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第三者  作者: 楓葉
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優しい集落

過去。今、未来?

 この世には二つの生き方がある、一つは新たなものを生産するもの、そしてそれを消費し、失う者。でも僕が選んだ生き方はこの二つのどちらでもない。僕は、その一瞬一瞬を記録したい。僕にとっての大切なものはもうこれしかない。それは首にずっとぶら下がっているカメラだ。古いが、デジカメではある。この破滅に近づく世界で、一瞬を書き留められる魔法のようなものさ。

 「お前は[俺]でも、[お前]でもない」

 この言葉を刻んだあるタグを首にかけると、僕はいつもの旅に出かける。

 今日は何月の何日か、もうとうに忘れた。季節は春だろう、そんな気がするくらいだ。

 大きな戦争の後、世界はゲームのようにリセットされた。孤児院の先生にそう教われた。でも、僕にとっては生まれてから、世界はすでにこんな感じになっている。そんな感じだ。


 とは言え、僕は今何歳だろう…20歳にでもなったのかな。何か変わったかと言われると特にない。昔の人はこの歳で大きく変わって、恋愛したり、仕事をしたり、研究したりする年らしい。でもあいにく僕にはそれをする理由がわからない。よくわからないから興味がある。まあそんなことより早く出発しよう、今日の道は長い。目指すは少し北にある集落。

 第4次世界大戦後、地上にいるのは基本的に僕みたいな行き場のない難民。それもそのはず、政府とやらのお偉いさんたちは核戦争前提の気か、早々宇宙に逃げていっだ。政府はイメージを維持するため、定期的に物資を投下したり、フィルターをくれたりしているが、誰もがその意味を理解している。善人なんて本当に存在するだろうか。まあそれを知るのも僕の仕事だ。


 目に見えた小さい異色の塊、今日の目的地だ。とりあえず資料をまとめて、センターに向かおう。

 といっても警備が緩い。まあみんなが気を緩く過ごせるのは、このご時世ではなかなかないことだ。それはいいことだろうが、万が一があればここの人たちの命が危ない。少しは言った方がいいだろうか。

 とりあえず情報と引き換えに報酬をもらった。この仕事もだいぶ慣れたな…いえて二、三年と言ったところか。僕の仕事はメッセージャー、近くの状況やそして出来事をいろんな場所に知らせること。僕の情報で危険を察知し、救える命もあるのだろう。まあ苦労もしてるし、僕も生きなきゃダメだから、報酬前提で動いてはいる。まあこの時代ただで人好しできるほど余裕はないのだ。

 「おい君!これも持っててくれ」

 「…どこかへの届けものですか?」

 「いや、最近ここら辺で小麦が結構取れてな。自慢のパンだから、道中にでも食べてくれ!」

 「…」

 優しさの意味を僕は理解できない。自分にとってなんの得にもならないのに、なぜ一部の人はこうも親切なんだろうか。いい筋肉をしたおっさんだから、逆らえるわけもないが、何か裏があるようにも見えないからいいっか。

 「ありがとう…ございます、いただきます」

 「あぁ!情報をありがとうな」

 

 (ハム)

 「…うまい」

 パンか、どこか懐かしいは味だ。というのも、ずっと外にいる僕みたい人間は、ほぼ原始的なものしか食べない。魚、小動物、野菜や果物、調理は簡単に焼いたりするくらいだ。こうもしっかり加工したものは効率が悪いし、腹を満たすだけなら…まあでも少しは保存できるようになる。でも…うまい。

 100人前後しかいないこの集落は、少しだが、本で見るような「街並み」を築いてた。あまりこの時代では見られないような風景だ。

 「悪くはないな…」

 (カシャ)

 僕は思わず写真を撮った。何か意味があるわけじゃないけど。

 「おい、勝手に撮るな」

 「あ、すみません」

 「はあ…別にいいけど、集中だけは返してほしいぜ」

 消せとか言われそうな雰囲気だったが、この集落の優しい割合が高いからだろうか。

 「それって、上の機体ですか?」

 「あぁ、前いた集落は開発まで行ったが、今ではそれどころじゃないからな」

 上から定期的に降ってくる機械。『市民の安全保護』とか言って、少し発展している集落をかき消すために作られた殺戮マシーン。少し落ち着いた集落はだいたいそれに対抗するために防衛用スーツを開発する。でもそれは僕の知ってる限りでも指で数えられるほど。やはり上には逆らえないのか。

