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己と向き合うこともたまには必要です。


 

 

 己と向き合う。

 私はエルリア・フェアウッド。

 前世の記憶を持っている。

 ゲームの世界で生きている私。

 でも、この世界の人は皆意思を持った人間だ。

 大切な友だちもいる。

 大切な恋人もいる。

 そう、恋人のアル様。

 

 私の精神が16歳の私に引っ張られている。

 未熟で聞き分けがなくて愚かな16歳。

 

 どうすれば大人になれる?

 アル様みたいに大人な16歳になるにはどうすればいい?

 聞き分けのいいフリをするだけならハリボテの私になる。

 本当の私が大人にならなくちゃいけない。

 前世の頃みたいに大人の男性相手に己を隠して他者に接することが大人?

 そうだ、自分を押し隠して、全てを諦めて空っぽの私になるんだ。

 空っぽの私に――。

 

「フェアウッドさん! ちゃんと聞いているのですか!」

 

 突然話しかけられて沈没していた意識が浮遊する。

 顔を上げるとアーデン・マクレイン先生が険しい顔でこちらを見ている。

 

「すみません、アーデン先生」

 

「全く最近の若い子ときたら……」

 

 ブツブツ文句を言いながら黒板に向き直るアーデン先生。魔法史の授業は静かだから精神統一の訓練にもってこいだと思ったんだけど、そう簡単にはいかないか。

 

 私は教科書に目を落として考える。

 空っぽの私――元の私をヴィッキーとコレットは受け入れてくれるだろうか?

 バカみたいに明るい私は偽物?

 ううん、二人に出会って自然とすぐに仲良くなって、私は毎日が楽しくてたまらなかった。ざまぁを回避したかったのも、二人と別れるのが嫌だったから、バカして怒られたり呆れられたりされたことすら楽しかった。


 真面目て私を思ってくれる二人なら、“本当の私”もきっと受け入れてくれるはず。

 その為に明日、ついに秘密を明かすんだから。

 大丈夫、私は私。どんな私でも構わないはず。




 全ての授業を終えて寮の自室に戻ると、私はソファーに横になった。


 胸ポケットからスクイーズを取り出す。が、彼(もしくは彼女)は未だにぐったりしている。

 まだ私は己と向き合えていないらしい。


「まだぐったりしてるねぇ」


 コレットがスクイーズの頭を優しく撫でてくれた。


「己と向き合う訓練は上手くいってるの?」


 ヴィッキーが自分の机の席に座りながら聞いてくる。


「頑張ってしてるんだけど、己と向き合うなんて今までしたこと無かったから上手くいかないんだよね」


「難しく考えすぎなのよ。誰だって自分という存在は一人だけじゃないわ。いつもバカしてるあんたにも私たちが知らないあんたがいるはずよ」


「そうだよぉ? 私だって二人に見せてない私がいるよぉ?」


 コレットが微笑む。


「コレットに別の面があるとは想像できないんだけど」ヴィッキーが頬杖をつく。


「ふふふぅ。いつか見せるときが来るかもねぇ」


 私はスクイーズを撫でながらまだ向き合えていない自分を探すために目を閉じた。


 空っぽの私以外に向き合う事って何があるの?

 分からない。

 私は馬鹿だから、難しいことが苦手だ。

 思うがままにこの世界で生きている私だけじゃ、まだ何かが足りないの?

 どうすればいいの?

 これ以上私が私を見つけることなんてできない。


 目を開けてスクイーズに謝る。


「ごめんねスクイーズ。私は私が分からないよ。ダメな契約者でごめんね」


 スクイーズの体に頬を寄せると「ニュー……」と力なく鳴いた。


 あともう少しな気がする。だけどそれが何なのかが全く分からない。

 スクイーズを助けたくて私は気が焦るばかりだった。


 

 

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