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東京ケイオス  作者: 不確定 ワオン
死否谷《シブヤ》

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山場

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「来るぞ来るぞ……」


 北町小校門前。


 学校敷地内でゴブリン軍と睨み合っていた高橋が、引きつった笑みを浮かべながらブツブツと呟く。


 亜人商会からの来訪者、ネブリャの定めた三日目の朝を迎え、今北町小を守護するメンバーの緊張は最高潮に張り詰められている。


「いいなテメェら!! 打ち合わせ通りだ! 俺ら高橋組が最前衛を担当する! 他のパーティーは割り振られた持ち場を重点的に防衛!! 校舎には絶対に取り付かせるな!!」


『うーすっ!!』


「入江! 絶対に俺の隣から離れるな! お互いの背中を守りながら死角を潰す事だけを考えろ!」


「了解っす!!」


「梶!! 分かってるよな!?」


「おうよ! 卯那(うな)ちゃんには指一本触れさせねぇ!! 任せろよ!!」


「卯那は──っ!!」


「──ゴブリンを出来るだけ纏めて魔法で殲滅!! 押し切られるって思ったらすぐに後退指示!! 周りのパーティーの状況を逐一確認して、可能な限りフォロー&誘導!!」


「──さすがだよお前はっ!!」


 高橋組の面々の雄々しい声に影響されてか、残りのパーティーのメンバーらも自分の役割の最終確認を取りながら士気を鼓舞しあっている。


「屋上から見る限り、リーダー達が戦っているっぽい爆発や砂煙は見えてた! ちょっと間に合わなかったみたいだが、それでも俺らの常磐大河は──解放者(リベレイター)はきっと来る!! 俺らはそれまで、絶対にここと子供達を守り抜くぞ!!」