 「ここは割と最近できた感じですか?」

 「そうだな、すこし前はこの辺りに幾つかの集落があったが、ここにその生き残りが集まったって感じだ」

 生存者の集まり、死を直面し、命の大切さを知る者の集まり。優しさにはこんな残酷な理由があったのか…知らない方が良かったのかもな

 「この集落には防衛力がほぼない、俺の技術力で少しでも強くしないとまずいんだよ」

 少しの沈黙を挟んで、目の前の青年は少しため息まじりで言った。この場所の次なんて考えられないほど、ここの人は精一杯だろう。

 「この機体はパワーが出るが、そのせいでなかなか細かく動けないのが問題ですよね」

 「…だいぶ詳しいな。出力が高い分だけ慣性も起きる。一撃一撃を慎重に動かす必要があるな」

 警備と言った難民の処分。この大きさの巨体に、一般人に対抗できる手段などない。圧倒的な破壊力で全てを蹴散らすのだ。

 「...あのさ、少し手伝ってくれないか?ここで機体に詳しい人俺しかいないから、手伝ってくれると助かる」

 僕はパンを頬張りながら少し考えると青年は少し焦ったように続く。

 「ただとは言わない!報酬ちゃんと出すから!少し接続の方を手伝ってもらいたい!」

 「お、おう…わかりました…」

 作業は単純、ハンダとか部品の組み込みだ。思わず押し切られてしまった…こういうグイグイくる人は苦手だ。報酬も出ることだし悪い話ではないが…少しめんどくさい。

 「そこの部品くっけたら終わりだ、頼んだぞ」

 機体の内部から出てくると、夕陽が少し眩しかった。もうこんな時間…夜の移動寒いんだよな。

 「…今夜は泊まってくれ、俺が言い出したことだし」

 僕の表情から察したのだろうか、留まるように言われた。野営する手間が省けるし、損な話ではない。

 「し、心配しなくていい、飯もしっかり出すぜ」

 「お、おう…お言葉に甘えて」

 

 青年のテントは周りと雰囲気が違う。奥の方はしっかりした壁で、パンチ板の上には道具がたくさん掛けてある。

 「ここまで揃えてるところ、初めて見ました」

 「そうか?前の拠点はもっとあったぜ」

 青年は少し不慣れな動きで料理しながらそう言った。道具はどれも錆はなく、しっかり磨かれているに違いない。そうこう考えてたら沈黙がしばらく続いた。あまり人と喋り慣れていない自分でも気まずさを覚えるには十分の時間だった。

 「…」

 「…」

 「…そういや、あんたの名前聞いてなかったな。俺はシュン。まあ技術バカさ」

 「な…まえ」

 僕には名前はあった。その事実だけが記憶にある。でもこの旅し続ける自分には名前を名乗る必要はなかった。覚えてもらいたい人がいないからなのかもしれない。

 (ぱた)

 「いやだったらいいんだ、別に強要するつもりはないからな」

 「…名前、撮る…トオル」

 「トオルか、今じゃ珍しい名前だな」

 唯一自分のアイデンティティ、それがこの手に持ったカメラ。いつ、どのようなにして手に入れたかはもう覚えてない。でも、今自分の持ち物では、情報のファイルの次に大事なもの。

 「すまないな、これくらいのものしか出せなくて」

 「これは…?」

 「カレーだ」

 「カレー…カレーライス…か?」

 「ライスではなくパンだな」

 「カレーライスというものではないのですか?」

 青年、シュンは少し可哀想なものを見る目で続けた。

 「カレーはこの液体、ライスは米だ。ここでは米より小麦、というかほぼ小麦しか取れない。すまんがパンで我慢してくれ」

 「いや、こちらこそわざわざありがとう…ございます」

 「まあ、冷めたら不味いから、食べようぜ」

 「はい、いただきます」

 手を合わせて頭を下げると、シュンは少し珍しいそうに見てきた。

 「お前、このご時世で礼儀正しいんだな」

 「そう、ですかね」

 自分ではあまり疑問にも思わないことで、無意識的にやっていた。多分小さい頃に叩き込まれたんだろう。〔先生伏線か?〕

 そんなこんなで、会話を交わしながら食事を済ませた。誰かと一緒に食事するのは慣れないが、悪い気はしなかった。一人の方がいい、とは基本的に思っているが、誰かと一緒に旅してみたいとも、ずっと少しは思っている。したことがないからだろうか。いつかしてみたい、できたらいいなと思っている。

