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世界の真実と己の真実と。


 

 

 今日はついにヴィッキーとコレットに秘密を明かす日だ。

 果たして二人はどんな反応をするのか?

 受け入れてくれると信じてても、心のどこかで受け入れてもらえないかもと怯える自分がいる。

 

 私たちは寮の監督生に見つからないように、注意しながら古塔に向かった。

 

 螺旋状の階段を登りながら私は悶々としていた。

 正直に言えばビビリまくってる。

 

 私の後をついてくる二人に嫌われたらどうしよう、とか色々考えすぎて頭がおかしくなりそうだった。

 胸ポケットに収まってるスクイーズは相変わらずぐったりしてる。ごめんねスクイーズ。

 

 ある程度階段を登った所で部屋のドアが現れた。ここだ、待ち合わせ場所は。

 私は恐る恐る部屋の扉を開けた。

 

 中は薄暗く、あまりよく見えない。

 

「あのー……いますかー?」小声で尋ねる。すると部屋の中央にパッと明かりが灯った。

 そこにいたのはエリック様だった。今日も隙のない完璧な服装だ。

 彼は椅子に座って長い足を組んでいた。

 

「ようこそ、お嬢様たち。気軽に座ってくれ」

 

 私はエリック様の隣に座りながら小声で尋ねる。「アル様はやはり来れなかったんですね」

 

 エリック様が呆れたように首を振った。

 

「すまないね。本当にアルは政務と学園の勉学に忙殺されてて」

 

「分かってます。では始めましょう」

 

 私はヴィッキーとコレットを見た。明らかに困惑しているのが分かる。

 

「先ずは僕から紹介しよう。僕はノクティス家のヴァレンテイナの双子の兄、エリックという。以後お見知りおきを」

 

「は? ヴァレンテイナ様に双子のお兄様がいらしたの? 初めて聞くわ」

 

 ヴィッキーが愕然としている。

 私も種明かしされたとき、こんな顔してたんだろうなぁ。

 

「事情があって、僕の存在は隠匿されていたんだ。王家以外には」

 

 エリック様は落ち着いて話を続けた。

 

「僕はアル――アルヴィンの遊び相手兼学友として育ったんだ。僕の母がアルヴィンの乳母でね」

 

「それなら何故ヴァレンテイナ様と共に学園に入学されなかったのです、エリック様」

 

 ヴィッキーの鋭い指摘にエリック様が苦笑する。

 

「リア嬢に聞いていた通りの賢いご令嬢だ」

 

「質問に答えてください」

 

「まぁ、そう焦らずに」エリック様が指を組んで膝の上に乗せた。

 

「これから話すことは誰にも口外しないでほしいんだ。君たちはそれができるかい? できなければ最悪、情報が漏れた時点で君たちを退学させる事になる」

 

「それは困りますぅ。でもエリック様にそのような権限がお有りなのですかぁ?」

 

 コレットがいつもと違って鋭く指摘する。

 

「先程も言ったが、僕は公爵家の長男にして背後に王家がいる。しようと思えばできるよ」

 

 ニコリと笑うエリック様の目は笑っていなかった。

 

「ふんっ! これだから貴族は」

 

 ヴィッキーが吐き捨てるように言う。

 

「気の強いご令嬢だ。ここからの話にリア嬢が絡んでくる」

 

 二人の視線が私に注がれる。

 

「じゃあ、私から説明するね。私は――」

 

 話しかけた途端、バンッ! と勢い良く部屋の扉が開かれた。驚いて扉の方を見ると、なんとアル様が立っていた。

 

「アル様……?」

 

「悪ぃ、遅くなった」

 

 そう言うと空いてる席に座った。

 

「アル様どうして? 来れないって言ってたのに……」

 

「クソオヤジとちょっとあってな。そんで今はどこまで話が進んでんだ」

 

 アル様が私とエリック様に聞いてきた。

 

