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幼なじみは黒髪ダウナーな不登校

古谷ふるやくん、この書類を宮本さんのお宅まで届けてもらえませんか?」


 すべては、担任の先生のその一言で始まった。

 下校前、先生から書類が入ったファイルが差し出された。


 ファイルには、先日行われた進路説明会の資料や、英語、数学をはじめとした教科の課題などが入っていた。



――宮本みやもと海歌うみか


 彼女は俺の幼なじみだが、最近高校に来てない。



古谷ふるやくんは、宮本さんの家と近いところに住んでいましたよね?」

「ええ。家の最寄り駅から10分ぐらいですね」

「すみません……出張やら、部活やらで忙しくてですね。お願いします、古谷ふるやくん」


 先生は多忙のようだ。

 俺に書類が入ったファイルを手渡して、カバンを持ち、足早に教室を後にした。


(めんどくせ~なんで俺が不登校の海歌のために、貴重な時間を割かなきゃいけないんだ……)


 俺は心の中で愚痴を吐き出した。

 けれど、俺【古谷ふるや陸翔りくと】は、成績でいうと、中の上ぐらいの優等生。

 こんな単純なお願いを断ることはせず、むしろ先生からの信頼度を上げるチャンスだとポジティブに考えて取り組む。


 俺は先生から受け取ったファイルをカバンに丁寧にしまって、教室を出た。


(あ~早く帰ってゲームやりたいなぁ……マジでめんどくせぇ)


 人見知りで、友達が一人もいない俺にとって、誰かの家に行くことは心理的負担が大きい。


 空はどんよりとした曇り。

 今にも落ちてきそうな黒く重々しい雲が空を覆い尽くしている。

 梅雨の時期ということもあり、ジメジメしていて蒸し暑い。


(なんで俺がこんな思いして、放課後の貴重な時間を奪われなきゃいけないんだ……帰ったらアイス食べよ)


 表面上は真面目な学生を演じている。

 けれど、心の中の愚痴が止まらない。


 電車を降りて、家の最寄り駅から自転車を漕ぎ、海歌の実家であるアパート前に到着した。

 当然、自転車を一生懸命にいだ俺は汗だくになってしまった。


 アパートの駐輪場に自転車を置いて、階段を上り、3階へ。

 突き当りの部屋が、海歌の住んでいる部屋となっている。


 しかし、ドアの前で俺は立ち尽くしてしまった。

 ドアポストが書類や封筒でいっぱいになっていたのだ。

 書類が入ったファイルを入れる余地は、どこにもない。


(こ、これじゃ入らないな。どうしよう……)


 海歌はズボラなところがあるが、こんな状態になるまで放置するだろうか?同居している母親が回収してくれそうだが……


 それにしても、どうして海歌は、1か月も学校に来ていないんだろう……?

 真相は、海歌のみぞ知る。


 こうなったらインターホンを押して、海歌を呼び出し、書類を手渡しするしかない。


(なんか、緊張するな……)


 海歌がいるだろうと考えると緊張してしまう。海歌とは幼なじみだが、まともに会話をしたのは小4の春休みが最後だ。


 気持ちを落ち着かせようと深呼吸していると、ドアの鍵が内側から開けられる「ガチャ」という金属音がした。


 誰かが部屋の中から出てくる。


 海歌か、それとも、海歌の母親か……


「あ、陸翔。久しぶり」


 開いた玄関から顔を覗かせたのは、短い黒髪の海歌だった。

 不登校でずっと家に引きこもっているからか、彼女の髪は寝ぐせが立っていてつやがない。今も十分可愛らしいが、学校に来ていた頃の海歌はもっと可愛かった。気だるげで、雰囲気が暗くなったような気がする。


 そんな彼女が着ているのは、高校指定の緑色のジャージ。何日も着っぱなしなのか、少し離れたこの距離でも臭いを感じる。


「……何してんの?」


「ああ、海歌。先生からお願いされて書類を届けに来たんだけど、ポストがいっぱいだったから……」


 慌てて、書類が入ったファイルを差し出す。


 海歌は黙ったままファイルを受け取った。お互い顔を合わせるのが久しぶりだから、会話がたどたどしかった。


「海歌、最近どう?学校には来てないみたいだけど、充実してる?」

「……別に。寝て、食って、ゲームして、また寝てる。そういう陸翔はどうなの?」

「え、まあ、いつも通り。元気にやってるよ」

「そっか」


 やべぇ、マジで気まずい。


 久しぶりに会う人との会話って、こんなにも弾まないものなのか。


 そんな気まずさに耐えかねた俺は、帰宅を試みた。


「じ、じゃあ、俺帰るね。今日は書類を渡しに来ただけだから」


 90度右を向いて、アパートの階段のほうへと歩き出そうとした。

 そんな俺の制服の袖を、海歌がつかんで引っ張った。


「待って、陸翔……」

「な、なに、海歌?」


 海歌は顔を真っ赤にして、モジモジしている。

 何か言いたげな様子だった。


「寄ってかない?」

「どこに?」

「……う、うちに」

「え……?」


 俺、海歌にお誘いされてる?なんで?

 心臓が痛いぐらいにバクバクと高鳴る。体が熱くなり、ようやく乾いたはずの汗が再び湧いて出てくる。


「チョコケーキとか、モンブランとかあるから、一緒に食べよ」

「え、あ、じゃあ、お邪魔させてもらおうかな……」


 たどたどしい返事をしながら、海歌に制服の袖を引っ張られて、家の中に引きずりこまれた。


「うわ……」


 入室した俺は、あまりにひどい光景を前にして絶句した。

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