 「そういえば報酬の方だが、この部屋で欲しいものを一つ持ってていいぞ」

 シュンの突然の言葉に少し驚く。自分で報酬を選んで良いとのことだが、これもまた初めてだ。この青年に幾つ初めて持ってかれるんだろう。別にそれはどうでもいいが、報酬だし、何ももらわないのも悪い気がするから、部屋を見渡した。

 「まあ工具ばっかで、だいたいかき集めたガラクタですまないな」

 シュンがどういう人かを物語っているかのように、テントが機械に埋め尽くされている。どれも実用的で、一つの整備班に必要なものがほぼ全て揃えてある。(過去の戦友の一人が所属していた整備班の伏線)

 ずっと旅をし続けている僕にとって必要なものなどない。必要なものはもう持っているからだ。

 「トオルは…いつも一人で旅してんのか?」

 「そうですね」

 「…寂しくならないのか?」

 「…なる時も…はい」

 シュンは顎に指を添え、何かを考え始めた。自分が変わっているんだろうか。何かを思い当たって、シュンは引き出しの中を掻き分け、白い糸に巻かれた機械を渡してきた。

 「…これは?」

 「ウォークマン、音楽プレイヤーだ」

 「おんがく、プレイヤー…」

 「おんがく」をプレイするもの。ゲームプレイヤー、つまりゲーム機は見たことがある。子供達がすごく楽しそうにプレイしていた。ならこの「おんがく」も楽しいものだろうか。

 「おんがくは、どんなものですか?」

 「…」

 またあの目だ。僕はきっと変だろう。何か文句言われても仕方ないかもしれない。

 シュンは僕の手から機械を取り、糸を解いてからボタンをいくつか操作し、また渡してきた。

 「こいつを耳に…軽く押し入れて、この真ん中のボタンを押してみろ」

 「あ、ありがとうございます」

 指示通りにするかと音が鳴り始めた。でもただの音ではない。繋がった、なんだか、いい音な気がする。言葉を発している。それも僕たちのとは違う言語のようだ。でも、わるくはない、気がする。

 「お、おお」

 「気に入ったようだな。でもあいにく俺の手持ちには日本語の曲がないんだ」(シュンの知り合いの伏線?)

 「これが英語の、きょく、ですか?」

 「…まさか、本当に音楽をなにも知らないのか?」

 「あ、あぁ…」

 「いやいいんだ!別に責めているつもりはない!今のご時世だし、知らないことがあるのはおかしなことではない!簡単に言えば楽器という音を奏でる…いや鳴らせるものを鳴らして、今聴いているもののように人の声を加えるものとないものがある」

 シュンは必死に「おんがく」というものを説明してきた。どこか早口で、良さをできるだけ伝えようという気持ちを感じる。

 「音楽は音を楽しむと書いて音楽。本当にそうなのかは知らんけどな」

 「音楽…いい音なのですね」

 「お、おう。気に入ってくれたらよかった」

 会話が終わり、もう一度音楽に集中する。女性だろうか、その声は切なく、なんと言えばいいのだろう…心を惹きつけるような声だ。悪くない、うん、悪くない。でも、こんなもの見たことがない、もらってしまっていいんだろうか。

