日記①
8月7日
頭が割れるように痛む。
昨日の夕方、課題を済ませに図書館に行った帰りからだ。
朝から病院に行ってCTとか取って貰ったけど、特に異常は見当たらなかった。
涙が出るくらい痛いのに、頭痛薬も全然効果が無くてどうしようも無い。
今日やろうと思ったこと、いっぱいあったのに。
夏休みももうすぐ終わるのに、ほんとツイてないなぁ。
そういえば、昨日の帰りに見た大きな流星。
あんなに眩しく光っていたのに、SNSでもニュースでも出てこない。
なんだったんだろ、アレ。
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8月8日
頭痛はまだ少しするけれど、昨日よりは大分マシになってきた。
今日の朝は最悪の目覚めだった。
悪夢を見たせいだ。
こんなにはっきりと夢を覚えているのは初めての事で、なんだかちょっと怖い。
夢の内容は、この東京が僕の書いたあのノートの内容みたいな世界に変わって、人がどんどん死んでいく夢だった。
死に方とか、街が壊れていく様とか、そういうのがとってもリアルで、一日中頭にこびりついて消えてくれなかった。
それにめちゃくちゃ長い夢だった。
夏の終わりに東京にいっぱいモンスターが出て、みんなが死んでいって、それで生き残った最後の一人が死ぬまでの半年間をずっと見せられて……本当に、半年を過ごしたかのような、そんな夢。
お陰で起きたとき、今日の日付が思い出せないくらい混乱してしまった。
正直、今でもちょっと。
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8月6日
おかしい。
また同じ夢を見た。
夏の終わりに東京に大地震が起きて、都内にたくさんのモンスターが湧いて、人が沢山死ぬ夢。
だけど昨日とは少し変化があって、モンスターの強さが、少し弱くなってる?
それで生き残った人達が全滅するまでの時間が、大きく変わっていた。
昨日は半年、今日は八ヶ月。
僕は東京の空から、みんなが必死に戦い、必死に生きていこうとする様子を俯瞰で眺めている。
どんなに叫んでも、どんなに泣いても、僕の声は誰にも届かない。
生き残った最後の子供が、白烏に貪り食われるあの場面が、目に焼き付いて離れてくれない。
そしてまた、日付の感覚が曖昧になっている。
八ヶ月と言う長い期間を夢の中で過ごしたせいだ。
頭がおかしくなりそうだ。
怖い。眠るのが、怖い。
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8月10日
何かが起ころうとしている。
もうこれは確信に近い。
今日も同じ夢を見た。
いや、細部が違うから全く一緒とは言えないかも知れないけれど、この東京が僕の考えたゲームと同じ世界になってしまって、次々と人が死んでいくという点では共通している。
一番最初は半年、二回目は八ヶ月。そして今回は一年。
夢を見る度にモンスターの強さやダンジョンのギミックの難易度が変わっていたり、咎人の剣周りのシステムに手が加えられていて、生き残った人たちがより生き延びやすく
違う、たぶん戦いやすくなっているんだと思う。
たくさんの死を見せられた。
たくさんの悲鳴を聞いた。
たくさんの悲劇を見た。
もうやめてくれ。
頭がどうにかなりそうだ。
目覚めてから日付を確認し、たった一日しか変わっていない事が恐ろしすぎて叫んでしまった。
狂う。狂ってしまう。
こんなの、耐えられるわけがない。
助けて。
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8月11日
眠ってしまえば夢を見るから、できるだけ夜更かしをしようと頑張っていたのに、お母さんが言うには、会話の途中でブツンと意識が切れるように僕は眠ってしまったらしい。
つまり、眠らされているんだ。
ようやく分かってきた。
今回の夢もまた、同じ夢。
しかし前回は一年しか生き延びれなかったプレイヤー達が、整えられたクランシステムやパーティシステムのお陰で、今回は三年も生き延びられた。
夢の中の三年間、僕は必死に考えた。
この変化はなんだ?
