜けた。


「どうした海歌? 忘れ物?」


 振り向くと、校門の前で立ち止まっている海歌が見えた。


「なんか、急に実感湧いてきた。私、本当に高校を卒業できたんだって……」


 低い声でボソッと言った海歌。

 その黒い瞳から光が消えて、より暗くなったような気がする。


「この門をくぐったら、もう高校に戻ることってないんだよね……そう考えたら、なんか、不安」


「確かに、通い慣れた場所を離れるのは不安だよな」


 その気持ちは、都内の大学に行く予定の俺も、アルバイトを始めた海歌も、遠方に引っ越す空音も同じだろう。


「でも俺は、海歌がいるから頑張れる。困ったときに支えてくれる人たちがいるから、大丈夫だと思えるよ」


「私も、そうかも。私には、支えてくれるママと、親友と、あと、大切な恋人がいる」


 海歌は終わりを強く意識しているようだが、これからがスタートだ。


「――みんなで、今日よりちょっと明るい明日を探しに行こうぜ」


 そう言って、海歌の手を引いた。

 彼女は前を向いて、校門を潜り抜けた。


 桜の木の香りを運ぶ春風が、海歌の黒髪を撫でる。


「ふふ、陸翔って、たまにいいこと言うよね」


「だ、だろ? 頭の中で、一生懸命に考えてるからな!」


 最後に、見慣れた懐かしい白い校舎を見上げて、その場を去った。


「このあと、お昼一緒に食べない? 久しぶりの、二人きりの打ち上げ」


「母さんと父さんに、卒業祝いの焼肉に誘われてるんだよな……どうしよう」


「じゃあ、ディナーは?」


「まあ、それならいいよ。食い過ぎないように気を付けないとな……」


「やった~。バイト始めたから、今日は私のおごり、ね」


 俺と海歌は手を繋ぎ、通い慣れた通学路を辿って駅に向かった。


 まぶしい太陽の光と、風に舞う桜の花びらに導かれるように――




-完-

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