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第三十六話 あ~あ、やっぱりねぇ…

1


或る日の昼下がり、窓際サラリーマン山田一郎は早退した。

理由は……、

「笑わないでよ。2012、が観たかったの。子供じみてるけど、好きナンです」

テレビで広告が随分流れていた。

コマーシャルを視る度に期待がドンドン増してくる。

しかし、此の伝の映画が期待はずれであることも十分に知っている。

知っているから自問自答を繰り返す。

「おい一郎、思い出せ」

「わ、わかっているよ」

「こら、ひと言で片付けるな」

「へいへい。あれだろう。それからあれだろう。ほんでもって、あれだろう。そうそう、あれもだ」

と、長いときは三日ぐらい繰り返す。

そして最後に、“否、この映画は今までとは違う。きっと満足できるはずだ”と自ら納得して、否、納得させて出かけてノコノコと出かけていく。

まあ、出す結論は端から決まっているのだが、1800円を出費するに当たっての儀式のようなものだ。

そして映画が始まって十分もすると、今度は後悔が始まる。

「なあ、だからいっただろう」

「はいはい、あんたが正しい」

でも誰でも期待するよね、コマーシャルで流される場面以上のものを。

昔はそうだった。

最高の場面を見せることはなかった。

それがどうだ、最近は惜しげもなく晒しやがる。

ほんでもって期待しながら観ていると、それ以上の場面はありゃしねぇ。

なんだ、なんだ、まったくよぉ。

場末のストリップだって、いきなりガバッってことはねぇぞ。

わかった、わかったよぉ。

テレビコマーシャルを視ればわざわざ劇場まで金を払いに行くことはねぇってことがよぉ。

こんなこっちゃ昔の二の舞になるぞ。

ほれ、思い出せ。

映画の黄金期から凋落期に入ったあのころを、よぉ…。

「あのときはテレビという強敵が出現したからだ、だって?」

チッチッチッ…、まだそんな寝言をいっているのかい。


2


質だよ、質。

“しち”じゃねぇかンな、“しつ”だかんネ。

一年間にいったい何本映画を撮っていた?

ええ、いってみろよ。

けけっ…、プロとして恥ずかしくっていえねぇだろう。

粗製濫造、粗製濫造、粗製濫造……。

「なに、その言葉だけは止めてくれ、だって?」

けけけっ…、粗製濫造、粗製濫造、粗製濫造……。

止めないもん。

主演も脇役も同じで、内容だって、“どこが違うのよぉ”てなモンだった。

どんな馬鹿、あいや、どうも失礼。

ええと、心優しい観客だって、いいかげん飽きるわな。

映画館へはなにをしに行くと思っているンだか。

まさか皆さんの苦労に対して、“ご苦労様、これ少ないけれど取っておいて”と行くとでも思っているの?

だとしたら、大間違いのコンコンチキだぜ。

「うんうん、はいはい、なんだって? えっ、期待はずれなのは洋画で、邦画じゃねぇだろう、だって?」

あっ、へっ…、うん、えっへん、今年は十二月になっても暖かいねぇ。

これも温暖化の影響かねぇ…。

そういえば砂漠に大雨が降って洪水を引き起こしているそうだねぇ。

砂漠の民は洪水ってモンに慣れていないから大変だろうねぇ。

それにしても世界中で、困った気候が続いているねぇ。

あ~あ、今日も充実した一日だったな。

さて、そろそろ帰ろうかな。

「えっ、とぼける気か、だって?」

いったいなんの話しぃ~?

「2012は洋画だ、邦画の悪口をいうな、だってぇ~」

今の時代にネ、洋画だ、邦画だなんて拘っちゃ駄目ですよ。

世界は一つ、家内安全、交通安全、犬も歩けば棒に当たるだかんネ。

あ~あ、疲れた。

後は民主党に任せているから、では、私はこれで……。


御仕舞


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