僕の妄想の産物である『東京ケイオス・マイソロジー』の、僕が想定していなかった穴を埋め補完するように、不足している要素を追加し綺麗に纏めるようにして、夢は変化していっている。
これは、難易度調整だ。
僕の脳みそを使って、僕の妄想を元に、『誰か』があの世界を完璧な物にしようと調整を繰り返しているんだ。
寝ている時の僕の意識の空白を利用して、だから僕が寝ないと不都合だからと、強制的に眠りに誘ってまで。
じゃあなんで、僕を寝たきりにさせないのか。
そもそもなんで、僕の夢?
ていうか、『誰か』って誰?
分かんない。
分かんない分かんない分かんない分かんない分かんない分かんない分かんない分かんない分かんない分かんない分かんない分かんない分かんない分かんない分かんない分かんない分かんない分かんない分かんない分かんない分かんない分かんない分かんない分かんない分かんない分かんない分かんない分かんない分かんない分かんない分かんない分かんない分かんない分かんない怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい
怖い!!
誰か助けて!!!
なんで僕がこんな目にあわなきゃいけないんだ!!!
昨日なんて! お父さんやお母さん、お姉ちゃんが殺される場面を無理矢理見せられた!!
モンスターに生きたまま食べられる場面だ!!
耐えられるわけない!!!
半年、八ヶ月、一年、三年!!
もう僕は夢の中で五年と三ヶ月も過ごしている!!
分かるんだ!!
夢の中の僕の精神は過ごした年月と相応に成熟していってるのに、夢から覚めたら無理矢理十六歳の僕に戻されている!!
そのあまりの変化に、脳みそが悲鳴を上げている!!
だから夢の中で人の死を見せられても見飽きるほど慣れているのに!
起きてまた夢を見たら、初めて人の死に触れた時と同じ嫌悪感と罪悪感に苛まれていて!!
僕の頭を利用している『誰か』が!!
僕が狂う事を!!
許してくれないんだ!!
なんなんだよ!! 誰なんだよ!!!
なんで!! なんで僕なんだよ!!!
助けてお父さんお母さん!! お姉ちゃん!!
助けて、大河
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8月12日
ついに夢の中で十五年を過ごしてしまった。
十五年間、同じ東京を見てきた訳じゃ無い。
三年を五回繰り返したんだ。
夏の終わりに東京に異変が起きて、最後の一人が死ぬ直前までの三年間を、五回。
僕の頭を利用している『誰か』は、ついに遠慮をしなくなったようだ。
もうここまで来ると、笑うしかない。
目覚めた瞬間に十六歳に戻される僕は、思わず大声と奇声を上げて泣き出してしまい、みんなに心配をかけてしまった。
耐えきれずに両親に夢の話をしたら、明日すぐにメンタルクリニックに行こうと言われた。
やっぱり、妄想と思われているんだろうね。
分かっていたけど、絶望感が凄い。
だんだんと、理解が追いついてきたんだ。
僕の頭の中を利用している『誰か』は、あの光景を、僕の考えた『東京ケイオス・マイソロジー』という妄想を元にした世界を、現実にしようとしている。
その『誰か』はたぶん、できるだけ長くその世界を楽しみたいんだろう。
僕の妄想通りだと、皆すぐに死に絶えてしまうから、そうならないように、難易度を少しづつ調整しているんだ。
今回までの調整では、どう頑張っても三年目を超えられない。
それはそう。
僕の妄想上のゲームでは、プレイヤーは率先してゲームのクリアを目指すという想定でゲームバランスをデザインしている。
何度死んでも聖碑があればリトライできるから、何回も死んで道を覚えてギミックを覚えて、敵の強さを認識して、行動パターンを覚えて、マッピングして、アイテムを揃えて、仲間を増やして、新しい剣を手に入れて、そうして数え切れないトライアンドエラーを繰り返して、ようやくエンディングを迎えられるように、僕は考えている。
僕の好きなゲームから影響を受けているから、当然だ。
どれも難易度が高く、根気良くプレイする事でプレイスキルを上げなければクリアできないゲームばかりだ。
