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冷徹令嬢は王国最強戦力たちを乱しがち。最強魔導騎士は今日も赤面しています  作者: 荒木カルメン


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第1話 冷徹令嬢は出会う近距離で

俺と彼女の出会いは衝撃だった。そして運命…だったと思う。


。。。たぶん。


離したくない。体が本能的に動いた結果だった。




◇◇◇


春の夕暮れ。王立学園の庭園では新入生歓迎パーティが催されていた。


王立学園は王国中の貴族子女と、才を認められた若者たちが集う場所である。


課程は特別クラス、貴族科、騎士科、魔術科の4つ。3年間この学園で過ごし、卒業後は王国のあらゆる場所で活躍していく。王国の英知が詰まった最高教育機関であり、生徒は寮で生活するため幾十の結界によって安全は保障されている。




その学園の学園長室には学園長、王国騎士団団長、騎士科教師主任、そしてこの国で最もやんごとなきお方が一枚の資料に目を通していた。




ルーク・デ・バルケラ、騎士科1年生、


7歳の頃より王国筆頭顧問騎士のゼノスに師事。王国の国境や僻地、戦地の前線で功績を挙げる。その姿から王国最強戦力と呼ばれる魔導騎士。ゼノスの推薦にて入学を決意。




◇◇◇


 焼き菓子や果実水にサンドイッチなど軽食が並べられたいくつもの円卓を囲むように生徒は談笑を楽しんでいる。お祝いの席なため、皆が華やかな服を着飾っており、色とりどりのドレスは春の風に軽く揺らされていた。




庭園の中央には王太子ラインハルトが立っていた。黄金色の髪に誰もが見惚れるほどの整った顔。王国でも大変人気高く、穏やかに微笑むその姿はすでに次代の王を思わせる風格がある。




ラインハルトが深呼吸をし一歩前にでると周りは自然と静まる。


「本日、王立学園に新たな仲間を迎えられたことを嬉しく思う。身分も才能も異なる者たちが互いを知り支えあい、時には競い合う。その経験こそが、王国を支える力となる。」


令嬢たちは頬を染め、男子生徒たちも背筋を伸ばした。




「どうか実りある学園生活を送ってほしい。困ったときは教師だけでなく、上級生も頼ってくれたら嬉しい」


会場のあらゆるところからの拍手。拍手が鎮まるとラインハルトの周囲にはすぐに人が集まり始めた。「殿下、本日のご挨拶、とても素晴らしかったですわ」


「ぜひ、先ほどのお言葉をもう少し詳しくお聞かせくださいませ」


ラインハルトの人柄もあり、人を多く惹きつけていた。




その少し先に王太子とは正反対の立場の令嬢がいた。


周囲に誰もいない静かな空間はその令嬢の美しさを際立たせていた。




リゼリア・フォン・アスター公爵令嬢。




3名いる王太子の婚約者候補者の1人。王国一の美女と噂されるほどに。聡明で完璧な振る舞いなのだが、人々は距離を置く。笑みをみたことのある者がいないからだ。




令嬢達が扇の陰で声を潜める。


「冷徹令嬢が視界に入ると殿下の放つ光彩がかすむわ。暗い雰囲気になる。」


「お祝いパーティですのに」


近寄りがたい。何を考えているかわからない。


冷徹令嬢、無機質令嬢などと巷では呼ばれていた。リゼリアは慣れている。


そして気にしてはいないし、無理に笑えないので社交的に動こうともしない。




「リゼリア」


リゼリアに気づいた王太子は声をかけ少し近づこうとした。


「殿下」


リゼリアは、すかさず綺麗に静かに美しく一礼した。だが、その前に数人の令嬢達がラインハルトの周囲へ滑り込むように集まり2人を遮る。


「殿下、こちらの新入生がぜひ殿下にお声をかけていただきたいそうですわ」


露骨ではないものの、リゼリアを遠ざけようとしているのはわかる。


「失礼します」


とリゼリアは会釈をし、その場を離れた。ユリアスは恐らく同級生と話しているようね、あとで挨拶をしましょう。今は静かな場所へ…。ユリウス・フォン・ラレドはリゼリアの弟で、年子であるためユリウスは学園に今年入学した。




その時、空気が歪んだような嫌な感覚にとらわれ、空を見上げると結界のほころびと黒いもやが現れた。急に騎士や教師たちの足取りが慌ただしく何かが起きることを予感させていた。




ぱきん、と小さな音がしたが結界からだろうか。


次の瞬間、郵便用の小型飛竜が学園上空に位置し急降下していた。本来は温厚で人に慣れている。また馬と同じくらいの大きさで後部に配達人と配達物を乗せたそりをつけられている。ただ、飛竜は曲がりなりにも竜だ。翼は大きく、牙もあり、爪は鋭い。その飛竜は目は赤く濁り、首にある登録通行紋は黒い煙が立ち不自然な魔力が漏れていた。




庭園が一瞬にて混乱に包まれた。


「逃げろ」


教師たちは生徒を誘導し、王国騎士はばらけて戦闘態勢をとる。


動きは早く対応が良かったといえ完璧ではない。風が舞い、砂埃がたち動けなくなるものも多くいた。




リゼリアは立ち止まった令嬢達に結界をかけ、鎮静魔法を全体に展開した。ユリウスのほうが効果は強いけど、私でも足しにはなるでしょう。




そう思っているとラインハルトの声が響いた。


「リゼリア!!!」


彼は叫び一歩踏み出しているが、護衛騎士が止めた。


「殿下はお下がりください」


護衛は強制的にラインハルトを用意した結界内に引き戻している。




リゼリアは殿下の視線の先を振り返るとそこにはリゼリアに向かってくる飛竜が目に映った。


操られている?