『うーっす!!』


「よし!! 各自持ち場に移動!! 以降はパーティーリーダーの判断に任せる!! 愛してるぜお前ら!」


「俺も愛しちゃってるよ敦さん!」


「ラブだよねこれは!!」


「いやー!! 悪い俺好きな子が!!」


「フるなフるな!!」


「生まれて初めて告白されちった!! もしかして俺モテ期来てる!?」


「最初で最後だよきっと!!」


「酷くないっ!?」


「いやん敦さんだいたーんっ!!」


 張り詰めた空気から変なテンションに振り切ってしまっている留守組の面々が、一様におどけて笑い合う。


 しかしその目は真剣そのもの。


 これから行われる、間違いなく激戦となるであろう戦いに向けて、誰しもが覚悟と決意を込めた視線をゴブリン軍に向けていた。


「ははっ、頼もしい奴ら──っ!?」


 散開する仲間達の背中を見送り、ゴブリン軍へと振り向いた高橋の表情が一瞬にして強張る。


 見つめるその先は、校門の向こう。


 上りと下りで一車線づつの、信号の無い横断歩道の白線の際。


 そこに亜人商会、西都商品部チーフマネージャー。

 小柄な体躯に分厚いトレンチコート、目深に被ったハットが特徴的な、明らかに他のゴブリンと毛色の違う──どこか品位や知性を感じさせる個体。


 ネブリャの姿があった。


「申しつけた刻限の三日目を迎えました!! ご返答をお聞かせ願いたい!!」


 成人男性とは思えない甲高く、耳に痛い声を張り上げ、ネブリャは高橋の返事を待つ。


 距離にして40メートル弱。

 背後のゴブリン──雑兵共の五月蠅いわめき声が邪魔して、ネブリャの声が聞き取りづらい。


 北町小の周囲の小道にギチギチに詰まっているゴブリン軍の数は、校舎の屋上から見渡しただけでも五百──いや、下手をすれば千は居る。


 異変後に隆起した地形のせいで、小高い丘や山が邪魔をする。

 それが無ければ、もっと正確に群れの数を把握できただろう。


 大河らのメッセージを読む限り、その群れは吉祥寺駅に届くかどうかの場所まで達しているらしい。


 つまり、ここから見えない範囲を考えれば一万弱は平気で居る。


 中野を出る際に新規メンバーを入れたケイオスの総数は100にも満たない。


 数の差で言えば絶望的。


 本来なら三日も待たず降伏を宣言するべきだろう。


 しかし亜人商会ネブリャの要求は、ケイオスにとって最も大事で守るべき子供達。

 そして宿ったばかりの希望──郁の腹の中で健やかに眠る新しい命。


 渡す訳にはいかない。


 命を賭けて守り通さねばならない。


 だから高橋は、眼前に構えるゴブリン軍の圧力に臆せず、大きく息を吸い込み──そして応えた。


「子供達は誰一人として渡さない!! それはクランリーダー常磐大河と、ケイオス全員の総意だ!! 交渉の余地は全くない!! 子供らが欲しければ、俺たちを皆殺しにしてからにするんだな!!」


「ただじゃ殺されねぇぞ!!」


「舐めんじゃねぇ!!」


「やってやるんだから!!」


 高橋の力強い宣言に続いて、後ろに控えていた高橋組のパーティーメンバーらが気勢を上げる。


 握られた各々の咎人の剣が、興奮か恐怖か。どちらにせよ小刻みに震えていた。


 おそらく、武者震い。


 圧倒的な劣勢を前にして、しかしその意気は決して負けては居なかった。


「──残念です。きっと(わたくし)どもは、良いビジネスパートナーとなり得た筈なのに……」


 ハットの鍔を右手の指で挟み、目線を下げてネブリャは俯く。

 そしてゆっくりと振り向き、高橋に──北町小に背を向けた。


「行きなさい。子供と妊婦──妊娠できそうな若い女以外は皆殺しにしなさい」


「キェエエエエエエエエエエッ!!」


 ぼそりと呟いたネブリャの言葉に、その背後に隠れる様に控えていた一匹だけ装いの違うヴァイオレント・ゴブリン──VGコマンダーが、奇声と共に手に持つ長い棒を頭上で振り回した。

 その先端には真っ赤な色の葉が生い茂った木の枝が括り付けられている。


「ギャアアアアアアッ!!」


「グエッグエッ!!」


「ゴァアアアアアアアアッ!!」


 コマンダーの棒振りを見たゴブリンやスレイブ・オーガ達が、鬨の声を張り上げた。

 まるで水面に波が広がる様に、その耳に汚い雑な声が、周囲のゴブリン軍へと広がっていく。


「──っ!!」


「来たっ!!」


「やってやる! やってやるんだ!!」


「見ててねみんな……お姉ちゃん、頑張るからね!!」


 思い思いの形に剣を構え、留守組は顔を引きつらせた。


「リーダー、海斗、廉造……信じてるぞ……信じてるからなっ!! 高橋組!! 行くぞ!!」


「応ともさ!!」


「はい!!」


「やってやるぁああっ!!」


 留守組班長、そしてパーティー『高橋組』のパーティーリーダー、高橋敦の声高で雄々しい指示の許、入江と梶、そして卯那が気合いの籠もった返答を叫ぶ。


 そして高橋を先頭にそれぞれの咎人の剣を握り、最も苛烈な戦場──最前線へと駆けていく。


「うぉおおおおおおおおおおっ!!」


「はぁああああああああああっ!!」


 一番槍は勿論、高橋。

 それに続いて、相棒である入江。


 卯那を守るようにハードブレイカーと盾を構える梶に続いて、卯那。


 これより極めて苛烈な、防衛戦が始まる。


 中野のクラン・ロワイヤル、そのセカンドステージ。


 かつて解放同盟を率いて経験した防衛戦闘と全く違う、ケイオスと言うクラン単体での、分の悪すぎる戦いが。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「──ひっ!」


 北町小の三階。

 