「エリック様が双子の兄で訳あって学園に入学してないってところまで」

 

「ならまだまだだな」

 

 アル様は王族とは思えない座り方(前世のヤクザ座り)しながら踏ん反り返っている。

 

「話は簡単だ。オレとリアはこの世界の者じゃない」

 

 沈黙が降り立った。

 

「いやいやいや、短っ! 短縮し過ぎだからアル様! ほら見てよ! ヴィッキーもコレットも口ポカーンだよ!」


「じゃあお前から言え」


「横暴!」


 私は座り直して二人に向き直った。


「えー、アル様の端的かつ、短すぎる説明で混乱してると思うから、僭越ながら私から説明するね」


 私とアル様はさっき言ったように、この世界の者じゃない。正確に言うと、私たちには前世の記憶があるの。その時にいた世界とこの世界はまるで違う世界なの。

 ショックを受けないで欲しいんだけど、この世界は私の世界の人間が作り出した虚構の世界なんだ。意味がわからないよね、

 私の世界には“ゲーム”っていうものがあったの。機械で架空の物語を遊ぶ、って言えば分かるかな?

 この世界はその架空の世界なんだ。

 私はこの架空の世界のゲームをよく遊んでて、内容は主人公がヴァレンテイナ様で、様々な困難を乗り越えたあと、隣国の王子様と結ばれるのね。そして私は聖女としてアル様に取り入る悪女なんだ。


「あんたが悪女とか笑えるんだけど」


 いや、それは自分でも分かってるけどさ、そういう物語だったんだ。

 物語は最終的にヴァレンテイナ様に嫌がらせをしていた私の罪が暴かれて、私は斬首刑、アル様は古塔に幽閉されて物語は幕を閉じるってわけ。

 ここまでは分かってくれた?


「なんとかぁ」


 よし。それでね、私は前世でそのゲームを遊びながら、“キャバ嬢”って職に就いてた。

 お店にくる男性を接待するんだ。お酒を飲んだり、話をしたりして、気分良く過ごしてもらうのが、キャバ嬢の仕事で、そういうお店はキャバクラって言うんだ。

 それで私はそのお店で“黒木さん”って人に出会うんだ。

 そう、その人こそが、このアル様の前世の人。

 黒木さんはヤクザっていう稼業を生業としてて、まぁ……言いにくいんだけど、人を脅したり暴力振るったりしてお金を回収するのがお仕事だったわけ。

 あ、そんな目でアル様を見ないで!

 アル様にも事情があったの。小さい頃から実の母親に虐げられて、幼くしてヤクザの親分――えっと……ヤクザの世界で一番偉い人ね! ――に拾われて育つんだけど、そのせいでヤクザになるしかなかったの。

 私はね、早くに父親が病気で倒れちゃって、その世話を母親に押し付けられたんだ。お金だけは貰ってたけど、父親の世話は一切しなかったんだよね。え、酷い? あー……かもしれないね。でも仕方なかったんだ。

