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冷徹令嬢は王国最強戦力たちを乱しがち。最強魔導騎士は今日も赤面しています  作者: 荒木カルメン
第2章 動き出したもの

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第32話 思いと行動

次の朝、男たちは妙な緊張感のある空気をまとっているような気がした。

ガイウス以外は。

朝食を終えたあと、廊下を歩いていると、ガイウスが気軽な調子でリゼリアに声をかけた。

「リゼリア、帝国に興味はあるか」

「はい。今も始祖関連の資料を読もうとすると、非常にもどかしい思いをしています。翻訳だと解釈が入りますから、やはり帝国語をしっかり学びたいという気持ちが強くなってきています」

「そうか。帝国に留学するのも、リゼリアには良い機会になるだろうな。もし本気で考えるなら、俺に任せておけ。すべて手配するから心配はいらないぞ」

「ありがとうございます。頼もしいですね、殿下。機会があれば、ぜひともと思います」

「ん? リゼリアが行きたいと今言うなら、俺はすぐに機会を設けるぞ。俺が帰る時に、一緒に行くか?」

「はは、さすがですね。では、学園卒業後などはいかがでしょうか。父にも、陛下にも確認をしなければなりません」

「俺は、帝国はいつでもリゼリアを歓迎するぞ。楽しみだな」

「はい」

そのやり取りを、ラインハルトは少し後ろで黙って聞いていた。

「リゼリア、ガイウス殿下」

声をかけると、二人が振り返る。

「ラインハルトか。今、リゼリアに帝国へ興味があるか聞いていたところだった」

「すみません。聞こえていました。リゼリア、少し話せるだろうか」

「はい」

「頑張れよ、ラインハルト」

ガイウスがにやりと笑った。

「ガイウス殿下はルーク並みに行動が早いので、私も速度を上げなければならない」

「ははは、光栄だ」

ガイウスは楽しそうに笑うと、軽く手を振った。

「また後でな、リゼリア、ラインハルト」

「はい」

ガイウスが離れていくと、廊下には二人だけの静かな空気が残った。

「リゼリア、時間を作ってくれてありがとう」

「いえ、こちらこそ。殿下の方がお忙しいでしょうに、ありがとうございます」

ラインハルトは少し息を整えてから、リゼリアを見つめた。

「私の婚約者候補についてだ」

リゼリアの表情が、少しだけ引き締まる。

「小さいころ、私が妃にするならリゼリアがいいと父に話した。それから、君には婚約者候補になってもらった」

ラインハルトは、言葉を選ぶように続けた。

「だが、君はどう思っている?」

「わたくし、ですか」

「ああ。今回、ノアの存在が始祖に関連し、聖王国の血統にも関わる可能性が出てきた。それを聞いて、リゼリアと王家との婚姻は、想像以上に危険を伴うかもしれないと懸念した」

ラインハルトの指先が、わずかに震えていた。

「だから、君が婚約者候補を取り下げたいのであれば、私はそうしようと思う。他に好きな人がいるのなら、その気持ちも尊重したい」

リゼリアは、しばらくラインハルトを見つめた。

その声は落ち着いていた。

けれど、わずかに震えていることに気づく。

「殿下。申し訳ありませんが、わたくしにはまだ、好きな人と呼べる方はいません」

ラインハルトの瞳が少し揺れた。

「婚約者候補については、あくまで候補であり、何かが決定しているわけではないと、このお話をいただいた時に父から聞いています」

「……そうだな」

「危険が伴うのは、どの状態でも同じなのではないかと思います。ですから、殿下がお相手をスザンナ様に決めた場合、または、わたくしに好きな人ができた場合に、候補を取り下げていただければと思うのですが、いかがでしょうか」

