チュンチュがやってきた!!
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「ぢゅーーーんっ!!」
「ぢゅぢゅぢゅっ!」
「ちゅちゅーん!!」
整地されていない不揃いの地面を、声高らかに。
チュンチュの群れが爆走していく。
「うぉおおおっ!! はええええ!!」
「うっひょーーー!! これ、たーのしー!!」
全部で30羽を越えるチュンチュの群れ。その大きい個体の背中には、開拓パーティーの面々が必死にしがみついてその髪を風に揺らせていた。
「悠理っ! 千春っ!! 大丈夫か!?」
大河が跨がっているのは、さっき千春と対話した群れのボスだ。
ボスはその短いくちばしに太いロープを咥えていて、その先には道に放置されていた軽トラックが繋がれている。
同じようにロープを咥えている二匹のチュンチュと共に、その軽トラックを軽やかに走らせていた。
「だ、大丈夫だけどっ、こっ、これちょっと怖いっ」
「千春は大丈夫です!! チュンチュさん達、みんなを振り落とさないようにちゃんと気を遣ってくれてるみたいですよ!」
軽トラックの運転席には千春、助手席には悠理。
シートベルトをしっかりと締め、ドアに縋りついて身を強張らせている悠理と違って、千春はハンドルをしっかりとまっすぐに固定し楽しそうに笑っている。
(案外、千春の方が肝が据わってるんだな)
そんな光景に破顔した大河は、少しだけ背を浮かせてその後ろ──軽トラックの荷台に居るであろうリミの様子を確認する。
「うへへへへ……可愛いねぇ……暖かいねぇ……もっふもっふのむっちむちだねぇ……」
頬を紅潮させ、薄ら笑いを浮かべながら。
リミは持てる限りのチュンチュの雛を抱きしめて悦に浸っていた。
「すぅうううっ……あー、生き返るぅ……」
時々その小さな身体に顔を埋め、力一杯鼻呼吸を繰り返しているその姿に、若干の恐怖を覚えた。
チュンチュの雛たちの表情も、心なしか強張っているように見える。
(だ、大丈夫……だよな……?)
「大河」
同じくチュンチュの背に跨がって大河の隣を爆走していた海斗が、大河に声をかける。
「こいつらの速度はとんでもねぇな。この調子で行きゃあ、今日中に第一ベースまで戻れそうだ」
「スタミナもあるし、警戒心も強い。前や上空からの奇襲にさえ気をつけていればモンスターも追いつけない速度だし、思ってた以上にこいつら有能だったね」
通常なら咎人の剣を顕現状態にして三日かかる道のりを、半分以下の時間で走破出来うる
戦闘班に充分な余力を持たせた状態で、この距離を二日。
それだけでもチュンチュをテイムできた功績は大きい。
「ああ、だが油断せずに行くぞ」
「うん」
最初に千春と対話したボスが率いる群れ、雛を除いてその数18匹。
近くに居た別の群れも同じように対話でテイムし、大人の個体が35匹。
雛の数を含めると50匹近い大所帯になったが、中野を脱出する計画にはそれぐらいの頭数は必要だったので、これも想定内。
なにも問題は無い。
チュンチュのテイムに成功した事で、千春の表情も行きと比べて明らかに晴れ晴れとしているし、なにより普段の快活な千春に戻ってくれた。
順風満帆。
後は廉造や愛蘭が裏でこっそり進めてくれている中野の住民の帰還事業と、食料備蓄を達成すれば、なんの後腐れも無くケイオスは中野を出る事ができる。
あの都市に対しての未練など、誰一人持っていない。
それだけ辛い思い出が、中野には多すぎる。
「ひゃはっーーーー!!」
「おい秋也!! 前を──っ!!」
「──ぶがっ!!」
「リーダー!! 馬鹿が枝に頭打って振り落とされた!!」
チュンチュ達の軽快な速度にテンションの上げ方を間違えた秋也が、止せばいいのに馬乗りから立ち上がったせいで枝に頭をぶつけて地面に転げ落ちたようだ。
「あの馬鹿!! 本当に見た目だけだな頭良さそうなのは!!」
「おい馬鹿を踏まないように気をつけろ!!」
「なにやってんだ馬鹿!!」