 今は簡易的なバリケードで封鎖されている、食堂として利用している家庭科実習室。


 そこにケイオス生活班と、そして子供達が全員集まっていた。


 外から聞こえてきた高橋らの声に驚き肩をすくめたのは、瞳の胸に抱かれている小さな女の子だ。


「ひとみおねえちゃっ、こ、こわい」


「大丈夫。大丈夫だよ。きっとみんなが、リーダーがなんとかしてくれる」


 最初の夜からもう何度も何度も言い伝え続けた言葉を告げながら、瞳は女の子の頭を優しく撫で、その身体をしっかりと抱きしめる。


 他の生活班のメンバーらも、それぞれ怯え縋り付いてくる子供達を同じように宥め、抱きしめている。


「そう、きっと大丈夫。大丈夫だよ。そうだよね香奈……私たち、あれだけ辛い目にあって、それでも今日まで頑張って生きてきたんだもの……こんな酷い結末なんて、あるわけない」


 子供達に伝える言葉は、そのまま自分の不安を誤魔化すための言葉だ。


 瞳はゆっくり目を閉じ、きっと今この北町小に戻る為に必死に戦っているであろう親友の香奈の姿を幻視しながら、うわごとの様に呟く。


 怖くない訳がない。


 ここに守るべき子供達の姿が無ければ、みっともなく泣いて狼狽えていたかも知れない。


 だけど瞳は、そして他の大人達は信じている。


 ケイオスという、もう家族同然の信頼を寄せている仲間達が負ける筈が無いと。

 高橋達が、ここに敵を到達させるわけが無いと。


 そしてあのリーダーが、常磐大河が。


 自分たちが誇る【解放者(リベレイター)】が、きっとこの状況をなんとかしてくれると。


 戦勝を信じて待つ事も、また戦いであった。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「……子供たちは、わたさない」


 いくみは一人、家庭科実習室の外の廊下で窓から外を見ながら呟く。


主人様(あるじさま)は、こどもたちを守る為のオーブ(おかね)をいっぱい、いくみに預けてくれた……」


 以前から少しずつ蓄えていた、所謂ケイオスの防衛予算。

 いざという場面を想定して大河が提唱し、愛蘭の管理の許で皆で頑張って貯蓄したその予算を、今ここで使い切る時が来た。


 この三日間で外壁や窓ガラスの強化に用いたその額は、50万オーブ。


 そしてもう半分の50万オーブを、今から展開する一階部分のダンジョン化に全て注ぎ込む。


 100万と言う数字は、区切りが良いと言う意味合いでしか無く、平時なら万全とすら思っていたその額面が、ここに来て不足していた事を痛感する。


 アジトの拡張、リフォームの予定はまだ遠い未来の話であったし、もしかしたら居るかもしれない敵対クランの襲撃に備えた額としては誰しもが充分だとばかり思っていた。


 今のケイオスのクラン戦力で考えれば、100万オーブは皆がフル稼働さえすれば一ヶ月程度で集める事が出来る。

 

 中野からここまでの旅費──食費や合間合間の息抜きで浪費する額を考えて少しずつ節約し貯めた100万だが、その気になってさえいればこの三倍の額は貯蓄可能だった筈だ。


 大河と愛蘭は作戦開始前にそれを大いに悔やみ、そしていくみに宛てて『全部使い切れ』と言う指示を飛ばした。


 それにより、100万オーブは本来管理権限所持者──つまり大河にしか割り振れなかった物が、今はいくみにその使用権限が譲渡されている。


 だからいくみも躊躇しない。

 一度使えば返金できないシステムなので、使わないに越した事は無いと襲撃開始ギリギリまで粘っていたが、もう待つ必要は無いだろう。


 アジトのレベルアップと言う使用意図から考えれば、残っている50万はかなり少ない。


「まずは、いくみのレベルを……あげる」


 拡げた両手の先に、いくつもの透明な板──透過コンソールモニターが出現する。


「ひとつ、ふたつ……」


 小さな声でカウントを取るいくみの声に合わせて、透過モニター上の一番大きな数字がピコン、ピコンと音を立てて変化した。


「これでいくみは、管理核レベルよん……」


 まずはこの北町小全体を管理する生体管理核としてのいくみのレベルを、30万使用し2つ上げる。


 これでいくみは生体管理核としてレベル4──他の建築ユニットと比較して、例えるなら中規模施設並のレベルまで引き上げられた。

 

