プロゲーマー(?)海歌
俺は一度家に戻ってから、荷物を整え、海歌の家に向かった。ワークや教科書もバッチリ持参して、夏休みの課題を少しでも進めておきたい。
自宅から自転車を漕いで、海歌の住むアパートへ到着。
いよいよ夏本番で、自転車に乗るのがツラい時期。汗をかいて、シャツがビショビショになってしまった。替えのシャツや汗拭きシートを持ってきておいてよかった。
「あ!陸翔くんだ!」
そのとき、聞き覚えのある溌剌とした声が聞こえた。
振り向くと、そこには、白いワンピース姿の空音がいた。ちょうど、タクシーから降りてきたところだった。
「やっほー、陸翔くん!」
「お、おう、空音さん。今日も暑いな」
「ね~なかなかオシャレ着できなくて、嫌になっちゃうよ!」
俺と空音は、アパートの階段を上った。
俺が先頭に立って、海歌の部屋のインターホンを押す。
「空いてるよー」
部屋の中から海歌の低い声が聞こえた。
俺と空音は「「お邪魔しまーす」」と声を揃えて入室した。
部屋はクーラーが効いていて、ちょっと肌寒いくらいだった。
「お疲れ~」
首もとにヘッドホンをかけた海歌が、部屋の奥からやってきた。
「やっほー、海ちゃん!今日は呼んでくれてありがとね!はい、これどーぞ!」
空音は持参した紙袋を海歌に差し出した。
「なにこれ?」
「チョコクッキーだよ。駅前のお菓子屋さんで買ってきたんだ~みんなで食べよう!」
「これ、高いやつじゃなかったっけ?わざわざありがとう、空ちゃん」
甘いもの好きの海歌は、ニヤリと笑いながら紙袋を受けとった。
タクシーで来たり、オシャレなワンピースを着ていたり、お高めのチョコ菓子をお土産で買ってきたり……空音の一挙手一投足から【清楚なお嬢さま感】が滲み出ていた。
「ごめん、海歌。俺、何にも買ってきてない……」
「いいよ、気にしないで」
そう言って、海歌は部屋の奥へ。
その後ろに空音が続いた。
俺は一旦トイレを借りて、汗を拭き、着替えを済ませて部屋の奥へ。
そこは、海歌がゲームをしたり、ベッドで寝たりする私用スペースだ。
「わお!これって、ゲーミングPCってやつ!?」
「うん。誕生日にママが買ってくれたんだ」
「すごい!ウチ、初めて見たかも!キーボードがピカピカ光ってる!」
初めて見るゲーミングPCに、空音は大興奮。
ラックの上に、ゴミ箱ほどの大きさのPC本体が載せられていて、ファンが勢いよく回っていた。その大きさ、画面の鮮やかさは、かなり高性能なパソコンと見える。
「最初は……まあ、出会い目的で始めたんだけど、けっこう上手いって気づいてからはガチ勢になったって感じ」
「ということは、海ちゃんはカレシを見つけるためにゲームを始めたってこと?」
「まあ、うん……」
「へぇ~イマドキだなぁ。ランクはいくつなの?」
「プラチナのB」
「ええ!?上位勢じゃん!将来プロゲーマーになれるんじゃない?」
「いやいや、プロは無理だって。私は、あくまでエンジョイ寄りだから」
「このゲーム、ウチもやってるよ!まだゴールドランクだけど、勉強の合間にコツコツやってるよ!【ゴミ麻呂】さんとか、【カメリア・佐紀音】さんの動画、毎日見てる!」
「え、マジ?最推しは誰?」
「【ゴミ麻呂】さん!雑談が面白いし、FPS全般が上手いし!」
「私も」
海歌と空音はFPSゲーム好きという意外な共通点を見つけて、二人で盛り上がっていた。
ふと、海歌がゲーム配信したら稼げるのではと思った。海歌、ゲーム上手いし、引きこもりで時間があるし、パソコンは高性能だし、あと、可愛いし。
海歌は大きなゲーミングチェアに座り、ゲームの試合を始めた。
俺と空音は、椅子の隣へ。
試合の行方を固唾をのんで見守った。
海歌は、巧みなマウス捌きを見せる。
見事、遠くに見える米粒ほどの大きさの敵の頭を撃ち抜いた。
「よく見えるよな、あんな遠くの敵」
「まあ、慣れだよ。マップ覚えて、キャラの強みと武器の強み活かして、100試合ぐらいやれば、それなりに上手くなれる」
「俺はFPSやったことないから、イマイチ分からないなぁ……」
「陸翔は、普段何のゲームやってんの?」
「え、ああ、それは、えーと……最近は、美少女育成系のソシャゲかな」
「うお」
「冷笑するのやめてね」
「まあ、いいんじゃない。人それぞれ好きなゲームがあるだろうし」
海歌に苦笑いされて、ひたすらに恥ずかしかった。
空音に「ソシャゲって?」と聞かれて、さらに恥ずかしかった。
「ウチもやりたい!」
「ラックの一番下に、古いノートパソコンがあるから、それ使って」
「分かった!陸翔くんも、一試合ごとに交代でやろう!」
「ええ!?俺はいいよ。FPSやったことないし……」
「やってみたら意外とハマるかもよ?戦略性も問われるから、頭いい陸翔くんならきっと活躍できるよ!」
クラス一番の天才である空音に「頭いい」と言われるなんて、畏れ多い……俺は、真面目な人間を演じるのが上手いだけだ。
俺は、空音とノートパソコンを交代で使って、ひたすらゲームに夢中になった。歴戦の海歌がキャリーしてくれたので、負けなしの戦いばかり。
空音も、日々の鬱憤や勉強の疲れを吹き飛ばすぐらい、ゲームにドハマりしていた。
あっという間に時間が過ぎ去り、気がついたら、窓から見える空が茜色になっていて……
「なあ、海歌。俺と空音と勉強するために呼んでくれたんだろ?」
「え、そうだったけ?わかんない」
「勉強したくないからって、とぼけるな。せっかく教科書とかワークとか持ってきたから、みんなで勉強しようぜ」
「えー、ダルい」
今回集まった本当の目的は、勉強するためだった。
しかし、俺と空音を誘った当の海歌は、やる気ゼロ。
ゲーミングチェアに深く座り、パソコンの画面に張り付いてSNSを見始めた。
「ウチらと一緒に頑張ろう、海ちゃん!ほら、今頑張っちゃえば、夏休みの課題も進むし、成績も上がるし、後でゲームできる時間も確保できるよ!」
空音に腕をぐいーっと引っ張られた海歌は、渋々、パソコンの電源を切った。
ゲームの後にやる勉強って、マジで面倒。
順番を間違えたな……絶対、勉強してからゲームしたほうが良かった。
ともあれ、俺と海歌と空音はゲームを中断して、勉強道具を揃え、3人でテーブルに座った。