「シュウ! アンタは本当に人騒がせな馬鹿なんだから!!」
心配よりも呆れが勝ってしまったのか、他の開拓パーティーの面々から出てくる言葉は辛辣だった。
「あ、あはは……えっと海斗さん。俺が秋也さんを回収してくるから……」
「たくっアイツは……頼む」
この面子の中で、チュンチュの速度に勝てるのは大河しか居ない。
苦笑いを浮かべる大河はすぐに災禍の牙を顕現し、チュンチュの背中から飛び降りて秋也を拾いに走った。
他の一同はそんな大河を見ながら、思い思いにため息を溢したのだった。
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「おかえりーーー!!」
「すごいすごいすごいすごい!!」
「でっかいスズメ!!」
「可愛い!!」
「かっこいい!!」
「いっぱいいる!!」
「ほらみぃちゃん!! 鳥さんだよ鳥さん!!」
「ちっちー!!」
翌日、チュンチュ達の速度のお陰で日が落ちる前に第二小に帰還できた開拓パーティーを、子供達が熱烈に出迎えた。
「うぉおお……なんつーテンション……」
「ちょ、お前らちょっと待てっての!」
「はいはい! チュンチュたちも疲れているから、今日はまず休ませてから──!!」
キラキラと目を輝かせてまとわりつく子供達の圧に、開拓メンバーは押されっぱなしである。
「愛蘭さーん!!」
「助けてくださーい!!」
大河と千春の懇願に、正面玄関で腕組みして足っていた愛蘭は苦笑いを浮かべるだけだ。
「ご、ごめんねみんな。昨日大河からのチュンチュのテイムに成功したってメッセを聞いてから、もうウチらでも子供達を止められなくて……」
「昨日は疲れて寝落ちするまで大騒ぎだったし、今日は起きてからずっと同盟の子供たちも巻き込んでお祭り騒ぎで、しばらくはこのままかな?」
愛蘭の言葉に瞳が補足して、やはり困ったように笑うだけだ。
「名前! 名前足りなくなっちゃったね!!」
「どの子がクラウドくん!?」
「この子がアリスちゃんで良い!?」
「ていうか、どれが男の子でどれが女の子!?」
「リーダー! あっち! あっちにね! 建栄さんが飼育小屋を造ってくれたんだよ!!」
「校舎の裏側のね!! 草がいっぱい生えてた中庭あったでしょ!!」
「アタシが案内してあげる!!」
「僕も!!」
「ねぇねぇ乗せて乗せて乗せて乗せて!!」
「あっ!! ずるい!! 俺も乗せて!!」
「リミ姉ちゃん!! それなに!?」
「チュンチュの赤ちゃん!?」
「赤ちゃん!? ほんとう!?」
「抱っこさせて!!」
「可愛い!!」
「ちっさいね!!」
「みぃちゃんよりも大きい赤ちゃんだね!!」
やんややんやと、子供達のテンションは指数関数的に上がり始めていく。
その熱量たるや、百戦錬磨の開拓パーティーの面々が徐々に後ろに押されていくほどだ。
「おいお前らちょっ──痛い痛いっ! よじ登るなって!」
待ちきれなくなってしまった男の子達が、海斗の長い足をたぐり寄せてチュンチュに登ろうとしている。
「待ってみんな! チュンチュさん達怖がっちゃうから!!」
「落ち着いてくださーい!! 落ち着いてー!!」
軽トラの中から悠理と千春が幾ら声を張り上げようにも、子供達は聞く耳を持たない。
「ぢゅん!!」
「ちゅんちゅーん!!」
「ちゅちゅちゅっ!!」
救いだったのは、チュンチュ達が怖がるどころか何故か楽しそうだった事──いや、そのせいで子供達のテンションがMAX方向に振り切ってしまい、最早完全に収拾がつかなくなってしまったので、救いでもなんでもない。
「お前ら!! 待てってば!!」
長い間気を持たせてしまったのは確かに開拓パーティー、大河が悪いとは言え、こうまで暴走するとは思っていなかった。
まさか子供達のテイムモンスターへの期待感がこれほどまでとは。
この大騒ぎはもう1時間ほど。
業を煮やした愛蘭の本気ギレの一喝が第二小全体に響くまで続いた。
その混乱足るや、筆舌に尽くしがたい様相だったと言う。