 それから私は父親が死ぬまで面倒を見て、最期を看取ったの。

 その後は最初は何にもやる気が起きなかった。けどお店で売られてたゲーム機を見たら気付けば買ってたんだ。

 そこからゲーム機で遊ぶためにキャバ嬢することになったの。最低な理由だよね。学校にも行かずに趣味の為のお金を稼ぐだけの為に働くとかさ。

 その時に、私は黒木さん――アル様に出会ったんだ。

 アル様と話してるうちに、私は気付けばアル様の事が大好きになってた。

 本当に好きで大好きで。

 でもある日私は同じキャバ嬢に貶められて殺されて死んじゃったんだ。バカだよね。

 その後にアル様も私の仇を取って死んじゃったんだ。どうしてそこまでしちゃたのアル様……私はアル様に生きて幸せになってほしかったのになぁ……


「泣くんじゃねーよ。その話はもう終わったことだろ」


 アル様がハンカチを取り出して私の目元を拭う。


「でもそれがあったからオレとお前は架空の世界とはいえ、こうしてまた出会えたんだろうが」


「うぇ……分かっ、てるけど、分かってるけど!」


 次から次に涙がぼとぼと溢れる。アル様のハンカチがびしょびしょになっちゃう。


「ではここからは僕が話そう。」


 エリック様が自分に注意を向ける。


 ゲームの世界が始まるのは僕の妹がこの学園に入学するとこから始まるんだ。

 なにせ主人公だからね。それにアルに頼まれてリア嬢が我が妹に“ざまぁ”されないように、僕がヴァレンテイナのフリをして学園に入学したんだ。

ざまぁとは何か?誰かに対して酷いことをした人が、後々それ以上に酷い目にあうことさ。

 あぁ、僕は男だよ。だけどちょっとした魔法で見かけを女性に見せることができるんだ。双子だから顔つきも似てて良かったよ。でなければ“ゲーム”の物語は始まらなかったからね。

 アルは何としてもリア嬢を守ろうと裏で色々動いていた。

 僕もヴァレンテイナとしてリア嬢の近くにいることで彼女を守る壁になってた。

 でも“物語”の途中で王族に取り入ろうとする不届き者が現れてね。僕はアルに相談して計画を少し変えることにした。

 そのせいでリア嬢に悪評が立ったのは申し訳なかった。


「申し訳なかったですって!? あの時のリアがどれだけ苦しんでたか知らないくせに、よくもいけしゃあしゃあと!」


「お、落ち着いてヴィッキー! コレットも腕まくりしないで!」


「しかしそのおかげで不届き者をあぶり出すことに成功したし、アルとリア嬢が晴れて恋人同士になれたんだ。本来の“ゲーム”とは違う結末になったが、ハッピーエンドを迎えられて良かったと思わないかい?」


 話し終えた私たちはヴィッキーとコレットの反応を伺った。


 ヴィッキーは険しい顔で私を見た。


「私たちが架空の世界の住人って本当?」


「うん。私もだけどね」


 コレットが両手を頬に当てて前かがみになった。


「架空ってことはぁ、今いる私とヴィッキー……ううん、この世界の人皆が本当は存在してないってことぉ?」


 私は訂正した。


「存在してるよ。詳しくは分からないけど、ゲームの世界だからっていっても、ちゃんと生きてるしいつかは死んでいくはず」


「なんでそこが、ぼんやりしてんのよ」


「私にも世界の強制力がどこまで及ぶのか、何が起こるのか、物語が終わった今は分からないんだよ」


「じゃあ突然私たちは死ぬかもしれないってこと?」


「あるかもしれないし、ないかもしれない。本当に分かんないの」


 二人はそれぞれ考えに耽る。


「突然、架空の世界の住人で、あんたとアルヴィン様が前世で別の世界の住人だなんて言われても、どう反応すればいいか分からないわ」


 ヴィッキーがこめかみを抑える。


「今までの人生が空っぽになった気分だよぉ」


 コレットが頭を振る。


「お二人の気持ち、よく分かりますよ。僕も初めて知った時は世界がひっくり返ったかのようにかんじましたよ」


「そこまでのショックじゃないわ。あなた意外と肝が小さいのね」


 隣でエリック様がピキリと固まる。


「これで秘密は全部なの? 後出しはやめてよ」


「全部だ。何も隠してねーよ」

 

 アル様が言った。

 私は力強く頷いた。しかし「あっ」と思い出した。

 

「あと一つ残ってた! エリック様の能力!」

 

 エリック様を見ると片手で頭を抑えてる。

 アル様を振り返ると溜息をついている。

 

 どうやら私、何かやらかしたようです。

 

「全部手の内明かしてどーすんだお前は。何かあったときにエリックの力が役に立つのにバカか」

 

「ば、バカって言ったほうがバカなんですー!」

 

