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第三十五話 くらぁーッ! 顔を上げて歩け

1


早朝のJR日暮里駅ホーム……。

窓際サラリーマンの山田一郎は乗り換えのために京浜東北線のホームへと急いでいた。

「モタモタしねぇでとっとと歩け、馬鹿野郎……」

と山田が呟く。

もちろん、前をノタノタ歩く相手には聞こえないようにだが……。

なにしろ山田は気が小さく、なによりも争いごとが嫌いだった。

しかし、人一倍気は短い。

「おっと、危ねぇ…」

と身を交わすと、正面から歩いて来た若い男がジロッと睨んだ。

それで、

「あっ、ごめん」

と思わず謝り、ととと、なんで俺が謝るンだ、と後悔する。

「うっ」

階段の上り口で前がつかえて山田が立ち止まった瞬間、後ろから誰かがぶつかった。

当然あると思った、“ごめんなさい”の一言がない。

チラッと振り返るとひ弱そう大学生風の男だったので、山田は睨みを利かせた。

目と目が合ったが、その男は視線を逸らし、無視、無視、虫。

まるで電信柱でも見るような、そんな感情のない目だった。

相手が弱そうに見えたので、一瞬行こうかと思ったが、まあまて、

― 山田一郎、年齢五十八歳、早朝のJR日暮里駅ホームで暴力事件……云々、相手が死亡……云々、懲戒免職……云々。

との新聞記事が頭を過ぎり思い止まった。

まったく今時の餓鬼は謝りもしねぇ、いったいなんナンだ、まったく……。

いい気になって、オジサンたちを舐めていると痛い目に遭うぞ。

そうなってから泣いても知らねぇぞ。

と呟いて自らを慰めた。


2


電車のホームを歩きながら、道路を歩きながら、階段を上がりながら、階段を下りながら、一心不乱に携帯電話の画面を視ている。

・・テレビは視るだから、携帯電話の画面も“視る”でいいのかな?・・

せめて歩いているときぐらい、しっかり正面を見て歩けよ。

電車で座ればすぐに狸寝入りを決め込むか、携帯電話の画面に見入るか、馬鹿の二つ覚えだ。

まあ、どっちにしても、老人が目の前に来ても、例えそこが優先席だったとしても、

『寝ていて気がつきませんでした』

或いは、

『携帯の画面に集中していて気がつきませんでした』

と、席を立たない理由はつけられるわな。

それで目指す駅に着くと全員がパッと目を覚ます。

酔っ払い以外、乗り過ごした奴を見たことがない。

そんな都合のいい話があるか、外国人が不思議に思っているぞ。

それにしても日本人は、いつからこうも総白痴化したのだろうか……。

前にもいったけど、あんたら怖くないの?

そんなに他人を信用していいの?

自分の性格をよく分析してごらん。

それで、周りの奴らがあんたと同じような性格だと仮定してごらんよ。

駅のホームから落ちたらどうなる?

階段から落ちたらどうなる?

車道に飛び出しらどうなる?

ほら、とてもじゃないけど、携帯電話の画面を視ながら歩いている場合じゃないだろう。

あんたと同じ性格異常者がウヨウヨいるンだよ。

「あんだって、俺は性格異常者じゃない、だって?」

アホかあんたは、それを判断するのは世間様だよ。

なあ、ネエちゃんたち、アンちゃんたち、携帯遊びは家でやりなよ。

みっともないだろうが。

「あん、誰に対してみっともない、だって?」

ん? 確かに、日本人全員が白痴ならみっともなくない、か……、なるほど、一理ある。

でも外国人は?

「なに、外国人はそんなに立派な人間ばかりか、だって?」

うーん、そういわれてみれば、そうとも言い切れない、なるほど、一理ある。

「なに、だいたい他人なんか関係ねぇ、だって?」

なるほど、他人の目などきにしないというわけだな。

ふむふむ、なるほど……、それも一理ある。

これで三理になったな。


3


よし、わかった。

じゃあ百歩譲って、百歩譲ってだ……、さっきの話はどうなる。

「なに、さっきの話ってなんだ、だって?」

あんたと同じ、すぐに切れる奴が周りにウヨウヨいるとゆう話だよ。

どうだ、怖いだろう。

「別に、だと?」

く~う、おまえらには感情というものがない、否、ねぇらしいな。

「なに、他人は他人、だって?」

おおそうかい、そうかい。

おまえの分身みてぇな奴にホームから突き落とされて、目の前に電車が迫ってから後悔するなよ。

階段でちょいと足を引っ掛けられて、両足が地から離れた瞬間の恐怖に直面して凍り付いても始まらねぇぞ。

後ろから押されて、突進してくるダンプカーの前にフラフラッと飛び出して、運転手の吃驚した顔とご対面、小便漏らしても知らねぇかんな。

それからなぁ、それから……、ほんとに怖いのはなぁ…、普段は大人しい小父さんたちが切れたときだかんナ。

なにしろ戦争、……ん?

「あんた幾つだ、だと?」

五十八歳と十ヶ月と一日だ、文句あるか?

「それじゃ、戦争なんか行ってねぇだろう、だって?」

馬鹿者、黙って聞け。

なにしろ戦争の、……へへっ…、話しを聞いて育った年代だ。

文句あっか?

「なに、ずるい、だって?」

それがどうした、大人はずるいものなのだ。

馬鹿者メ、大人を舐めるな。

わかったか、そのくらい大人はずるくて怖いものなのだ。

こら、行くな、大人の薀蓄に富んだ話しを最後まで聞きなさい。

ああ、行っちゃった。

最近の餓鬼は辛抱が足りんな。

はてさて、この先日本はどうなることやら……。

困ったモンだ。

あれ、なんの話しだったかな……、はて?



御仕舞


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