だけどゲームの中のキャラクターと違って、実際の人間は危ない場所には近寄らないし、危険なモンスターは避けるし、死にたくない。
だから誰も、あの廃都を本気で攻略しようとする人なんか居ない。
中には比較的順応が早くて、ある程度の範囲までなら行動を起こす人も居た。
だけどやっぱり、死ぬのを恐れてその行動が慎重になる。
だから間に合わない。
三年目を超えられない。
このままでは、あの世界が僕の脳みそから飛び出してきて、この東京を恐ろしい地獄に変えてしまう。
お父さんも、お母さんも、お姉ちゃんも、学校のみんなも、顔見知りの人たちや、顔も知らない人達が、みんな死んでしまう。
どうにかしなきゃ。
誰も僕の言葉なんか信じないだろう。
夢に怯える高校生なんて、鼻で笑われておしまいだ。
時間も無い。
夢のスタート地点がもし変わらないのであれば、あの世界が現実になるのは夏休みの終わり。
いや、僕の設定では、その予兆は数日前に始まっている。
だからタイムリミットは、たぶん8月17日。
あと5日しかない。
それまでにどうにかしないと、僕のせいで大勢の人が死ぬ。
この東京の人たちが、みんな死ぬ。
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8月13日
とりあえず昨日の夜に僕のノートを全部燃やしてみた。
だけどやっぱりダメだった。
夢の中で三年を十回過ごした。
まだプレイヤーたちは、あの日を超えられない。
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8月14日
夢の中でなんとか世界に干渉できないか、ありとあらゆる方法を試してみた。
三年を十回。どうやらそれ以上は僕の脳みそが耐えられないみたいだ。
三十年、それだけの時間があれば、およそ考えつくことは全て試せた。
昔読んだことのある魔術に関するトンデモ本の内容だったり、ブードゥーの呪文とか、お経とか、漫画に出てきた呪文まで試したけど、なんの効果も無い。
当然だ。
夢の中の僕は意識だけが東京上空を漂っていて、実体を持たない。
だからあの世界に、干渉できるはずが無い。
回を重ねるごとに、理屈でなく感覚として、僕は『誰か』を理解できるようになるみたいだ。
僕の精神が狂うとあの世界をちゃんとシミュレーションできなくなるから、だから僕の精神を無理矢理十六歳に戻して、日中はこっちの世界を味あわせる事で均衡を保っている。
つまり、アイツにとって僕は長く使えれば使えるほど都合が良い訳だ。
僕がアイツに抗えるとしたら、向こうの世界ではなく、こっちの世界。
つまり、僕が死んでしまう事だけなのかも知れない。
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8月15日
今回も三年を十回。
大きな変化と言えば、あの世界を管理運営する存在が現れた事。
システム天使。
僕の妄想では、プレイヤーをサポートするNPC。
チュートリアルだったり、システム面でのサポートだったり、そういうメタ的な部分を補助するキャラだ。
忙しそうに東京中を飛び回り、プレイヤーに助言を与えたり、イベントの進行を担っていたりと、頑張っているように見えるけど、やはり彼女らはNPCで、人の感情の根っこまでは理解できていない。
たぶん、『誰か』がちゃんと人間を理解していないせいだ。
最後の三年。一番最後まで生き残っていたお爺ちゃんが死ぬ直前に、システム天使の一人、一番位が高く設定してあるリーダー格のキャラ、地雷天使レナと、目が合った気がする。
たぶん気のせいだろう。
こっちの世界での僕の抵抗は、全て無駄に終わっている。
一日で回れる全ての神社やお寺に足を運んで、効果のありそうなお札やお守りをありったけ買ってきて、必死に祈ってきたけれど、なんの変化も無い。
明日は、教会に行ってみようと思う。
相変わらず、眠るのが怖い。
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