ラインハルトは、リゼリアの言葉を静かに受け止めた。

それから、少しだけ苦しそうに笑う。

「それは、君が私を好きになってくれる可能性もあると考えていいのかな」

リゼリアは、すぐには答えられなかった。

ラインハルトは一歩近づく。

「私は、昔から変わらず君が好きだ」

その声は、王太子としてのものではなかった。

幼いころからリゼリアを見てきた、一人の少年の声だった。

「君のことを思って行動してきたつもりだった。だが結果として、今まで君を傷つけてしまっていたこともある」

「殿下……」

「だから、もう後悔したくない。これからは、君のそばで、君の意見をきちんと聞いていきたい」

ラインハルトの瞳は、まっすぐだった。

熱を帯びた視線に、リゼリアの胸がどきりと鳴る。

ああ、こういうタイミングなのか。

ラインハルトは、リゼリアを抱きしめたいと強く思った。

けれど、その衝動を抑える。

昨日の夜の会話が、頭をよぎった。

相手の意思を確認すること。

守ることと、囲うことは違うということ。

ラインハルトは、伸ばしかけた手を一度止めた。

そして、少し困ったように笑う。

「……リゼリア。触れてもいいだろうか」

リゼリアは少し驚いたように目を瞬かせたあと、小さく頷いた。

「はい」

その返事を聞いてから、ラインハルトはそっと片手をリゼリアの頭の上にのせた。

軽く、銀の髪を撫でる。

「昔は、同じくらいの背丈だったんだがな。成長とは、あっという間だ」

その声があまりにも優しくて、リゼリアの鼓動がさらに速くなる。

ラインハルトは、もう片方の手を伸ばしかけた。

肩へ。

あるいは、そのまま引き寄せるように。

けれど、その瞬間。

「殿下」

カイルの声がした。

「……なんだ」

ラインハルトの声は、少し低かった。

不機嫌なのが、分かりやすいほど伝わってくる。

「国王陛下のところへ行くお時間です」

「あと少しだけ待ってくれないか」

「今から起きることを、私は記録しますが、よろしいのでしょうか」

「記録は必要ない」

「そうでしたら、今から行きますよ」

ラインハルトは小さく息を吐いた。

「リゼリア、すまない。また後で」

「……はい」

リゼリアはカイルの方を見て、丁寧にお辞儀をした。

正直、とても助かった。

このままだと、抱きしめられていたかもしれない。

そう思うだけで、鼓動がさらに速くなる。

こんなにラインハルトと話していて緊張したことが、今まであっただろうか。

昨日は、ルークと一緒にいて胸が高鳴った。

そして今は、ラインハルトの視線と声に、心が揺れている。

私は、この二人のことが気になっているのでしょうか。

リゼリアは、自分の胸元にそっと手を添えた。

まだ、答えは分からない。

けれど、分からないまま目を逸らすことは、もうしたくないと思った。


「カイル」

「何でしょう、殿下」

「わざと、あのタイミングだっただろう」

「そんなことはありませんよ」

カイルはいつものように笑っている。

けれど、目は少しも揺れていなかった。

「昨夜、ルークがなぜ抱きしめるときは確認をするって話をしてたな。少し分かった気がする。こういう機会だな」

「そのような機会が、すでにルーク君にはあったということでしょうね」

ラインハルトの眉がわずかに動く。

「……なぜ、私は止められた? カイルはルーク側か?」

「いいえ」

カイルは即答した。

「リゼリア様側です」

ラインハルトは黙った。

「先ほどの場面で抱きしめれば、リゼリア様は戸惑われましたよ」

「そうか」

ラインハルトは、少しだけ目を伏せた。

「なら、私が間違わぬよう助けてくれたのか?」

「どうでしょう」

「お前はそういうところがあるな」

「褒め言葉として受け取っておきます」

カイルはさらりと返したあと、少し声を落とした。

「それはそうと、リゼリア様は帝国行きに大変前向きでしたね」

「……ん? カイルはいつから私のそばにいた?」

「朝食後からですよ」

「リゼリアとの会話も、最初から聞いていたのか」

「たまたま訓練しておりました」

「さては隠密の成果か」

「はい。自然に気配を薄くする訓練です」

「そうか。訓練熱心で何よりだ」

ラインハルトは呆れたように言ったが、その声には少しだけ笑みが混じっていた。

カイルは何も言わず、ただ涼しい顔で歩いている。

「……カイル」

「はい」

「私は、少し意識をしてもらえているだろうか」

「どうでしょうね」

「焦ってはだめだな」

「そうですよ」

ラインハルトは小さく息を吐いた。

廊下の先には、国王の執務室へ続く扉が見えている。

「リゼリアは、帝国に行きたいと言った。ルークには自然に笑う。私には、まだ少し緊張している」

「はい」

「だが、変化する可能性はあるとみた」

「殿下、言い方は変わっていますけど、同じ内容を繰り返していますよ。乙女ですね」

「うるさい」


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