 これにより北町小は三階建てから七階建てと言う、小学校と言うにはあまりにも高層すぎる建築ユニットへとその姿を変える。


 音も無く、そして震動すら無く、いくみの身体──吉祥寺北町小が変化した。

 下の階に誰も居ないのは確認済みなので、無駄な混乱は起きない。


 更には今まで一階部分しか変容させられなかった防衛用ダンジョンが、その適用範囲が三階部分まで拡張され、最奥──四階へと続く階段を個室化でき、そこにボスモンスターを配置できるようになった。


「前の学校に居た時と、おなじ事ができる……」


 東中野第二小時代には出来ていたそれらの機能は、ここ北町小へとアジャストした際に低下し使えなくっていた物だ。


 生体管理核を別の施設に移動する際のペナルティである。


 移動先がいくみに適していた『学校』ユニットだったのでこの程度で済んでいたペナルティだが、これが他の施設──例えば『病院』ユニットであったり、『商業施設』ユニットに拠点機能を移動させていれば、生体管理核レベルは最低のレベル1にまで低下していたし、またその権能も大幅にスペックダウンしていただろう。


 次に防衛ダンジョン用の細かな項目──『ダンジョン規模レベル』・『罠・ギミックレベル』・『出現モンスターレベル』・『ダンジョンエネルギー回復レベル』の項目を、それぞれ一つずつ上げた。


 どれも現在のレベルはレベル3。


 それぞれ四万オーブ使用し、残り四万オーブ。

 レベルを上げる際に要求されるオーブ額は、レベルが高くなる度にその額が倍を超える勢いで増える。四万ではどれかの項目をもう一つレベルアップさせるには圧倒的に足りない額だ。

 

 だから残った四万オーブを全て窓ガラスや外壁の強化に均等に割り振った。


「三階層のダンジョンの大きさは、昨日までの三倍くらい……罠とかギミックはお粗末だけど、無いよりマシってくらいまでは強くなったはず……出てくるモンスターのレベル平均は10……最大はボスモンスターの『音楽家の絵画』で15……学校系統のモンスターはどれも癖が無くて単純で倒しやすいからあんまり強くないけど、その分いっぱい配置できる……でもゴブリンたちに比べたら全然少ない……ダンジョンエネルギーの容量はさっきまでの殆ど倍……モンスターのリポップ頻度は、期待してたより上がってないか……」


 自分の身体の変化を透過モニター上の数字で確認しながら、いくみはブツブツと呟く。


「あ、でも……入ってくる侵入者の数を区切ってスタート地点をバラバラにできるようになってる……これ便利かも……」


 ふと、視線を窓の外──校門前へと向ける。


 高橋組の面々が鬼気迫る声や表情で、ゴブリン軍へと立ち向かっている。


「がんばれみんな……がんばれ……」


 ギュッと手を胸の前に組んで、いくみはまっすぐその姿を見つめ、祈る。


 立った今上げた自分のレベルも、そしてダンジョンレベルも、変化自体は大きいが能力的な強化という観点で言えば僅かな上昇値でしかない。


 今いくみが生成できる防衛ダンジョンは、ダンジョンと言うにはあまりにもシンプルかつスタンダードな物で、最終防衛線にはなり得ない。


 つまり、この北町小を守る最後の砦は、今戦闘を始めたばかりの高橋ら留守組に外ならなかった。


主人様(あるじさま)……どうかみんなを……子供達を守って……」


 生体管理核としての自分を所持する、敬愛する主。


 優しく、強く、子供達の信頼も厚いそんな大河を、いくみは心から慕っている。


 だから信じている。


 きっとこの辛い状況も、主人様(あるじさま)ならなんとかしてくれると、信じ願っている。


「今いくみができるのはここまで……」


 すでにレベルアップ恩恵で、ダンジョン内に配置されているモンスターユニットや、モンスターを産み出すダンジョンエネルギーも最大値である。


 モンスターが倒された時や罠が壊された時に、ダンジョンエネルギーを使用して最効率でそれらをリポッップさせるのがいくみの仕事。


 なので現状、これ以上備える事ができない。


 歯がゆく、もどかしい待機時間が始まる


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

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