 「これ、結構なものですよね。本当にもらっていいのですか?」

 「俺はよく音楽を聴くわけじゃないし、ちょっと古いけどもう一台持ってるから、そいつは報酬としてもらってくれ」

 「ありがとうございます…報酬として受け取っていただきます」

 「そこまで畏まらないでくれ。それに…機械がわかる人と久しぶりに話せて、よかったから…」

 シュンは自分の本音を口にしたくない人なのだろう。しかし、考えてみれば、自分も人のことを言えた身ではないな。

 「…こちらこそ」


 日差しが瞼を通り越して、朝になったことを告げてくる。

 機械の音がする。それも聞こえるたびに床が揺れているのを感じる。寝起きは悪くない。いつもは野営だからだろう、持ち運べるテントがあればなと、少しは思ってしまう。

 「お、起きたか。朝飯はそこにおいてあるから、食べてくれ」

 朝早くから作業してやがる。でもシュンの立場から考えてみればわからなくもない。

 用意してくれたのはパンとジャム、まあこの集落はとにかくパンだな。資料に書いておこう。食事の後も少しシュンの手伝いをして、荷物をまとめ、そしてもらったウォークマンをポッケに入れる。これで旅立つことをシュンに伝えた。

 「まあ、お互い生きてまた会おうぜ」

 シュンが僕の背中に言葉を投げかけてきた。その言葉がフックのように、僕の歩みを引き止めた。「また会おう」、それはまた会える可能性があることを意味する言葉。でもこのご時世で2度と出会うことはほとんどない、少なくとも今日までは。

 「シュンは…強いのですね」

 「…きゅ、急にどうしたんだ?」

 「いや、うん、また会おう…」

 「…そうしてくれ。そういやリーダーにお前がまだいるって言ったら、ここを離れる前に寄って欲しいんだってよ」

 リーダーか、センターにいるあのおっさんかな。表情に出ていただろうか、シュンは「ガタイのでけえおっさんだよ」と付け加えてくれた。


 「おお!君の情報を元に、近頃近所の集落にあいさつしようとでも思うんだ。君が目指す南の集落にも行く予定だから、先にこれを持ってってくれ!あれだ、引っ越す時近所にあげる菓子みたいなもんさ」

 おっさんは、テーブルの袋を指さした。手頃な大きさのそれには、覚えのある独特の香りが滲んでいた。

 「天然酵母だ。こいつがあればこの集落で食べたであろうあのパンが作れるんだぜ!でも決して軽いもんではねぇからよ、邪魔になるんだったらいいが」

 僕はカバンを下ろし、中を確認するが、使い古した寝袋、シートと水筒、あとは記録に必要な引書きするものだけだ。あと身につけてる持ち物といえばカメラ。いやあとシュンからもらったウォークマンもあるか。

 「持てそうなので、持って行きますよ」

 「おう!それはありがたい!ただとは言わねぇ、お前さんなんか必要なものあるか?」

 この集落の人やはり僕にとても優しくしてくれる。しかもスタイルがどこか似ている。それは悪いことではない。僕は少し考え、周囲に視線を巡らせた。あ、そうだ。

 「こういうテントの防水シート、一人が雨凌げるくらいでいいのですがありますか?」

 「お前さんは旅に慣れているもんだからてっきり持ってると思ってたよ!ちょっと待ってな」

 おっさんは奥の方に入っていき、しばらくすると筒状の袋を持ってきた。

 「こいつをやろう!防水シートじゃなくてタープってやつだ!昔、家族の趣味でよく使ってたが、このサイズじゃ荷物置けんから、俺にはもう不要なもんだ!持って行くといい!」

 モーは少し寂しそうにその筒状の袋を見下ろす。

 「家族のもの…そんなのもらっていいんですか?」

 「使わなくなったんだから、誰かが使ってくれる方がありがたいんだ!」

 「そう、ですか…」

 それでも、もらうのが悪いと思ってしまう。だって、このおっさんと親しくもないのに、なぜここまで。

 「どうしたんだ?色が気に入らないのか?」

 確かに色はピンクという少し派手な色だが、そこは別に問題ではない。

 「いえ、ただの通りすがりの自分に、なんか…悪い気がして」

 「そうか…俺はモー!この集落を仕切ってるもんさ!お前さんは?」

 「え、あ…トオル、です」

 「トオル、旅人のタオルか!よし!これでただの通りすがりじゃねぇな!」

 「え…じゃ僕は、」

 「仲間だよ仲間!なんかあったら頼ってくるといいぞ!」

 仲間、それってこんなに簡単になれるものなのだろうか。でもおっさんの表情を見ると、どこかそんなことを考えている自分がバカに思えれくる気持ちになる。なぜだろうか。

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