「残念ながら私もアルに同意します。この能力まで明かす必要性はありませんからね」

 

 え、えぇー……そんなの先に言ってくださいよー……

 

「で? その能力とやらは何なの?」

 

 ヴィッキーが鋭く尋ねてくる。このヴィッキーを欺ける自信は私にはない(確信)


「人に触れて思考を覗き見る能力です」


「本当に? じゃあ……」


 そう言うとヴィッキーは立ち上がってエリック様の前に立って手を差し出した。


「私が今何考えているか言ってみて」


 エリック様は仕方なくヴィッキーの手を握った。


「あれだけの話を聞いた割にはほぼ混乱はしていませんね。私の妹の居所ですか? 残念ながら分かりません。ただ死んでいないのは確かです。双子だからでしょうか? 大きな怪我をしたり病気に罹ったりすると感知できるんですよ」


 ヴィッキーはエリック様の手から自分の手を引き抜いた。


「信じるわ。あなたの能力」


 ヴィッキーは席に戻った。


「ところでリア。なんで黙ってたの」


「……二人に信じてもらえなくて、ひとりぼっちに戻るのが怖かったから」


「あんたねぇ! 馬鹿げたこと言ってんじゃないわよ! こんな話し聞かされたくらいで、あんたに見切りをつけるわけないでしょうが!」


 ヴィッキーが怒りの形相で言う。


「私は寂しいかなぁ。私たちを信じてくれてなかったのかなぁ、ってぇ」


 珍しくコレットが怒っている。


「そもそも架空の世界がなによ。私たちはここに確かに存在してて、生きてるの。世界の強制力だかなんだか知らないけど、そんなもの知ったこっちゃないわ! あんただって結局死なずに住んだじゃないの! もっとこの世界と自分を信じなさいよ!」


 肩で息をしながらヴィッキーが叫んだ。


 ――そっか。私は私を信じていいんだ。

 もっと自信をもっていいんだ。


 私は拳を握りしめてアル様に向き直った。


「アル様、ワガママ言ってごめんなさい! でも私は不安だった。ヴィッキーたちに信じてもらえるか不安だったし、政務や勉学に忙殺されて、私の存在を忘れられそうで不安だった! 怖かった! でも――」


 一層強く拳を握りしめて言った。


「私は私を信じる! みんなを信じる! アル様を信じる! 何があっても!!」


 ようやく自分と向き合えた。ずっと私は怖がってた臆病ものだった。何かを無くすことを極端に恐れてた。

 でも無くしたらまた取り返せばいい。取り返すことがどうしてもできないものは、きっと私にはいらないもの。

 私はバカみたいに、ひたすらみんなを信じれば良かっただけだったんだ!


「今更気付いたのかよ、ったく遅せぇな、お前は。まぁ、お前を不安にさせたオレも悪かったけどな」


 その時、胸ポケットが強烈に輝き出す。


「なに!?」


「ニューッ!」


 スクイーズが胸ポケットから飛び出して部屋の中をくるくる飛びまわっている。

 元の元気なスクイーズに戻ってくれた!


「ニュッ!」


 アル様が飛んでるスクイーズを鷲掴みにする。


「全くいつもオレのリアの胸ポケットに収まりやがって図々しい野郎だ」


 ムニューッとスクイーズの体を引っ張るアル様。スクイーズは抗議の声を上げてる。


「ニュッ! ニューッ!」


 私はアル様の手からスクイーズを取り返した。


「もう、アル様ってば乱暴なんだから、ねー? スクイーズ!」


「ニュッ!」


「スクイーズもありがとう。私を信じてくれてこの世界に居続けてくれて」


「ニューッ!」


 スポンッとスクイーズがまた胸ポケットに収まる。

 スクイーズが元気になれたのは私が自分と向き合えたおかけだ。みんなのおかげ!


「みんな、スクイーズ、ありがとう」


 私は満面の笑顔で言った。


 

 

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