飛竜が飛び向かうのが速く解呪は間に合わない。




 庭園の入り口側から風を裂く音とともに一人の少年が走っていた。


新入生歓迎パーティの会場に今たどり着いたのは、ルーク・デ・バルケラ、騎士科一年生。


彼は遅れて庭園に向かっている途中で結界の異常を確認した。


そして次の瞬間には走りだし、その目は少女と飛竜を捉えていた。




飛竜は何かしらの異常状態であり、腰の剣は抜くべきではない。


ルークは地面を蹴った。


加速しあっという間に飛竜の横に回り込んでいた。


飛竜が爪を向けるもルークは身を沈め、避けて前脚へ手を伸ばす。飛竜の重心をとらえた感触があると、飛竜の勢いにあわせて前脚をずらす。巨体が揺らぎ、突進の軌道がわずかに逸れた。




ルークは足元に小さく魔力を乗せて跳んだ。空中で体をひねり、飛竜の首筋の紋に手をかざし黒い術式のみを破るため、雷線を紋にあてた。


カチっと術式の一部が壊れたような音がしたが、飛竜の赤い目は少女をみつめている。




ルークはそのまま飛び上がり飛竜よりも高い頭上にあがると飛竜の後頭部に位置する鱗の隙間に手刀を力強く叩き込んだ。神経の通り道を正確に狙った一撃で飛竜の体がびくりと震える。赤い目が揺らぎ、翼から力が抜けた瞬間、飛竜はゆっくり崩れ落ちた。




息を呑んで見守っていた庭園の周囲にいる者たちが安堵しかかったが、終わりではなかった。


倒れる直前に飛竜の喉奥に残っていた黒い魔力が弾け、黒い炎となってリゼリアに向かう。


リゼリアは結界を張ろうとしたが、突然すぎて反応に遅れる。


その瞬間ルークは飛び込み手から出した青い炎で黒い炎を打ち飛ばし、


リゼリアの体を思い切り抱きよせた。




勢い良く地面に落下する衝撃を和らげるためルークはリゼリアを両腕でさらに抱き込み内側へ隠し庭園の芝生を転がった。


数回回転した後、ルークは最後に自分の背中で衝撃を受け止まった。




音のない世界。




リゼリアは目をあけた。




自分の下に知らない少年がいる。




その少年の大きな両手はいまだリゼリアを守るかのように強く抱きしめ暖かな人のぬくもりを感じていた。リゼリアの髪が、彼の頬に触れており、お互いは目を見つめあっている。




二人とも動けなかったが正しい表現なのだろう。


先に我に返ったのはリゼリアだった。




「ありがとうございます…」


声が少し震えている。




それから、はっとする。自分を庇った少年は炎も近かったし地面に落下した時に背中を打っている。




リゼリアは身を少し起こし心配そうに彼を覗き込んだ。


「大丈夫ですか?」


 少年のハニーブラウンの瞳はリゼリアを映し、その瞳が大きく揺れた。


◇◇◇


どくん。どくん。どくん。




彼自身にも聞こえるほど、心臓が大きく鼓動した。


自分の目の前にいる少女は心配そうに真っすぐに自分を見つめていた。




どくん。自分の心臓がうるさい。




戦闘中に感じる高揚とは違う。敵の殺気を読んだ時の緊張とも違う。


少年は自分の顔や耳、首までも一気に熱を帯び赤らんだことがわかった。




彼はゆっくり両手をあげ自分の顔を覆った。




「だいじょうぶです。。。たぶん」




リゼリアは瞬きをした。  。。。たぶん?


顔を隠す理由は怪我?顔周囲は赤く、心拍も上昇、どこか骨折して炎症で熱が生じているのか…




「失礼します、少しみせていただけますか。」




いまだルークの上体の上にいたリゼリアは離れようと、ルークの肩のそばに手をついた。


より顔が近くに位置した。ルークは反射的に顔を隠すために置いていた両手を再びリゼリアの背中にまわすと、少し弱めの力で抱きしめる。


彼女が痛くないように、壊れないように。


とっさの行動は自分でも予期できなかった。




完全に無意識だ。




こんなに心臓が高鳴って苦しい状況なのに、この時を失いたくないと思ったのか。答えはわからない。




「まだあぶない。。。たぶん」




完全に横たわって赤面している人がいう理由としては無理があった。




「心配してくださってありがとうございます」




わずかに微笑んだ冷徹令嬢を、赤面の少年も王太子も周囲の令嬢たちも見逃さなかった。 

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